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序章:霧の都

暗い闇の路地裏。


昼間でさえも薄暗いこの路地裏。


今は夜なので一歩先も見えない。


何が出るか分からない状態である。


その路地裏で小さな明かりが点いた。


小さな炎で、ジッポー・ライターから出ていた。


その小さな炎の光で、オレンジ色になった金糸の髪が見えた。


瞳はサングラスで分からないが、男の顔立ちであった。


ただ右目が少し垂れていた。


年齢は20代前半という所だから青年という所だ。


その男は、口に煙草を銜えていた。


ジッポーを閉じると、また暗い闇になった。


だが、煙草が燃える光だけは、僅かな、一抹の希望とも言える光を放っていた。


フゥー


青年が白い煙を吐いた。


壁に背を預けていた男が身を放して、路地裏から姿を見せた。


満月が出ている夜なので、青年の姿が鮮明に見える。


黒いコートに黒いスーツ姿だった。


金の髪は、綺麗に切り整えられており、白い肌は欧州人独特の肌触りを思わせる。


紺色のサングラス越しからでも解かる鋭い瞳は、獲物を見つけた猛禽類のようで、眉も剃刀のようだった。


青年は月明かりで照らされた道を歩きながら煙草を吸った。


青年の履いた革靴の音だけが夜の街に響き、余計に静けさを印象付けている。


少し歩いて足が止まった。


横の壁には、BAR「バラライカ」という名前が書かれていた。


青年はドアを開けて中に入った。


BARの中には、3人の男と1人のバーテンダーが居るだけであった。


音楽は掛けられておらず、酒と煙草の匂いが音楽の代わりだった。


青年はカウンター席に腰を降ろした。


「何にしますか?」


「スコッチ・ウィスキーのグレーン。オン・ザ・ロックで」


「ふっ。スコッチをストレートで飲めないのかい?」


青年に背を向けて、煙草を吸いながらカードをしていた男が笑った。


「ストレートで飲む奴は、馬鹿な証拠だぜ?」


「そうかい?」


青年はフゥーと唇を細くして煙草を吐いた。


「ストレート・フラッシュだ」


右側に座っていた男がカードを並べた。


「へっ・・・悪いな」


煙草を吸っていた男が笑いながらカードを出した。


「ロイヤルストレート・フラッシュか。・・・・・運を使い果たしたな」


「所で、あんた・・・・何者だ?ここは、アイルランド人だけの酒場だぜ」


「なぁにちょっとした仕事で来たのさ」


青年は、煙草に新たな火を点けて答えた。


同時にロック・グラスに入ったスコッチ・ウィスキーが渡された。


「ほぉう。こんな夜更けまで仕事とは忙しいんだな?」


「あぁ。ここ最近は、残業ばかりで嫌になる。まぁ、今日もそれで終わりだ」


ここに居る下種共を皆殺しにして終わりだ。


そう青年は言って、グラスを扇ぐ。


そしてカードをしていた男が振り返った。


その手には小型の飛び出しナイフ---ジャック・ナイフが握られていた。


だが、ウィスキーを左手で飲んでいた青年の手には、グラスではなく黒い拳銃が握られていた。


6連発式のリボルバーだった。


パリンッ


グラスが床に落ちて割れる音と同時に一発の銃声がした。


部屋を真っ赤なルージュのように染め上げる赤い血が噴き出す。


と同時に男の後頭部がザクロのように弾け飛び、血肉が地面に倒れる音が木霊した。


カードをしていた二人も拳銃を取り出し発砲した。


バーテンダーの姿は無い。


青年はカウンター席から飛び跳ねるようにして、銃弾を避けた。


そして左手に持ったリボルバーのトリガーを引いた。


4発の銃声が店内に響いた。


銃を撃っていた男達は、胸に2発の弾丸を受けて息絶えた。


「・・・・・・・・・・」


青年はリボルバーをスイング・アウトさせて弾を一発ずつ手で排出して空薬莢をコートのポケットに仕舞った。


そして排出した空薬莢が装填されていた所へ新たに弾を足した。


弾は38スペシャル弾だった。


全てのシリンダーに弾を装填した。


シリンダーを元に戻した青年は、カウンターを飛び越えて酒棚を横に動かした。


中には大量の武器が隠されていた。


「やはりな。近い内にテロをすると聞いていたが、RPGまであるとは・・・・・・・・・・」


ライフルなどの他にもRPGなどの対戦車砲もあった。


もしも、これがテロに、街中で使われていたら甚大な被害を及ぼした事であろう。


青年はスーツの上着に手を入れて折り畳み式の携帯を取り出した。


そして番号を入れると何処かに掛けた。


「仕事は終わりだ。直ぐに“肉屋”を寄こせ。残りの報酬は、ちゃんとスイス銀行に振り込んでおけよ?」


そう言って携帯を切った青年は店を出ようとした。


しかし、リボルバーを壁に向けて一発撃った。


壁に一発の弾丸痕が出来、音を立てて罅が入り壊れる。


壁からバーテンダーが出て来た。


額に小さな穴を開けてサブマシンガンを地面に落とした。


サブマシンガンは、“蠍”の異名を持つスコーピオンVz61だった。


「ほぉう。中々の代物だな」


青年はリボルバーをコートの中に仕舞い、スコーピオンを取り上げた。


チェコ製のサブマシンガンのVz61は、7.65mm×17弾、即ち32A.C.P弾を使用する。


この為、他のサブマシンガンに比べて集弾率が高く一ヶ所の場所に何発も撃ち込め、操作性も楽だ。


このスコーピオンの由来は付属のストック(銃床)を折り畳む際、前方に回転して畳み込むからだ。


この容姿が蠍の尻尾に似ているとして名づけられた。


取り上げたスコーピオンを懐に仕舞うと青年は一枚の銀貨を後ろを向いたまま投げた。


見事にグラスの中に収まる銀貨。


「酒代だ」


それだけ言い残して青年はドアを開けて消えた。


そして霧深い都の中へ姿を消したのだった。


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