第2話: 馬車の軋みと、仲間(?)の絆
「タカシ! 右! 右に曲がれって! 木の根っこがやばいぞ!」
モブその1――いや、クラスメイトの佐藤くんが、馬車の荷台から叫んだ。草原を突っ切る俺たちの馬車は、ガタガタと揺れながら森の入口に突入していた。俺、細山タカシの「地図予測スキル」が、頭の中にぼんやりと道を映し出す。右のルートは確かに平坦で、左は根っこが飛び出してる。佐藤の叫び声がなくても、俺には見えてるぜ。
「了解! 右行くぞ! みんな、しっかり掴まってろ!」
鞭を振るい、馬が嘶く。馬車が右に急旋回し、木々の間を縫うように進む。森の空気はひんやりして、葉っぱの匂いと土の香りが鼻をつく。クラスメイトの5人――俺、佐藤、田中(モブその2)、山本(モブその3)、そして女子の鈴木さん(モブだけどちょっと可愛い)――は、馬車にしがみつきながら、目をキラキラさせてる。いや、鈴木さんはビビってるだけか?
「タカシくん、ほんとにこのルートでいいの? なんか暗いよ! モンスターとか出ないよね!?」
鈴木さんが震える声で言う。確かに、森の奥は薄暗く、木々がざわめく音が不気味だ。でも、俺のスキルはこう告げてる――この森を抜ければ、最初の通過ポイントである「丘の遺跡」に最短で到達できる。地図予測スキル、めっちゃ便利じゃん。くじ引きでこれ引いてよかった。
「大丈夫だ、鈴木さん! 俺のスキルが最短ルートを示してる。遺跡でスタンプ押して、近くの村で食料調達だ。腹減ったろ?」
「う、うん……でも、怖いよ……」
鈴木さんが縮こまる中、佐藤がニヤッと笑う。「タカシ、さっすがリーダー! でもよ、ケンジのグループがめっちゃ速いぜ。さっきチラッと見えたけど、馬車がなんか光ってた!」
「光ってた? あいつの馬車強化スキルか……」
ケンジのグループBは、スタート直後からぶっ飛ばしてる。あの馬車、普通の木製なのに、なんか金属光沢っぽい輝きを放ってた。強化スキルでスピードアップしてるんだろうな。くそ、負けてらんねえ!
シーン転換:グループB(ケンジ視点)
「ハハッ! 見てみろよ、この馬車! まるでフェラーリだぜ!」
ケンジがハンドルを握り、馬車を疾走させる。グループBの馬車は、木の表面に銀色の光沢が走り、車輪がまるでジェットエンジンのように唸ってる。ケンジの「馬車強化スキル」は、馬車の耐久力とスピードをブーストし、馬のスタミナも底上げするチートだ。グループのモブ4人――高橋、斎藤、松本、中村――は、馬車の荷台で大騒ぎ。
「ケンジ、すげえ! このスピード、めっちゃ気持ちいい!」
「でもよ、食料どうすんだ? もう腹減ってきたぞ!」
高橋が叫ぶと、ケンジはニヤリと笑う。「平原抜けたら村がある。そこである程度買い込むぜ。タカシのグループ、森に入ったみたいだけど、あそこモンスター多いからな。置いてくぞ!」
ケンジの馬車は、平原の風を切り裂き、遠くに見える村の煙突を目指す。だが、背後から不穏な気配。別の馬車――グループCのユウキのチームだ。ユウキの「食料生成スキル」が、すでに水とパンを作り出し、モブたちが満面の笑みで食ってるのが見える。
「ちっ、ユウキのヤツ、食料でモブの心をガッチリ掴みやがったな……」
シーン転換:グループC(ユウキ視点)
「はい、みんな、水飲んで! パンもあるよ!」
