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「というわけで、作ってきました。どうぞ」
「……ふん!」
「いっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!す! ね! 何で!? 何で! 私、右脛を折られたの!」
もう、政治家の不祥事くらいに見飽きてきたであろう、いつもの昼休みの食堂。
昨日の家庭科の授業で作ったそれをらのに渡したところ、何故かテーブルの下からサッカー選手顔負けのトゥーキックが私の右脛を直撃し、私は右足を押さえたまま、汚れた床の上をのたうち回った。いってえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!脛いてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!……な、何故………何故、こんなことに……私は、らのに、喜んでもらいたかっただけなのに……。
「いじめられっ子の主人公を救うためにいじめっ子を殺したら主人公からドン引きされた怪物みたいなこと言ってんじゃねぇ。お前はただの怪物だ。おい、何だ、これ」
心外なことに、らのは私があげたそれを、腫物にでも触るみたいに、人差し指と親指でつまみ上げた。
なんだかんだと訊かれたら答えてあげるが世の情けなので、愛と真実と正義を貫くラブリーチャーミングな主人公役の私は、きちんと答えてあげることにした。
「百合の色のブラジャーですけど?」
「ふん!」
「ぎょわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!かかと!かかと落としで!友達のかかと落としで今度は左脛が壊れたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!何で!? 何で!? 流石に人目に付く場所で渡されるのは恥ずかしいと思ったから、ちゃんと食堂から人がいなくなってから渡したのに! ブラのデザインも先生がつけてるエロいのを参考にしたのにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「気を遣うところを間違ってんだよ!何作ってんだお前は!私はブックカバーを作って来いって言ったんだよ!何で本じゃなく胸をカバーするものを作ってきてんだ!いつ私が欲しがった!?」
「うう……だってらの、スタイル気にしてるっぽかったから。いつもこっそりロッククライミングされそうな自分の胸と私の登山されそうな胸を比較してたから、とびっきり可愛いブラを渡せばそのコンプレックスも山だけに乗り越えられる――」
「しゅっ」
「ふんぎゅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!何故か気が付かないうちに両膝が破壊されてたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
こ、こいつ、いつの間にそんな技を……!いや、違う!成長してるんだ!こいつ!戦いの中で成長している!
ふっ、と一瞬、姿が消えたかと思うと、次の瞬間には、らのは元居た座席に戻っていた。そして腕と脚を組み、肺が干しブドウみたいになるくらい溜息を吐いた後、賞味期限が切れた肉に向けるような目で、私を見下ろしてくる。
「はぁ……まぁ、いいや。とりあえず他にも聞きたいことが……おい、何倒れてんだ。とりあえず起きて座れ」
「足が折れてて起きれません」
「やれやれ仕方ねぇな……これでよしっと……まぁ、とにかくもういい。いや、よくないけど。お前の頭も良くないけど。お前の奇行はいつものことだ……問題は、これを作るのを誰が容認したのかってことだな……」
らのは私を起こし、席に座らせると(もちろんお姫様抱っこなどではなく、猫みたいに首ねっこをつかまれてだ)まるで本能寺の変直後の明智光秀を前にした豊臣秀吉みたいな目で食堂の窓の外を眺めた。
食堂の窓から見える教室は四つある。
二年一組と二年二組の教室。カウンセラー室。そして、家庭科室。
……うーん。らのちゃんってば、カウンセラー室眺めちゃって。何か悩みでもあるのかな?胸の悩みかな?胸だけに胸中を打ち明けたいのかな?きゃはっ。
「ちょっとあの行き遅れ野郎、早めに逝かせてくるわ」
「違う!字が違う!やめてええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!マリー先生をお嫁さんに行かせる前にあの世に逝かせようとしないでええええええええええええええ!」
「羽交い絞めを解け!つか、完全に足折ったのに何でもう治ってんだよ!いや、そんなことはどうでもいい!今はあの野郎を家庭科教師らしく料理してやる方が優先だ!何であの野郎、この生ごみによるふざけた製作物を容認しやがった!」
「ねぇ!?生ごみって誰のこと!?ひょっとして私のこと!?家庭科=料理=生ごみで家庭科にかけようとしたんだと思うけど全然かかってないから!ただの悪口になってるから!あと、完全に足折ったのにって、親友にかける言葉じゃない!」
先生が、私がらのにブラジャーを送ることを容認してくれた理由を隠すべく、私はさりげなく文末に、らのが私に犯した蛮行の話題を持っていって、何とか注意をそちらに向けて、話を逸らそうと試みた。
しかし、
「ひっ」
その形相を見てしまえば、黙秘できるわけもなかった。
その――鬼でもそれを見てしまえば、頭の角を地面にぶっ刺してしまいそうな、鬼の形相を見てしまえば。
観念して、私は口を割った。
「……えっと、最初はマリー先生も拒否してたんだけど、その……らのが自分より胸の小さい子だってわかった瞬間、急に憐れんだ視線になって……」
「ウェルダンにして牛に食わせてくるわ」
「やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!じっくり焼くのはやめたげてええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!退学に!退学になっちゃう!せっかく『一段階下がった神戸さんの成績も元に戻しておいてあげるわね』、って先生が言ってくれた私の努力が、無駄になっちゃう!」
「どういうことだ!何で私じゃなくてお前が受けてる家庭科の授業中に、私の家庭科の成績が一段階下がってんだよ!くそ、あの野郎!少し胸がでかいからってでかい面しやがって!」
それからしばらくの間、私はらのに体中のいたるところ、特に胸を重点的に殴られ、蹴られ、折られたが、昼休みが始まる直前になってようやく、何とか完璧美少女JKらしく彼女の怒りを鎮め、家庭科教師が牛の肥料になるという悲惨且つ珍事な事件が発生してしまうのを未然に防いだのだった。
ふぅ……やれやれ。ブラだけに、bruh(スラングで友達と言う意味)の気持ちを計るのは難しいね。
「墓の準備はもうできてる」
「ふぐぅ」
らのによる目つぶしを食らい、目の前が真っ黒になる。
アハハ……これがほんとの、ブラックジョーク。
ご一読、ありがとうございました。今日も今日とて、皆の完璧美少女、諸刃剣が後書きをお送りさせていただきます。
え?賄賂?はて?何のことやら。記憶にございませんな。
さて、今回も私の大親友、神戸らのさんについてのお話でしたね。
神戸らのさんはとても要領が良くて、頭もキレて、絵を描くのも上手で、ほんとに多芸なんですよ。特に絵に関しては、ほんとにプロレベルで、ただただ尊敬しかありませn。
しかし、そんな彼女にも弱点……いや、弱点というか、可愛い所って言うんですかね。まぁ、とにかく気になるところがありまして……。
彼女、百合漫画を描いておりまして、いえ、別にそれが弱点と言うわけではありません。女性の同性愛なんて全然普通のことですし、むしろ私もらのと同様、好んで見てますし。
ただ、ですね。どうにも彼女の描く漫画の女の子、胸が小さめな気がするんですよね……。
大きな胸を描くのが苦手という作家さんがいる、というのは確かに聞いたことがあるような気もするんですが、どうも彼女はそうでもないような。
さてさて、それならどうしてなのでしょう?うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
やっぱり、自分の胸が大きい子を描きたくないから――――――――――――――――――――――――――(剣のみぞおちに謎のキックが入り、失神したことにより、録音は中止されました)。




