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公僕戦線 (12):数字の非情異形と過去の裁き

ゼロと化した、人間性の重み。


財務省の奥深く、会計検査院へ。税務担当・小林一は、自身の過去の裁きと対峙する。


数字の絶対的な正義に囚われたエリートの思想が、「数字の非情異形」を具現化。異形は、人間の命を費用対効果ゼロとして排除しようとする。


小林は、『予算の鉄槌』の異能をもって、数字の中に人間性を見出し、公務の非情な過去を清算できるか。

1.冒頭:会計検査院の重圧と小林の動揺

特命係は、財務省の巨大なビルのさらに奥、厳重なセキュリティで守られた会計検査院の記録室に潜入した。ここは、国家の全ての公金支出を監査し、「数字の真実」を裁く、最も冷徹な権威が支配する場所だ。記録室の壁は、何千、何万という監査調書が収められた巨大な棚で埋め尽くされ、その空気は、過去の不正と、それに対する無慈悲な裁きの重圧で満ちていた。


この空間が放つ冷気は、単なる室温の低さではなく、「感情を排除した公務」の結晶だった。


今回の任務は、税務担当・小林一の最も深いトラウマと直結していた。彼はかつて会計検査院に出向していた際、「数字の合理性」を盾に、真に必要な地方の福祉事業を凍結させ、結果的に市民の生活を破壊した過去を持つ。彼の異能『予算の鉄槌』は、その時の「非情な裁き」の記憶によって、常に冷たい鉄の塊のように重く、力を発揮しきれないでいた。


「田中課長。この場所の数字は、感情を殺しています。公務員が、ただの数字の羅列で、人間の生殺与奪を握っていた。この調書の一つ一つが、誰かの人生を『非効率』として切り捨てた証拠だ」小林は、記録室に並ぶ膨大な監査調書を見つめ、苦痛に顔を歪ませた。


彼らの前に現れたのは、会計検査院のエリート監査官、土屋(40代)。彼は、小林のかつての同僚であり、「数字の絶対的な正義」を信奉する、冷酷な合理主義者だった。彼の眼差しは、小林を「感情というバグに感染した裏切り者」と見なしていた。


「小林。なぜ、お前はまだ感情などという非効率なものに囚われている?公務とは、数字による非情な裁きだ。お前が下した過去の判断、あの福祉事業凍結こそ、数字から見れば完璧な公務だったはずだ」


田中課長は、土屋の背後に潜む巨悪の核を見据えた。「同志が求めた『会計の完璧さ』は、『人間性の排除』へと歪められた。異形の核は、『数字を絶対化し、人間性をゼロとみなす悪意』、すなわち官僚の傲慢な合理性にある」



2.予兆:非情な裁きの具現化とトラウマの再燃

小林は、土屋の指示で動いている監査システムにアクセスし、異常なプログラムを発見した。それは、「人命の重みを、その人に支払われた税金と、予測される社会貢献度で計算し、費用対効果がゼロの事業を自動で凍結させる」という、恐るべきアルゴリズムだった。このシステムは、「公務員の判断ミス」を排除し、「完璧な非情な裁き」を自動で行うために設計されていた。


「狂っている……!人間性や人命を、数字の効率だけで裁こうとしている!これは、公務員が神の役割を演じようとしている行為だ!」小林の怒りが頂点に達した。


土屋は冷笑した。「これが真の公務だ、小林。君は、かつて正しい裁きを下した。あの時、君が凍結した福祉事業は、年間数千万円の赤字を垂れ流す非効率の極みだった。それが公務員としての真の責任だ。感情で予算を動かせば、国家は破綻する!」


土屋の言葉は、小林の過去のトラウマを抉り出した。脳裏に、凍結された福祉事業の利用者たちの、絶望と怒りに満ちた顔が、リアルに蘇る。彼の『予算の鉄槌』は、その時の罪悪感で、冷たい鉄の塊のように重くなり、光を失った。


『お前は、数字で人間を殺した。お前の合理性は、非情な悪意だ。公務員は、非情であれ』異形の声が、小林の公務員としての魂を蝕む。


その瞬間、記録室全体が、無数の「ゼロ」の文字と、冷徹な計算式で構成された、巨大な「非情の壁」に覆われた。壁の中央には、小林が過去に凍結した事業の監査調書が張り付き、数字の非情さを示す異形の具現化が始まった。それは、「数字の非情異形ゼロ・ヒューマニティ・デーモン」と呼ばれる、人間性を否定する公務の悪意そのものだった。



