2(最終回)
「全部活出禁になりました」
「もう神だよお前は。天に立っちゃってるよ」
一週間後の昼。
いつもの食堂。
いつもの冷やし中華(?)。
もはや尊敬の籠った眼差しで、らのは無駄なあがきをする勇者を皮肉気に称える魔王のように拍手してきた。
うう……。
なんで、こんなことに……。
ヤケ酒ならぬヤケ冷やし中華を食らう。
うう……ヤケなのにつめてぇ……ついでにギャグもつめてぇ……。
「あー……一応、訊いといてやる。で、今回は何やらかしたんだ?」
流石にあだ名が神戸山●組のドS女、神戸らのでも(呼んでるのは私だけだが)、冷やし中華だけにこれ以上冷やかすことはできなかったらしい。真顔でしていた拍手を止めると(北の国のあの人みたいだった)、大袈裟に溜息を吐き、肉付きが良い脚を組んで右手で後頭部を掻き、そう言った。
「一応とか言わないで……あと、何度釈放されてもすぐに帰ってくるものだから、いつの間にか顔なじみになってた犯罪者と接する時の刑務官みたいな口調で私に話しかけないで。それだと私が加害者みたいだから。今回ばかりは、私は被害者だよ」
「お前が、被害、者?」
「そんな心の底から不思議そうな顔しないで!」
もう考えるのは何度目になるか分からないが、私はらのにどんなふうに思われているんだろう。
また今度、らのには、私がいかに完璧であるかという、疑いようもない事実をこんこんと説明する機会を設けないといけないらしい。が、今は出禁になってしまった話の方が優先だ。
「で?何があった?さっさと話せ」
めんどくさそうに(『そうに』ここ大事!)言ってくるらの。
私はどっかの総司令みたいなポーズを取って一分ほど黙る。そしてこの一週間にあったことを、話すことにした。
一文で。
簡潔に。
私、曰く、
「とりあえず全部活に参加したものの、中途半端に上手かったせいで、全ての部活から勧誘を受け、部活間で私の取り合いになり、結局私をどこの部活にも絶対に入れないという協定が結ばれてしまいました……」
「ほんとに神みたいになってんじゃねぇか」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」
咽び泣く私。
しかし、そんな神のような私を前にしているというのに、そんな私に対し全く敬意を感じられない、可哀そうなものを見るような顔でらのは見つめてくる。が、ある意味ではその顔は正しい。何故ならこの話には続きがあるからだ。
「ぐすんぐすん……で、でも、これは流石の私も納得できなくて。どうしても部活に入って友達欲しかったし。だから、らのに言われた通り、格下であることを意識して、各部長や顧問に直談判することにしたの」
「お、おお。そっか。何が流石なのか分からんけど。そっか。成長したな。それで、どうなった?」
流石なのは当然、太平洋のように広い私の心に決まっているだろうと、相変わらず察しの悪いらのに説明しようとも思ったが、話の腰を折るのもアレだし、今折られていて修理しないといけないのは私の心の方なので、いったん据え置くことにして、私は涙をセーラー服の袖口で拭った。
そして、必死に笑顔を取り繕って、告げる。
きっとそうしていれば、私の一番の友人で、ツンデレでもあるらのなら、冗談めかして励ましてくれたり、何か解決策を考えてくれるはずだから。
「入部理由を聞かれて、正直に友達が欲しかったからですと言ったら、逆にほぼ全ての顧問や部長から、他の部員や教師が見てる前で「そんな不純な理由では入部させられない。お前が入るせいでレギュラーになれない奴らの気持ちも考えろ」って、怒られ、周りの部員や先生に哀れな目で見守られ続けました……」
「…………まぁ、何つーか、すまんかった」
「謝らないでよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!周りの先生や部員と同じような可哀そうな物を見る目で見ないでよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」
謝った!らのが謝った!
以前一緒にあの花を見た時でさえ、「め●まの女装したゆき●つと鶴●って百合になったりするのかな」という感想しか抱いてなかった血も涙もない、鬼以上に鬼のらのが謝った!
前に私が作ってプレゼントしたブラを一向に着てくれない鬼畜らのが謝った!
そんなに!?そんなに私ってもう、取り返しが付かないほど可哀そうな子なの!?手に負えない子なの!?
