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始まり

新しく始めました!

テンプレから始める令嬢の冒険です。温かい目でお読みください。

一部お名前修正しました。

 セラフィナは思った。

 ――ちょっと待て、と。

 国立リュミエール学園の卒業記念パーティーは、盛大に開催されている。

 卒業生の公爵令嬢のセラフィナ・アーヴァインだけでなく、この国の第二王子アルベルト・リヒトハイム、騎士志望のイース・シュナイザー、去年主席で卒業し、特別招待客の宮廷魔法師ルシアン・アークライトが揃っている。

 それなのに、右を見ても、左を見ても、『あの子』がいない。

 王子、騎士、魔法師の周りには、貴族令嬢が群がっている。

 謎にババーンと登場する、隣国の王太子も登場しない。

 セラフィナは、この三年間、しっかりやったと自負している。『あの子』のお行儀がなっていないのを指導し、礼儀作法を注意して、自分の婚約者である王子の周りをちょろちょろしているのを牽制した。

 なのに、なぜ――

(……どうして、断罪劇が発生しないの!?)

 そこまで思って、セラフィナは首を捻った。

 ――"断罪劇"って、何だっけ?

 彼女は、思った通りに行動していただけだ。天真爛漫と無作法は、表裏一体。公爵令嬢として、無作法な女子生徒を指導しただけ。最終的にイライラしたが、抑えたはず。それなのに、"断罪"とは?

 セラフィナは、腕を組んで、うーんと考えた。

 パーティーの最中に、突然一人で唸り出した美貌の公爵令嬢を、卒業生たちは遠巻きに見ていた。

 そのセラフィナが、ぱっと顔を上げた。

 思い出したのだ。これが、ゲームに類似した世界だと。

 セラフィナに、違う世界の記憶があることを。

 とは言っても、その違う世界の、どこで何をしていたのかは、よくわからない。趣味はゲーム。特に、RPGでのレベルカンストからの裏ボスオーバーキル。弱いものいじめではない。その方が、楽だからだ。

 そして、今いるこのセラフィナの世界は、恋愛系RPGだった。RPGだから取り組んだが、恋愛要素に手こずった。詳しい内容は忘れたままだが、攻略対象たちとの交流を通して彼らの心を解き放ち、本当の力を目覚めさせる。その過程で、ヒロインの優しさが聖なる力を呼び起こす、とかなんとか。その聖なる力で、たびたび起こる魔物との衝突を回避して、ついには攻略対象たちとともに魔王を浄化するのではなかったか。

 攻略失敗の場合は、主人公は平民落ちで生活苦、攻略対象たちは闇を抱えたままの問題児。魔王については、もう千年ほどこのままなので、世界は何も変わらない。

 何が問題かというと、このセラフィナ、悪役令嬢枠だから、もちろん王子の婚約者だ。このまま行くと、王子とハッピーウエディングなのだが、王子もセラフィナも問題あり。王子は自尊心が強いタイプで、セラフィナも公爵令嬢としてのプライドは天を貫く。この二人が結婚すると、どうなるか。水と油どころか火に油。セラフィナは王子を顧みず、そんなセラフィナに王子がキレる。あれやこれやでセラフィナ破滅。安定の訳のわからなさである。

 そこまで思い出して、セラフィナはガックリと項垂れた。

 ヒロインがいないということは、攻略失敗ということだ。しかも……

(――どうして全員の攻略を失敗してるのよ!?)

 どうしようもない状況に、セラフィナは頭を抱えた。やはり、最下位貴族が高位貴族と仲良くなるというのは、現実に持ってくると無理があるのだ。あれは、ゲームだからできること。ぶつかって知り合う、図書室で本を取ってもらう、騎士の訓練中に剣が飛んでくる……なんて、もし起こったとしてもそれで終わりだ。隣国の王太子とか、普通外で寝ない。危ない。近づこうとしたら、影に阻まれる。これ以上関係をつなげるのは、よほどの強者か、権力者だ。

