第二章 完璧美少女JKは運動も完璧!
私は完璧美少女JK、諸刃剣だ。
完璧美少女JKとは、成績運動神経容姿性格、とにかく全てが完璧な美少女高校生のことを指す。
つまり成績も運動も性格も容姿も全てが完璧な私は……って、こらそこ!物陰に隠れてクスクス笑ってくるな!指を指すな!これがほんとの後ろ指を指される、とか言うな!やめろ!第一章のVTRをスクリーンに流して鑑賞するな!
……ふぅ。何やら自分たちの都合に合うように事実を捏造して私を貶めようとする訳の分からぬアンチの読者がいるが、それは置いておいて、仕切り直そう。
とにかく完璧美少女JKである私はそれゆえに、常に完璧でなければいけないということだ。
成績運動神経容姿性格。
とにかく全て。
そして、そう。
例えば――スポーツテストなんかも同様に。
「それじゃ、スポーツテスト始めるぞー。まず、男子は立ち幅跳び、女子は50メートル走から。各自配置に着くようにー。女子は私についてこーい」
「いっちにーいっちにー」
とある5月の3限目。
この導入だとハーレム野郎のくせして不幸だとか抜かす某イマジンブレイカーや、この作品の作者がはぁはぁと見る度にテレビの前で息を荒げているビリビリ少女が主人公の某ラノベタイトルみたいになってしまうが、そういうのは一旦置いておくとして、不思議と絶対に3にいかない掛け声を、クラスメイトとともに張り上げながら、私は、体育の教科書から飛び出て来たみたいなそれっぽ過ぎる女体育教師の背中を追って走っていた。
先程先生が言っていた通り、スポーツテストだ。
スポーツテスト。
それは完璧美少女JKである私が、運動能力も完璧であることを示すには、またとない機会だ。
筋力、敏捷性、跳躍力、柔軟性、筋力、持久力。
とにかくありとあらゆる運動能力が試される、謂わばスポーツ界の大学入試。
天照大御神も私の活躍を期待してポンポンを振ってくれているのか、天候も最高。
第一章では多少(?)無様な姿を見せつけてしまったが、改めて私が完璧美少女JKであるところを読者の皆様に見せて差し上げようじゃないか……!くっくっく……。今から諸刃さん素敵ー!結婚してー!と黄色い声をあげる君たち読者の顔が見えるようだぜ!い、いや、求婚は単純に困るが。
「おーい、なに一人でキモい笑顔を浮かべてるんだ諸刃ー。春の陽気に頭やられたかー。早く準備しろ―。でないとこのスタータピストルの銃口がお前に向くぞー」
教師のくせに、ピストルだけに一ミリ口径も倫理感を感じさせない台詞が聞こえてきて私はふと我に返る。
おっと。いかんいかん。カントも思わず散歩の時間をずらしてしまうほど、崇高な思考に耽っている間にいつの間にか順番が来てしまっていた。
50メートル走だけに、先走って悦に至ってしまっていた。
私は立ち上がり、持ち場に移動し、しゃがみこむ。
今の私に必要なことは先走るのではなく、ただ、走ることだ。
地面に両手をつける。
右足を左足よりもやや後ろに伸ばし、両足のかかとを30度ほど上げ、完璧なクラウチングスタートの構えを取り、教師のピストルの発射を待つ。
「それじゃいくぞー。よーい……」
パン!
と、上空に向かって放たれたピストル音に呼応するように、私の体は白線で敷かれた50メートルレーンへとカタパルトから出発する戦闘機の如く飛び出した。
クラウチングスタートでつけた助走そのままに、私の足はどんどん加速していく。
横に並んだクラスメイト四名を一気に置き去りにする。
私の足が意外にも……いや、想定以上に速かったことに驚いたのか、前方で既に走り終えたクラスメイトのどよめききと、後ろで悔しそうに呻くライバルたちの声が聞こえてくる。
ふっ。
お前らも、たしかに速い。
だが――。
だが、まだ足りない!足りないぞお!
お前らに足りないものは、それは!
情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてなによりもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
――速さが足りない!
金が金を生むように、加速は更なる加速を生んでゆく。
まるで私自身がゲームのキャラクターになったかのように、Bダッシュで操作されているような気分だ。
ゴールド……ではなくゴールは既に目前。
間違いなく文部化科学省が定める、スポーツテストにおける50メートル走で、十点満点を取るために必要なタイムである、7・7秒以下のタイムであることは固いだろう。
ふっふっふ。
我ながら、自分の完璧さが恐ろしいぜ!
