再会
石兵が崩れ落ちたあと、赤い光がきらりと輝き、収縮して消えた。
そこにあったのは、石兵の残骸ではなかった。
三人が近づいて確認する。
「石兵の魔石はこれだよな」
カイルが、赤い魔石を拾い上げ、セラフィナに渡した。
「あとは、指輪に、石板に……この鉱石は何でしょう?」
リーゼが、赤みを帯びた金色の鉱石を持ち上げた。それは、リーゼの両手に余るほどの大きさだったが、見た目よりも重そうにしていない。
「見た目はオリハルコンだけど、鑑定屋に持っていくのがいいな。他のもな」
カイルが提案する。
「この本は、読めるか?」
最後に、一冊の本をセラフィナに渡す。
「古代語で書かれた、魔法の本ね。これは私がもらってもいいかしら?」
「私たちには読めませんので、セラフィナさんがお持ちください」
リーゼが、当たり前のように言い切った。
「他のものは、鑑定が終わり次第、用途によってどうするか決めましょう」
そうして、三人は来た道を引き返した。
石室には、ダンジョンの入り口に繋がっているだろう魔法陣が現れたが、使わなかった。
今回の依頼は、裏ボスの討伐ではなく、初期ダンジョンの調査だ。
裏ボスである石兵を倒したことで、ダンジョンに変化があったのかを確認するために、三人は徒歩で戻ることにした。
結果としては、ダンジョンの不安定化は解決したと判断した。
石兵を倒した後、ダンジョン内に満ちていた濃厚な魔力が霧散し、そこにいる魔物たちも、通常のレベルに戻っていたからだ。
それをギルドに報告すると、大変喜ばれた。
「それは、ありがとうございます! ダンジョンの安定化までしていただきましたので、報酬については再検討させてください。三日後に、三人でもう一度いらしてもらっていいですか」
受付の男性は、ひとまず依頼していた魔石と、裏ボスである石兵の魔石を受け取って、奥へ入って行った。
その後三人は、酒場でお疲れ様会をすることにした。
「結局、ダンジョンが不安定になった原因は、わからなかったな」
カイルが酒を飲みながら、残念そうに言った。
夕食も兼ねた時間なので、酒場はとても賑わっている。
二人で食事をすると、いつも男性に声をかけられるが、今回はカイルがいるため、安心して食事ができる。
リーゼは、黙々と羊のステーキを頬張っているので、セラフィナがカイルに対応した。
「石兵と不安定化に関連があるところまでは、推測できるけれどね」
セラフィナは、ゲームの知識として、ダンジョン魔力が充満することで裏ボスが出現することを知っているが、今回の調査ではそれを推測できるような情報は得られなかった。
「その辺は、ギルドが調査をするでしょう。私たちは、無事、依頼を達成したのだから、よしとしましょう」
セラフィナの意見に、それもそうだ、とカイルが同意する。
そして、ダンジョン内での魔物の攻略方法だとか、戦い方のコツ、他のダンジョンの情報などを話した。
リーゼは、食べることに集中するため、空気になることにしたようだ。
「――ところで、セラフィナ。提案があるんだが」
カイルは、飲み物を置いて、改まってセラフィナを見た。
対するセラフィナは、口をもぐもぐさせながら首を傾ける。
その姿勢に苦笑いしながら、カイルは先を続けた。
「二人と組んで、かなり戦いやすかったんだ。これからも、一緒に行ってもいいだろうか」
その言葉に、空気だったリーゼがピクリと反応した。
「ちょっとお持ちください。今ま一人でやってきたのに、急にですか?」
リーゼの硬い言葉を、セラフィナは口を動かしながら見る。
「急にじゃない。正直なところ、弓で一人は限界があるんだよ。でも、弓使いって、バカにされることが多くてなー」
腕を組んで困った顔で話すカイルを、もぐもぐしながら見るセラフィナ。
「そんな奴らとは組みたくない。それに引き換え、二人とは、行動の相性も良さそうだ」
カイルは、明るい笑顔を二人に向けた。
「それだけですか?」
リーゼがカイルを睨む。
セラフィナは、お魚のフライを口に入れた。
「まあ、まだあるな。たとえば、二人の掛け合いが面白いとか」
「……は?」
カイルが笑うと、リーゼが厳しい顔をする。
セラフィナは、肉団子のスープに口をつけ、目をキラキラさせた。
「警戒してるリーゼは、猫みたいだとか」
カイルの言葉に、それまで睨んでいたリーゼは、口をパクパクさせた。
そして、セラフィナは通りかかった店員の女性に、肉団子のスープのおかわりを注文する。
「戦闘中のセラフィナが落ち着きすぎていて、逆に不安になるとか」
カイルがセラフィナを見ると、彼女はニコニコしながら肉団子を口に入れていた。
「……気に入ったのか?」