「うっ……うっ……鬱っ……」
食堂中の生徒から、潰れた蛙を見るような視線を浴びせられるが、私は鼻水と涙と嗚咽を滂沱の如く吐き出しながら机に突っ伏すことを止められない。う……うう、何で私がこんな目に……私はただ……。
「……私はただ、完璧でありたかっただけなのに……!」
「質素で控えめな願いすら叶わない不幸な少女みたいな顔してそんな台詞言うな。そんな『だけ』があるか。……あー、まぁ、なんつーかさ」
「?」
煮え切らないらのの台詞に顔を上げる。
しばらくの間あーとかうーとか、い●らちゃんみたいになっていたらのだったが、やがて全てどうでもよくなったのか、大きく溜息を吐くと、
「まぁ色々言ったけど、別にそこまで気にする必要ねーんじゃねーか?」
「え?」
思考が、止まった。
別に怒ったり文句を言ったりするつもりはないのだが、しかし、さっきみたいな友達を作るための作戦を教えてくれたのは、他ならぬらのだったはずだからだ。
そのらのが、気にする必要がないと発言するとはどういうことか。
「だから、別に友達が少ないことなんてそこまで気にしなくてもいいって言ってんだよ。いくらお前のゴミみたいなコミュ力、略してゴミュ力のせいで少ないとしても」
「励ますのか罵倒するのかどっちかにしてくれない?ゴミュ力って……ううんそうじゃない」
今はそんなことはどうでもいい。今は、
「だって友達が少ないことを気にしなかったら、私は完璧に――」
「だから、それだよ」
「え?」
矢のような口調の台詞と視線が飛んできて、私は刺されたように固まった。
らのは横を向いて毛先をもてあそびながら、
「お前は友達の概念の良し悪しを数で決めてんだよ。けど別に、友達の良さっていうのは数だけで決まるもんじゃねーだろ。親密度とか、なんつーか、そういうの?ほら、お前がいつも食ってるその冷やし中華と同じだよ。好きな食い物が多いと幸せなこともあるかもしれねーけど、何食うかって考えた時、迷うことも多くなるだろ?なまじ数が多いものだから、それがほんとに好きなのかどうかも怪しくなってくる。けど、好きなものが絞られてれば、迷うこともなくなるし、それがほんとに好きって自覚も持てる。……知らんけど」
「……!」
私は二つ、驚いて、口をぽかんと開けてしまった。
一つはもちろん、今らのが語った持論。
そうだ。
何で私はいつの間にか友達が多いことが、交友関係という能力の高さを示す指標だと思っていたんだろう。
数さえ多ければ偉くてすごいのか?
いや、そんなことはない。
それだったら大学の所謂「よっ友」が多い薄っぺらいやつが天皇になってしまう。
私はそうなりたかったのか?違う。私はそんな奴を目指していたわけじゃない。
そして、もう一つ。
らのは滅多に自分から、そんな自分の思想を話す人間じゃない。
特に友達とか、そういう青春的な、甘酸っぱいようなものに対しては、特に。
そして、そこから導き出される推論は。
…………。
ふふ。
閃いた私は、そっぽを向くらのと同じように頬杖を突き、口角を吊り上げた。
「らの、もしかして妬いてた?」
「焼き殺すぞ」
「ひっ……!」
冷やし中華のどんぶりを盾に、私は隠れた!
ち、違ったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!絶対違ったあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!だってそうだよ!もしそうおなら、こんなとあるシリーズのステ●ルが操るイノケンティ●スみたいな顔になってるわけないもん!
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!恥ずかしすぎて体が熱すぎるうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!ほんとに焼け死ぬううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!
………。
あ、あれ?
で、でも、「焼き殺すぞ」って言われただけで、完全に否定されたかと言えばそうでもないような?
あれ?
聞き間違い?