「…………」
……いや、待てよ。
そうだ。
そうだそうだそうだ。
何を勘違いしている?完璧美少女JK諸刃剣。
確かにこのままいけば、十点は確実だろう。
そしてただでさえ完璧な私の評判は更に広まり、靴箱を空ければ毎朝、私の頭にファンレターとラブレターのシャワーが降り注ぐことになるだろう(やめろ読者熱湯を浴びせてくるな)。
しかし。
しかしだ。
私は何故、そんなもので満足している?。
何を十点ごときで満足してるんだ。
点数に関わらず自分の全力のタイムを出す。
それが完璧美少女JKというものの、本来の在り方ではないだろうか?
他人が定めたものを達成しただけで気持ち良くなるな。
誰かに無意識に服従しようとするな。
上へ上へ。
高みへ高みへ。
完璧で満足するな。常に完璧の上を目指せ。それこそが、真の完璧。
それが、完璧美少女JKの流儀だろうが!
……が、そうは言っても、ゴールは既に目前。
加速も既にピークを迎え、これ以上は見込めない。
そんな中、これ以上タイムを縮める方法が果たしてあるのか?
……………。
……いや、そうだ。
一個、あるじゃないか。
多少危険だが、タイムを縮める方法が!
私は走りながら、目視でゴールまでの距離があと何メートルか計算する。
50メートル走のタイムというのは、スタートラインから胴体がゴールラインを通過するまでの時間を計測する。
つまり、ゴールラインに胴体を思いっきり伸ばせば、タイムは縮まるということ!
であれば、そのためにしなければならないことはなにか?
そんなものは、一つしかない!
私は競馬で馬を鞭で叩く騎手のように、既にピークを迎えてしまった自分の足に更に無理を言い聞かせ、更なる加速を要求する。
この後行うためのそれに向けて。
もっとだ。
もっともっと、加速を。
そのまま『宙に浮かんでしまう』くらいの、加速を。
そして――
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
あと約5メートルほども進めばゴールラインに辿り着くところまで迫った、その瞬間。
私は加速の勢いを殺すことなく、むしろその勢いそのままに、大声を張り上げながら、――跳躍した。
地面を走るのではなく、跳ぶ。いや、飛ぶ!
陸上で最も速く走るチーターの最高速度は約130キロ。
対して水平飛行で最高速度を記録するハリオハマツバメの速度は約170キロ。
陸上と空中。どちらが速いか?
そんなのは、比べるまでもない!
気が付けば圧倒的差をつけ、私の体は空中でゴールラインを跨いでいた。
風がびゅうびゅう吹きすさび、クラスメイトの歓声すら遠くする。
……ふ。
ふふふふふふふふ。
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。
ハーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッーーーーーー!
………また、世界を縮めてしまったぜ……。
「……ん?」
とか、内心で高笑いしていたのも束の間。
体同様に、空中上で加速した頭でふと、私は思った。
あれ?
そういえば、これ、着地って、どうすればいいんだ?
胴体が優先してゴールラインを通過するようにすべく、思いっきりのけ反るようにジャンプしたから、上手く着地できそうにないのだが……。
というか、このままだと、背中が思いっきり地面にダイレクトアタックをかましそうな勢いなんだが……。
………いやいや。
いやいやいやいや。
私は完璧美少女だぞ?
ここまで来ておいてそんな画竜点睛を欠くみたいなことがあるわけ……。
…………。
いやいやいやいや!いーや!そんなことあり得ない!有り得るわけがない!有り得ていいわけが無い!ふうあむあい?あいむかんぺきびじょうしょうじょじぇーけー!そう!私は完璧美少女JK!あ!そうだ!私はBダッシュで操作されてるのだ!だから空B+上で復帰……できるわけがない!だって私はそもそも操作されてないし、私はゲッコ●ガでもない!
ちょ……空が青い!駄目だって!おい!作者!このままだとか弱くて可憐でおしとやかで控えめな完璧美少女JKが傷ついちゃうって!ちょ!いやだ!こんな……!こんなところでゲームセット!、だなんて、あ、ちょ、ああ……ああああああああああああああ!いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
「ぐぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
地面様による背中全体へのむち打ちの刑の痛みが背中に響いてくると同時。
私の夜中の蛙の鳴き声を十倍にしたような悲鳴が、まるで大海のような青空に響き渡った。
ご一読ありがとうございました。
諸刃剣です。
今回のお話も作者の妄想及び、読者諸君の幻覚及び錯覚ですので、記憶を削除いただけますと幸いです。
それでは、また。次回の、私の華麗なる完璧美少女JKライフでお会いしましょう。




