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第1話『魔王を殺して思うこと』


 ────魔王を討ち取った。


 魔法の中で、もっとも弱いとされている属性。


 風属性の魔法使いウィンが成し遂げた。


 始まりは、四人での旅路だった。


 王都には、一人で帰った。


 なぜ、一人で帰ったのか。


 三人とも死んでしまったからだ。


 ──ヒーラーが死んだ。


 このパーティの生命線。


 その少女を真っ先に失った。


 死因を語る。


 魔物との乱戦になり、回復が間に合わない状況が続く。


 回復に手間取っている一瞬の隙。


 それを魔物に狙われた。


 人が死ぬのは、本当にあっけないものだ。


 オークが少女の頭部を粉砕した。


 あんなに凛として美しい女の子だったのに。


 たった一瞬で脳みその肉片となる。


 彼女の顔は、もう二度と思い出すことが出来ないだろう。


 回復手段を失ったこと。


 戦いが激化していたこと。


 それからが、惨劇の始まりとなる。


 ──槍使いが死んだ。


 二番目に死んだ男である。


 戦いの最前線で敵を討つ。


 そんな姿が頼もしい奴だった。


 魔王軍幹部との交戦になり、瀕死の重症を負いながらも見事に勝利してみせた。


 そんな男が死んだ理由。


 相打ちだったからだ。


 魔物軍幹部に槍使いが会心の一撃。


 それで終わってくれていれば、槍使いも死なずに済んだ。


 最後の抵抗をされる。


 決死の自爆。


 槍使いの両腕と右足が、爆発により吹き飛んだ。


 ヒーラーさえ生きていれば助かっただろう。


 失った四肢だってどうにかなる。


 にっこりと、ただ笑って槍使いは死んだ。


 あの笑顔が、脳裏に焼き付いて離れてくれない。


 ──勇者が死んだ。


 最後に死んだ男である。


 少し鼻につく変な奴だけど、人一倍優しい人間だった。


 パーティでの気の利かせ方も一流。


 村人との難航していた話し合いも見事に解決して見せた。


 カリスマ性の高い、憎めない男だった。


 死んだのは、魔王との決戦の時。


 勇者と二人で相手をすることになる。


 正直言って、負け戦だった。


 魔王の攻撃は凄まじく、なす術が無くなった時。


 一番弱い俺が標的となった。


 強力な酸を放つ魔法。


 そんなものが身体に付着すれば、発狂、激痛共に、地獄のような苦しみを味わうことになるだろう。


 ここで死ぬべきだったんだ。


 勇者が死ぬべきではなかった。


 身を呈して盾となり、勇者は酸を大量に浴びる。


 言葉にならない声で。


 ただひたすらに。


 獣のように雄叫びながら、勇者の身体は溶けていく。


 勇者は……ただのドロドロな液体に成り変わった。


 そこからは、あまり覚えていない。


 ただ半狂乱に魔王へ向けて魔法を放つだけ。


 俺もこれで死ぬのだと。


 死ぬのが怖くなってきた。


 もう仲間はいない。


 みんな死んだのだから。


 置いてけぼりは寂しいから。


 いっそ、死んだ方が良かったとさえ思う。


 魔王に追い詰められた時。


 魔法が覚醒した。


 ある種の進化とも呼べる。


 最上級の風属性魔法を習得してしまった。


 魔法を詠唱する。


 魔王の身体は、バラバラに切断され、一瞬のうちに殺してしまった。


 音も無い風の斬撃。


 無抵抗に死んでいった魔王をじっと見る。


 魔王も殺せば……ただの肉。


 ──死ぬはずだった。


 ──風属性の魔法使いは、魔王を討ち取った。


 一人で魔王城を去る。


 旅が終わったんだ。


 勇者たちの遺品を担ぎ、王都に帰ることにする。


 徒歩で一年の時が流れた。


 ──王都へ帰還。


 魔王を討伐したと国王に告げる。


 仲間のことを聞かれたが、死んだとだけ答えた。


 もう俺は、仲間の顔も忘れてしまったから。


 心が、何も痛まない。


 今では、笑顔を見ると頭が痛くなる程度で済んでいる。


 勇者たちの名前も覚えない。


 今思うと、精神的に壊れていたのだろう。


 国王から莫大な報酬を受け取った。


 不思議と心は、全く踊らなかった。


 なぜだろうな。


 宴の準備をすると言いだした第二王子。


 その夜は、一晩中国民が騒ぎ狂っていた。


 酒を呑まされる。


 酔っ払うことは無かった。


 いくら呑んでも酔えなかったんだ。


 ただのマズいアルコールを喉に流し込む。


 ──嗚咽した。


 ──吐き戻した。


 勇者たちの思い出が蘇ってきそうで必死に堪えた。


 日が昇る頃、王都の宴は滞りなく終わった。


 それから、一か月。


 魔王の脅威が去った王都は今も平和だ。


 これが、勇者が守った世界だ。


 それなのに、誰も勇者の話しをする者がいなくなった。


 英雄のことを忘れ去ったように。


 魔王なんて最初からいなかったように。


 時が進むにつれて、平和なことが当たり前になっていく。


 勇者よ……こんな世界が欲しかったのか。


 讃えて……やって欲しかった。


 ──最前線で戦い抜いた槍使いを。


 ──どんな窮地でも、誰かの治療を行うヒーラーを。


 ──諦めずに、魔王と戦い抜いた勇者を。


 勇者たちの活躍を書籍にしようとした。


 百年後も、思い出して貰えるように。


 検閲に引っかかるからと拒まれた。


 なんの為に戦ってたんだ。


 なんの為に死んだんだ。


 俺は……たまたま生き残っただけ。


 ──せめてもの供養。


 ──三人の墓を建てた。


 遺骨は無い。


 遺品で代用した。


 ──ヒーラーのグローブ。


 ──槍使いの槍。


 ──折れた勇者の剣。


 ただの義務感で手を拝む。


 語りかけたいことなど無かった。


 世界が腐ったのか。


 元から腐っていたのか。


 平和ボケした商人が、墓を見て笑った。


 ──今時、戦死した奴がいるのか。


 何も思わなかった。


 死んだら何も残らないから。


 世界が狂っているだけなんだと。


 散々笑い散らかし、商人共は去っていく。


 以外と心は、穏やかでいられたんだ。


 ──魔王を殺して思うこと。


 この世界に……勇者は要らなかった。


 思えることは、そんなところ。


 「こんなクソったれな世界なら……滅ぼしてしまおうか」


 不意に言葉が出た。


 出来もしない戯言だ。


 勇者は、本当にこの世界を救いたかったのか。


 死人は、口など利かない。


 俺たちは、何が欲しくて戦っていたのだろうか。


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