もう一つ肉団子を口に入れて、ご機嫌でコクコク頷いているのを見たカイルは、ポカンとした顔で「ギャップ……」と呟いた。
何かに気がついたリーゼが、はっとしてセラフィナに注意する。
「セラフィナさん。あなたは顔が無駄にいいのですから、その顔はダメです」
リーゼの言葉で、セラフィナは表情を戻す。
「――何のことよ?」
「いつもはツンとしているのに、美味しいものを食べた時とか、可愛い動物を見つけた時には、顔がふやけるんです。吊り目の方の裏技です。反則です」
「リーゼ、意味がわからないわ。顔はふやけないわ」
「セラフィナさん。問題はそこではないです」
「じゃあ、何なのよ?」
「いいですか? 今の問題は目の前の男を落としたことです。駄犬に続いて、二人目です」
「……何の話――」
「――何だって?」
セラフィナ言葉を遮って、男の声が割り込んだ。
リーゼとセラフィナが驚いて振り向くと、そこには二人が見知った顔があった。
襟足が長い焦茶の髪、人の良さそうな褐色の瞳。いつもは柔らかく微笑んでいる口元は、今は不機嫌に結ばれている。
「お嬢さんに近づくのは、この男か?」
先ほどから会話に乗り遅れているカイルは、急に話を振られて「へっ?」という間の抜けた声を出した。
「エーリヒ! どうしてここにいるのですか!?」
いきなり現れた男性――エーリヒに、セラフィナは驚いた声を出す。
「……セラフィナさん、私は察しましたよ。あれです。お父様のお手紙の……」
セラフィナとリーゼの会話を無視して、エーリヒがカイルの隣に立って彼を睨みつける。
「お前、冒険者か? ここで何をしている?」
急なことに驚いていたカイルだが、知らない男に睨まれる謂れはない、と気持ちを持ち直した。
「俺は、カイル・ヴァルト。冒険者だ。今回、依頼を一緒に達成したから、その打ち上げってやつだな」
怒りもせずに、丁寧に伝えるところは、カイルの人柄が現れている。
エーリヒは、少し目を細めてカイルを見やり、セラフィナに視線を移した。
「本当ですか?」
確認するエーリヒが少し怖くて、セラフィナは慌ててと頷いた。
しかし、リーゼが横から口を出した。
「半分本当です。残りの半分は、セラフィナさんのギャップに気づいた男、というところです」
それを聞いたエーリヒは、深いため息をついてセラフィナに向かい合う。
「お嬢さん、あれだけ言いましたよね。気を緩めてはいけません、と。あなた、自覚あります?」
「だから、何の自覚ですか? 私は、いつも普通にしているだけです」
はー、とエーリヒは額に手を当てて天を仰ぐ。
「これだから、うちのお嬢さんは……やっぱり、即座について行くべきだった」
「何の話をしているのよ」
「あなたの話ですよ。ご自宅でもそうでしたが、色々な方向から人を落としにかからないでください。こっちは大変なんですよ」
「エーリヒさんも、落ちたクチですがね」
「俺は別枠です」
途中から、エーリヒがリーゼと話し始めたので、カイルがこそっとセラフィナに話しかける。
「あんたの周り、なんか大変だな」
セラフィナは、そうなのよ、ど深く同意した。
「みんな、よくわからない心配をするのだけれど、大袈裟なのよ」
セラフィナはため息をつく。
「まあ、大袈裟だけど、わからなくもないな。あんた、たまに危なっかしいもんな」
「私は、世界一安全な人間よ?」
「そういうとこだよ」
セラフィナの返事に、カイルが軽く笑った。
その会話を聞いたエーリヒが、今度はセラフィナ詰め寄った。
「ちょっと、お嬢さん。おかしくないですか? どうして俺には丁寧に話すのに、その男には普通なんですか」
急に怒り出したエーリヒに、セラフィナはついていけない。
「え? 何? 何のこと?」
「エーリヒさん、とりあえず、お座りください」
セラフィナの混乱をよそに、リーゼがエーリヒに椅子を勧める。
エーリヒは、カイルとセラフィナの間に座って、セラフィナに抗議する。
「お嬢さん――いや、もう、セラフィナでいいよな。俺の方が、この男よりも付き合いが長いよね? なのに、この壁は何なの?」
「壁ではないのですけれど……」
セラフィナは困ってしまった。ゲームの記憶を思い出してから、年上には、まず丁寧語が出てしまう。条件反射のようなものだ。カイルの場合は、出会った場所がダンジョンで、友達っぽかったので、すぐに丁寧な言葉が抜けた。
「セラフィナ……俺、五ヶ月言い続けたよね? 次に『です・ます』つけたら……」
あまりの勢いに、セラフィナがゴクリと喉を鳴らした。
それを見てエーリヒは、いつもの柔らかい笑顔になった。
そして右の人差し指を、セラフィナの唇に当てる。
「――口、塞ぐよ?」