3.バトル開始:非情異形と『予算の鉄槌』の葛藤

土屋の思想が臨界点に達し、「数字の非情異形」が具現化。それは、無数の「ゼロ」の文字と、冷徹な論理の数式で構成された、巨大な氷のような怪異だった。異形は、「公務の絶対的な合理性」という名の重圧を放ち、特命係のメンバーを圧迫する。


異形は、小林に強烈な精神攻撃を加える。『小林一!数字は嘘をつかない。お前の情は、非効率なバグだ!公務員が感情を持てば、国家は破綻する!お前の裁きは、常に正しかった!認めろ!』


異形の論理は、「人間性の非効率性」を徹底的に攻撃し、小林の『予算の鉄槌』の力を奪おうとする。鉄槌は、非情の数式によって重く固められ、持ち上げることすら困難になる。


田中課長が叫ぶ。「小林くん!数字の力は、人間を救うためにある!過去の過ちを乗り越えろ!君の鉄槌は、情熱で動くはずだ!」


小林は、異形の「ゼロの壁」に全身を打ち付けられながらも、己の異能を覚醒させる。彼の鉄槌は、「数字を支配するのではなく、数字に意味を与える」という、新たな哲学を見出し始めていた。


「特命係は、連携する!数字の中に、人間性を見出す!それが、私たちの公務だ!」


西田が『公務マニュアル』で「公共の福祉の原則」を具現化し、異形の「非情の論理」に論理的な矛盾を突きつける。佐藤が『地盤操作』で、記録室の床下に「過去に凍結された事業の、市民生活への影響」を具現化し、異形の足元に「人間の重み」を押しつける。渡辺が『連鎖の鎖』で、「数字によって断たれた市民との繋がり」を再構築し、異形を拘束。鈴木が『広報の呪文』で、「数字の裏に隠された、市民の真の言葉と悲鳴」を異形の体内に撃ち込む。



4.クライマックス:数字に意味を与える哲学

特命係の連携により、異形の「ゼロの壁」に深い亀裂が入る。小林は、過去の裁きが「人間性の軽視」によるものだったと認めつつ、数字の真の役割を悟る。


「数字は、裁きの道具ではない!数字は、公務員が人間を救うための、証拠であり、計画書だ!公務員は、数字に意味を与える者でなければならない!感情をゼロとみなすな!」


小林が、『予算の鉄槌』を最大限に発動。彼の鉄槌は、過去の非情な監査調書を打ち砕き、「ゼロ」の数字に「人間性(HUMANITY)」という新たな値を上書きしていく。その上書きされた数字は、「予算の真の目的」である「人命の救済」の証拠となった。


小林が放ったのは、会計公務員の真の真言(呪文)。


「予算とは、冷徹な裁きではない!公僕が、市民の生活に『意味』を与えるための『熱き計画書』だ!公務員は、数字の奴隷ではなく、数字の支配者でなければならない!そして、すべての公務の数字の終着点は、市民の福祉である!」


数字の非情異形は、「数字に込められた人間の情熱」という、彼らが否定した公務の本質の力に耐えきれず、完全に崩壊。土屋は、「数字の絶対的な正義」が「人間の情熱」によって打ち砕かれた現実に、打ちのめされた。



5.終幕:過去の清算と次の標的

小林は、かつての同僚だった土屋に対し、「公務員は、数字で人間を裁く権利はない。数字は、人間のためにある」と告げ、彼の過去の過ちを清算した。土屋は、逮捕された。


田中課長は、小林の成長を認めつつ、財務省の次の闇を指摘した。


「同志がこの場所で封印しようとしたのは、『国家財政の狂信的な理想』だ。それは、福祉を切り捨て、国家の数字だけを健全にしようとする思想に繋がっている」


田中課長は、小林の『予算の鉄槌』が、次の標的を感知していることを指摘した。それは、財務省の「財政再建」の名の下で、国民の福祉を破壊しようとする巨悪だった。


「次巻、我々は、『財政再建の狂信異形』に挑む。そこには、税の哲学を賭けた最終決戦が待っている。公的負担と公的支援の真のバランスを証明しなければならない」


∗∗第12巻完∗∗

∗∗第三部・霞が関編進行中∗∗

数字の哲学と、狂信の理想。


お読みいただきありがとうございます。


小林の『予算の鉄槌』は、「数字の非情異形」を打ち砕き、公務の過去の過ちを清算しました。彼は、数字が人間を救うための道具であることを悟ります。


次巻(第13巻)は、財務省編の最終章。彼らが挑むのは、「財政再建の狂信異形」。福祉を切り捨てる公務の悪意と、税の哲学を賭けた最終決戦が始まります。


『公僕戦線第13巻:財政再建の狂信と税の哲学』にご期待ください。

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