ユウキは穏やかな笑顔で、グループのモブたちにパンを配る。食料生成スキルは、1日に数キロの簡単な食料と水を生み出せる。地味だけど、レースの持久戦では最強クラスだ。グループCのモブ――岡本、林、加藤、藤田――は、ユウキを崇拝する勢いでパンにかぶりつく。
「ユウキさん、神! これで食料の心配ねえ!」
「でもさ、ルートどうすんの? タカシのグループは森、ケンジは平原。俺たちは?」
ユウキは眼鏡をクイッと上げ、地図を広げる。頭脳派の彼は、タカシのスキルほどじゃないけど、地形の分析は得意だ。「俺たちは川沿いのルートで行く。遺跡の通過ポイントは近いし、川で水を補給できる。ケンジの馬車速いけど、食料がないから村で足止めされるはず。そこを抜くよ」
モブたちが「さすが!」と盛り上がる中、ユウキの脳裏に王様たちの笑顔がちらつく。「このレース、ただの娯楽じゃない。妨害何でもありってのが、なんか嫌な予感するな……」
シーン転換:グループD(ショウタ視点)
「全員、黙ってろ。敵が近くにいる」
ショウタの冷たい声が、グループDの馬車内に響く。妨害耐性スキルの持ち主である彼は、馬車の周囲に漂う殺気を敏感に感じ取る。グループDのモブ――石川、佐々木、山田、吉田――は、ショウタの威圧感にビビりながら、馬車を進める。ルートは丘陵地帯。でこぼこ道だが、ショウタのスキルで馬車へのダメージが軽減される。
「ショウタ、このルートって安全なの?」
石川の質問に、ショウタは無表情で答える。「安全なんてねえ。さっき、森の方で狼の遠吠えが聞こえた。タカシのグループがやばいかもな。俺たちは遺跡まで直進。妨害は全部俺が防ぐ」
その言葉通り、丘陵の茂みから飛び出したゴブリンらしきモンスターが、馬車に投石を仕掛けてきた。だが、ショウタのスキルが発動し、馬車に薄い光のバリアが張られる。石は弾かれ、ゴブリンは唸り声を上げて逃げる。
「すげえ、ショウタ! これで無敵じゃん!」
「無敵じゃない。集中しろ。遺跡でスタンプ押したら、村で食料だ。動け」
ショウタの冷静な指揮に、モブたちは従うしかない。このグループ、結束力は薄いけど、ショウタのスキル頼みで突き進む。
クライマックス:最初の妨害
タカシのグループが森を抜けようとしたその時、背後からドスン! と重い音。振り返ると、ケンジのグループBの馬車が、わざと倒した木で道を塞いでいた。ケンジが馬車から顔を出し、ニヤリと笑う。
「悪いな、タカシ! 妨害何でもありってルールだろ? 遺跡、俺が先にスタンプ押すぜ!」
「くそっ、ケンジ、やりやがったな!」
俺は鞭を振り、馬車を加速させる。地図予測スキルが、倒木を避ける迂回路を示す。だが、森の奥からゴブリンの群れが現れ、吠えながら追いかけてくる。鈴木さんが悲鳴を上げる中、佐藤が荷台から木の棒を手に叫ぶ。
「タカシ、俺がゴブリン引きつける! お前は遺跡まで突っ走れ!」
「佐藤、危ねえぞ!」
「いいから行け! 奴隷になるよりマシだ!」
佐藤が馬車から飛び降り、ゴブリンに向かって棒を振り回す。なんて勇気だ、モブなのに! 俺は歯を食いしばり、馬車を遺跡へ向ける。遠くで、ユウキの馬車が川沿いを進み、ショウタの馬車が丘を越えるのが見える。ケンジの馬車はすでに先頭だ。
王様たちの観戦席では、太った王様がワインを飲みながら笑う。「ふはは! さっそく妨害だ! 面白いぞ、このレース!」
理不尽すぎるぜ、この世界。けど、俺たちは負けない。遺跡のスタンプ、絶対に押してやる!
(つづく)




