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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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姉の罠で愛する人から憎まれ、牢獄に入れられた結果、聖女として覚醒しました。では、きっちり仕返しさせていただきます。

作者: 有郷 葉
掲載日:2026/06/19


 私の名前はクレスタという。前世はこことは異なる世界の日本という国で女子高生をしていた。そこで非業の死を遂げた私は、とある伯爵家の次女として、この中世西洋風の世界に転生する。


 そして、不運はこちらの世界でも続いていた。

 十四歳の私は現在、城の地下牢に入れられている。


 発端は侯爵家のスコット様の事件に遡った。スコット様は大好きだった前世の兄に雰囲気が似ていて、私は密かに恋焦がれていたものの、残念ながら彼には婚約者が。

 ところがある日、その婚約者が毒を飲まされて殺害される。それからあれよあれよという間に罪を背負わされた私は、スコット様から憎まれた上に、捕縛されてこの牢獄に入れられることに。


 どうしてこんなことに……。

 いや、理由なら分かっている。姉の罠にかかったからだ。

 ……お姉様、絶対に許さない。

 こんな所で朽ち果ててなるものか! いつか復讐してやる!


「ふむ、可憐で儚げな見た目にそぐわず、凄まじい意思の強さを感じるのじゃ。そなた、見込みがあるぞ」


 私以外に誰もいないはずの牢獄内で、不意にその声は聞こえてきた。

 振り返ると壁を構成する石の一つがゴトゴトと動いている。やがて石は押し出されるようにこちら側に落ちた。空いた穴から現れたのは一人の老人だった。


「何ですか、おじいさん。勝手に私の部屋に入ってこないでください」

「まあそう言わんと。この素敵な部屋から出たいのじゃろう?」

「出られるのですか?」


 尋ね返した私を老人はじっと凝視してくる。やがて彼は「やはりな」と呟いた。


「そなたなら可能じゃ。自分では気付いておらんじゃろうが、そなたは素晴らしい才能に恵まれておる。類稀な拳聖女の才じゃよ」

「拳聖女……!」


 と驚いてみたものの、耳慣れない言葉に私は首を傾げる。


「……何ですか、それ」

「つまり、そなたには魔力と拳術の両方の素質が備わっておるということじゃ。二つを融合させた魔技を習得すれば、こんな牢から出ることなど容易いじゃろう」


 これまで私は魔法とも武芸とも無縁の生活を送ってきたけど、どうやら相当な才能があったらしい。名称からしてよく聞く聖女というやつの一種だろうか。言われてみれば、異世界に転生したのだから私が聖女であっても何ら不思議ではない。

 このジメジメした牢獄から脱出できるというのなら、聖女として覚醒でも何でもしてやろう。

 と決意を口にすると、老人が指導してくれると言ってきた。


「あなたのような囚人のおじいさんに指導などできるのですか?」

「わしは好きでここにおる。出ようと思えばいつでも出られるし、実際に週に何度かは酒を買いに出とるよ。どれ、少し力を見せてやろうかの」


 老人がその掌でゆっくりと石の壁に触れた瞬間、直径一メートルほどに渡って窪みができた。こちらに向き直った彼は、とりわけ自慢する様子もなく語り出す。


「武術において大事なのは力加減とタイミングじゃ。そこに魔力を合わせることで魔技となる。わしは人生をその研磨に費やしてきたじじいなのじゃよ」


 ふむ、これは大変な人がお隣さんにいたものだ。

 今のちょっとしたタッチでこの破壊力なのだから、少し本気を出せば鉄格子や壁を破ることなんて簡単に違いない。私にもこの力が使えたなら……。


 背筋を伸ばした私は老人に向かって頭を下げる。


「先ほどは失礼しました、老師。私はクレスタと申します。あなたが人生で培ってきた全てを、なるべく短時間で私に伝授してください」

「ずいぶんとあつかましいが、まあいいじゃろう。そなたがわしの指導でどこまで強くなれるか、楽しみでもあるしのう。クレスタ、早速今日から始めるぞ」


 こうして、牢獄での修練の日々が幕を開けた。


 やるべきことは大きく分けて二つある。

 一つは体を鍛えること。老師が言うには、魔技の習得にはそれなりに筋力が必要らしい。短時間で実戦的な体を作り上げるために、手首と足首に重りをつけてパンチやキックの動作を繰り返すことにした。

 もう一つは魔力を錬ること。こちらは瞑想のような状態で体内の魔力をひたすら錬り続ける。どうも時間がもったいない気がしたので、パンチやキックをしながら錬れないか試してみたら普通にできた。


 あとは、横から見ている老師に随時アドバイスを貰ってトレーニングの質を高めていく。


 そうして一日が経過した頃、老師が感心したように呟いた。


「うーむ、通常は体を動かしながら魔力を錬ることなど不可能なはずなんじゃが……、しっかり両方ともできておるのう。やはりそなたは真の拳聖女なんじゃろうか。わしはそなたに伝授するためにずっとこの地下牢で暮らしておったのかもしれん」


 などと勝手に使命感に燃えはじめていた。

 今更ながらいったいこれのどこが聖女なんだろう、と疑問に思っていた私はふと気付く。もしかして拳聖女とは聖女の一種ではなく、拳聖の女、なのでは? ともかく私はトレーニングを継続した。