「ぷっ」
と、私が一応身を守るため●条さんを連れてくるべきかと、本気で検討しかけていたところ、そんな風に、らのが急に吹き出した。
そして――
「ぷっ……くく……はは……あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
「ははっ。はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
――らのが堰を切ったように笑いだし、それに連られて、私も笑いが止まらなくなった。
なんて。
なんて間抜けな勘違いと格好をしているんだ、私は。
この冷やし中華のどんぶりで、何の攻撃が防げるというのか。
二人して食堂中にげらげら、決して上品とは言えない声を響かせまくる。
そして体中の酸素をひとしきり使い果たしたんじゃないかと思うほど笑い合った後、私は目じりを涙を拭い、腰に手を当て、自慢の胸を張った。
「はは……でも、てことは私は最初から何もしなくてよかったってことよね!?だって私は既に目標を達成していたんだから!最高の友達を、一人得ていたんだから!流石私!」
「……やっぱり、その幻想を打ち砕いてやろうかな……」
「酷い!ていうか、幻想って!」
「ぷっ……!あはははははははははははははははははは!」
「もうらの!ははははははははははははははははははは!」
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははは尺稼ぎすんな!」
「らのこそ!あはははははははははははははははははははははははははははははは!」
ツッコんで、またお互いどちらからともなく笑い合う。
こんなにうるさくしていると、周りに迷惑かとも思ったが、どうやらいつの間にか結構な時間が経ってしまっていたらしく、食堂には私たち以外の姿はなかった。
良かった。これならさっきの鼻水と涙を醜く垂れ流していたのを見られている可能性も低そうだ。……いや、まぁ、あれを見てドン引きして皆帰ってしまった可能性もなくはないが、まぁ、どうせ結果は一つしかないんだから、決まるまでは自分の都合のいい方に解釈しておこう。
さて、それじゃ問題も解決したし、さっさと食器を片づけて、今度はギャル委員長と親交を深めるべく、いつものようにスキンシップを取りに行ってあげようかな。
…………。
……誰も、いない?
「……らの!今、何時!?」
「は?なんだよ急に」
私の台詞を聞き、らのがセーラー服の袖をまくり、ブレスレットみたいに細くて小さい腕時計を確認する。
そして、
「あ!」
そう大声を上げると同時、私同様、食堂の出口へと走り出していた。
――そう。
既にもう、五時限目が始まる30秒ほど前だったからだ。
「ちょっとらのお!置いてかないでよ!友達でしょ!」
何も言わず、颯爽と自分だけ走り出した薄情ならのの背中を必死に追いかけながら、私は叫ぶ。
「うるせえ!私の成績の危機に、お前なんかに構ってる暇なんざあるわけねぇだろうが!だいたいお前がボッチなのが悪いんだ!」
「ちょっと!?さっきまでの台詞はどうしたの!?早速友情にヒビが入ったじゃない!あと、私はボッチじゃない!数少ない友人を大切にしてるだけ!」
「人が教えてあげた理論を早速自分の都合に合うように利用してやがる!」
「あー!もう!最悪!まさか完璧美少女JKの私が、遅刻だなんて!」
「お前、今度そんな戯言抜かしやがったら殺すからな!」
まるでそういう競技みたいに階段をマッハで駆け上りながら、私たちはぎゃーぎゃー口喧嘩しながら自分たちの教室を目指す。
でも。
それにしても。
殺す?
あはは。
らのは一体誰を殺すなんて言っているのだろう?
少なくとも、私ではないことは確実だろう。
だって、私は。
そう。
だって私は。
戯言ではなく。
正真正銘。
嘘偽りなく。
完璧に。
完璧美少女JK、そのものなのだから。
少なくとも、今、この瞬間は。
私は完璧美少女JK諸刃剣だ!
まずは、読者の皆様、最終回まで見てくれて、本当にありがとうございます!アンチの読者も読者だからそれだけで最高!
ただし作者、てめーはダメだ!
どうなってんだよ!結局一回も私の完璧美少女JKたる姿が出てこなかったじゃないか!どけ!こうなったら後書きだけは好きなだけやらせてもらう!ほら!ギャル委員長、らの、カモン!せめて最後にどれくらい私が二人に愛されてたかを読者共に見せつけてやる!
「いや……ブラジャープレゼントしてくる奴なんて愛してる訳ねぇだろ……ほんと何言って――」
「ありがとうございますありがございます!出番をいただきまして!愛してます!諸刃様!」
「いたわ……」
「ほら、皆読者に向かってピースよピース!ほら、らのも恥ずかしがってないで! あ!? 何で私に中指立てるの! 全然ピースじゃない! もう、ほら、はい!これでOK!それじゃせーの!」
「「「最後までよんでくださりありがとうございました!」」」