 セラフィナは、痛むこめかみを抑えて息を吐いた。

 考えすぎて、頭がクラクラする。

 とにかく、最悪な状況にいることだけはわかった。このまま行けば、生き地獄だ。パーティーに参加している場合ではない。

 そう考えていると、願ってもいないのに婚約者が近づいてきた。

「おい」

 そして、声をかけてきた。

 冗談ではない、とセラフィナは思った。

 自分は「おい」という名前ではない。反応してなるものか、と聞こえないふりをした。

「おい、聞いているのか」

 先ほどよりもさらに不機嫌な声が聞こえたが、それでも無視して、セラフィナは立ち去ろうとした。

 すると、ぐいと左腕を掴まれた。遠慮も何もなく握られ、セラフィナは顔を顰める。

 扇子で顔を半分隠し、アルベルトを下から睨みつけた。

 少し癖のある金髪に、切長の碧眼、長身で整った容姿。完璧な王子様は、セラフィナを不機嫌な顔で見ている。

「……あら、殿下。ごきげんよう」

「機嫌は悪い。お前、わざとか?」

「何の話ですか? とりあえず、痛いのですが、離していただけます?」

 言葉だけは丁寧に。しかし、セラフィナはにこりともしない。

 彼女の氷青の瞳は、その吊り目と、こちらも整った容姿と相まって、凍えるような冷たい眼差しになる。

 それをものともせずに、アリベルトは、セラフィナの腕を離して続ける。

「一人でコロコロと表情を変えて、お前らしくない。何を企んでいる?」

「……は?」

 セラフィナの口から、令嬢らしくない声が出た。

 何かを企むのに人前で表情を変えるのなら、なんてわかりやすい企みだろうか。セラフィナが、王子の思考に悩んでいると、さらに意味不明な言葉が聞こえる。

「今更取り繕ったからと言って、俺がお前に興味を示すことはないぞ」

 不穏な空気に、周囲の卒業生が二人から僅かに距離をとった。

「お前の振る舞いは、俺の評価に関わる。今までは大目に見ていたが、学園を卒業した以上は、そうはいかないぞ」

 セラフィナは、目が虚になるのがわかった。

 何がどうしてそうなったのか、理解ができなかった。

 ゲームの記憶を持ったセラフィナは、たぶんセラフィナとは違う人生を歩み、違う価値観を持っている。今のセラフィナは、この王子に全く興味がない。

 そして、これまでこの世界で生きてきたのもセラフィナだ。その彼女が、この婚約者のことを、心からどうでもいいと思っている。

 つまり、過去も、今も、セラフィナの中で、アルベルトについては、どうでもいいことが一致した。

 さらに言うなら、この先、この男と連れ添うとして、浮気され、外に子供を作られて、自分に興味を持たないセラフィナが悪いとキレられ、そのまま人生終わり。

 それは、ない。断じて、ない。人権無視もいいところだ。このゲームを作った人は、悪役令嬢への罰か何かだと思ったのだろうか。そんな人生、やってられない。

 と、脳内大忙しのセラフィナの反応がなくなったため、アルベルトは、さらに不機嫌になった。

「お前、俺を無視するのか? 不敬も大概にしろ」

 その言葉で、セラフィナは、はっとした。

 "不敬"にではない。"大概にしろ"に、である。

(そうよ。私が何をやったにしろ、人を傷つけるようなことはしていない。それなのに人生終了とか、大概にしてほしいわ!)

 セラフィナは思った。

 今、行動を起こすべき瞬間なのだと。

 まず、このどうでもいいパーティーから帰る。そして、やりたいことを書き出す。その後、両親に相談して自分の人生を歩むのだ。

 そう考えると、心が軽くなるのを感じた。

 今まで感じていた、やり場のない怒りなど、泡のようにパチパチと消えていく。

 セラフィナは、口元を隠していた扇子をパチンと畳んだ。

 赤い唇は緩やかに弧を描き、氷青の瞳は雪解けの頃の湖のように輝く。

 今まで一度も見たことがない表情に、アルベルトは瞬きすら忘れて固まった。

「殿下。少々体調がすぐれません。皆様の前で醜態を晒す前に、退室させていただきます」

 鮮やかに礼をして、ドレスの裾を翻す。

 颯爽と歩き去るその姿をみて、「かっこいい……」と言ったのは誰の呟きだったのか。

 この日、この時に、セラフィナ・アーヴァインの人生は、華やかに始まったのである。

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