 修練開始から一週間が経過した頃、老師が今度は若干震えながら呟く。


「……おかしい、筋肉の付きが異様に早いのじゃ。そして、魔力もありえん速度で高まってきておる……。わしは大変な怪物を目覚めさせてしまったのかもしれん……」


 何を大袈裟な、と思ったものの、確かにこの一週間でずいぶんと体が軽くなった気がする。寝る時もつけていた手足の重りを外すと一層軽やかに。


「これはそろそろいけるのでは?」


 私は鉄格子に向けて片手をかざす。パンチを打つタイミングで同時に魔力を発射。

 すると、発生した波動が周囲の壁ごと鉄格子を吹き飛ばした。


 おお、自分でも高まってきている自覚はあったけど、こんなに強くなっていたとは。さすが拳聖の女だ。


「よし、脱獄しよう。老師、一週間お世話になりました」

「ま、待つのじゃ、クレスタ! そなたはまだ力を制御できておらん! もう少し修練が必要じゃよ!」


 慌てた様子で老師が私の前に立ち塞がっていた。


「私は力を発揮できれば別に制御はできなくても構わないのですが……」

「制御できてこそ発揮できるのじゃ。とにかく待つのじゃよ、まだ魔技の基礎も教えとらん」

「分かりましたよ。じゃあ脱獄して戻ってきます。一週間もお風呂に入ってないのでもう限界です」

「ではついでに何か酒とつまみを買ってきてくれ。そなたが壊した鉄格子と壁はわしが直しておいてやるから、頼んだぞ」


 今は深夜の時間帯で、看守の見回りも夜が明けるまではない。

 朝までに帰ってくると老師に約束して私は牢を後にした。


 地上へと続く階段の所に数人の看守が駐在していたが、体が軽やかになった私は彼らに認識されることなくその前を通り過ぎた。

 そうして一週間ぶりに外の空気を吸う。


 まずは自宅である伯爵家の屋敷に向かった。父の書斎に侵入し、そのへそくりを入手。札束を鞄に詰めこんでいて、ふと机の上の手紙に目が行く。差出人が姉だったことから気になって読んでみた。

 どうやら姉は王国北部の戦場にいるらしい。こちらに戻ってくるのはしばらく先になると記されていた。


 ふーむ……、姉は私と違って幼少から魔法と剣術の修練をしている。今の私ではまだ勝てないかもしれない。老師が言うようにもう少し腕を磨いた方がいい気がする。

 町の宿でお風呂に入ってさっぱりした私は、お茶を飲みながら決意を新たにした。背中まで伸びていた髪をバッサリと切る。

 その後、老師のために酒とつまみを購入して明け方前に地下牢へと帰還。


 狭い私の個室の前に着くと、鉄格子と壁が綺麗に元通りとなっていた。……老師、結構器用だ。あ、中で待ってくれてる。


「戻ってきましたよ、修理お疲れさまです。はい、頼まれていた物です」

「待っておったのじゃ! む、かなりの高級酒ではないか! さすが伯爵家の令嬢じゃの!」


 待っていたのは私ではなく酒の方だった模様。すぐにつまみの焼鳥を広げて飲みはじめた。

 それを横目に、私は再び手足に重りをつけて訓練を再開する。魔力を錬りつつパンチやキックを繰り出す私に、老師はやや驚いたようだった。


「おや、クレスタ、急に真面目になったのう。外で何かあったのか?」

「別に、お姉様を確実に仕留めるためにもっと腕を磨こうと思っただけです」

「それなんじゃが、……もう復讐なんてやめにせんか? 魔技を習得すればそなたは自由に生きていける。辛い過去など忘れてしまえ。いくら姉に無実の罪を着せられたとはいえ」

「……え? 無実の罪ではありませんよ?」


 私の返答に、老師は酒を飲む手をピタリと止めた。

 私達の間に無言の空気が流れる。


 何か誤解があるようなのできちんと説明することにした。


「私はちゃんとスコット様の婚約者を殺しています。密かに毒を盛りました」

「で、では姉の罠にかかったというのは……?」

「お姉様に罪をなすりつけて毒殺しようと試みたのですが、見抜かれて逆に罠を張られてしまいまして。あえなく捕縛されてしまったのです。……お姉様が消えれば、順番で私がスコット様の婚約者。一石二鳥で片がつく素晴らしい計画だったのですが」


 私の話を聞いた老師はガクッとうなだれた。


「……クレスタそなた、無実どころか凶悪な殺人鬼ではないか。儚げな雰囲気の気の毒な令嬢じゃと思っておったのに……」

「私は嘘はついていませんよ。そっちが勝手に勘違いしたんじゃないですか」


 そもそもここは犯罪者しかいない地下牢だ。

 少しばかり容姿が可憐で儚げだからと勝手な想像を膨らませるべきじゃないということだろう。私が言うことでもない気がするけど。


「とりあえず老師、私を拳聖女として完成させてください。お姉様と、それに私の心を弄んだスコット様も、揃って始末したいのです」







お読みいただき、有難うございました。

なお、クレスタのこの後の話はこちらの小説でお読みいただけます。

『「愛する人のために死んでください」と妹が食事に毒を盛ってきた』

この下にリンクがございます。

クレスタは無事復讐を果たせたのか。


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