表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

第1話: 理不尽な召喚と、馬車の咆哮

「え、なんだこれ? バスが崖から落ちてる……って、俺、死んだの?」

俺、細山タカシは、ぼんやりとした意識の中でそう思った。修学旅行のバスがカーブを曲がり損ねて、谷底に転落した瞬間を鮮やかに思い出せる。クラスメイトたちの悲鳴、ガラスの割れる音、そして衝撃。次の瞬間、俺はここにいた。白く輝く大理石の床、黄金の装飾が施された巨大な会議室のような場所。頭上にはシャンデリアがきらめき、周囲には20人ほどのクラスメイトが、ぽかんと口を開けて座り込んでいる。

「みんな、無事か? ってか、ここどこだよ!」

隣にいたケンジが立ち上がって叫んだ。ケンジはクラスで一番のスポーツマンで、いつも俺を引っ張り回すヤツだ。向こう側ではユウキが目をこすり、ショウタが周囲を警戒するように睨んでいる。ユウキは頭脳派で、いつもクイズ番組みたいに知識を披露するヤツ。ショウタはクールで、喧嘩っ早いけど意外と仲間思い。俺たち四人は、クラスの中でもなんとなくグループを組んで遊んでた仲だ。残りのモブみたいな連中――いや、クラスメイトだけど――はパニックを起こして騒いでいる。

「おい、落ち着けよ! 夢じゃねえのか、これ?」

誰かが言ったが、すぐにそれは否定された。なぜなら、部屋の正面に、まるでファンタジー映画から飛び出してきたような王様たちが、玉座にふんぞり返っていたからだ。5人ほどの王様たち。各々が派手な冠をかぶり、宝石だらけのローブを着込み、ワイングラスを傾けている。中央の太った王様が、ゲップをしながら笑った。

「ふははは! ようこそ、異世界へ! 私たちはこの大陸の王たちだ。娯楽が少なくてねえ、毎日退屈で退屈で。会議で決めたんだよ。地球から君たちを召喚して、面白いレースをしてもらうことに!」

「レース……? 召喚? ふざけんなよ! 俺たちを勝手に殺して連れてきたのか!?」

ケンジが拳を握って叫んだ。俺も腹が立った。修学旅行の最中に死んで、こんな理不尽な世界に放り込まれるなんて。クラスメイトの女子の一人が泣き出し、男子の何人かが王様たちに詰め寄ろうとする。でも、王様の一人が指をパチンと鳴らすと、俺たちの体がピタリと動かなくなった。魔法かよ、これ。

「まあまあ、興奮するなよ。ルールを説明するからさ。君たち20人を、5人ずつの4グループに分ける。各グループに馬車を1台与える。それで、この異世界の大陸を一周するレースだ! 地図は地球の各大陸を真ん中に寄せ集めたみたいな形だぜ。外側は全部海で、荒波と海獣がうじゃうじゃ。通過ポイントがいくつかあって、そこは必ず通れよ。あとはルート自由! 妨害は何でもありだ。馬車を壊しても、相手を騙しても、殺し合いしなくたって、勝てばいいんだよ!」

王様の言葉に、部屋がざわついた。レース? 馬車で一周? しかも妨害自由? これはゲームじゃねえ、現実だぞ。太った王様が続け、にやにや笑う。

「日数はわからないよ。数ヶ月かかるかもね。食料や水はレース中に調達しろ。村で買うか、狩るか、盗むか、好きにしろ。勝ったグループは、この異世界で自由に暮らせる。チートスキルもくれてやるぜ。負けたグループは……ふふ、奴隷だ! 王宮の掃除から、鉱山労働まで、永遠にこき使われるよ。娯楽のためだ、許せよな!」

理不尽すぎる。俺たちはただの高校生だぞ。クラスメイトの半数が絶望の表情を浮かべ、残りが怒りを爆発させる。でも、王様たちはまるでテレビ番組の司会者みたいに楽しげだ。一人がくじ箱を差し出し、言った。

「まずはスキル配布だ! くじ引きで決めるよ。ラッキーなヤツは強力なチートを手に入れろ!」

くじ引きが始まった。俺、細山タカシは「地図予測スキル」を引いた。地図を見ただけで最適ルートや危険を予測できるらしい。ケンジは「馬車強化スキル」――馬車を速く強く改造できる。ユウキは「食料生成スキル」――簡単な食べ物や水を生成。ショウタは「妨害耐性スキル」――妨害や攻撃を軽減する。残りのクラスメイトはモブスキルみたいな弱いものか、無し。ランダムすぎて、みんな文句を言うが、無視される。

次にグループ分け。ランダムで5人ずつ。俺はタカシグループ(A)、ケンジはB、ユウキはC、ショウタはD。それぞれのリーダー格みたいになった。モブたちは俺たちにすがりつく。「タカシくん、頼むよ!」みたいな。グループ間の視線が交錯し、すでにライバル意識が芽生える。ケンジが俺にウィンクしてくる。「負けねえぞ、タカシ!」

王様たちが手を叩くと、俺たちはスタートラインに転送された。広大な草原の真ん中。4台の馬車が並び、馬が鼻息を荒げている。遠くに森や山、海の気配。地図が頭に浮かび、通過ポイントの位置がわかる。スタートの合図は、王様たちの魔法の花火。

「スタート!」

ドン! と爆音が響き、馬車が飛び出す。俺のグループは馬を鞭打ち、草原を疾走。風が頰を切り、興奮と恐怖が混じり合う。「おい、みんな! まずは最初の通過ポイントを目指すぞ! 村で食料調達だ!」俺が叫ぶと、モブたちが頷く。でも、後ろを見ると、ケンジの馬車がすでに速い。強化スキルかよ、早速チートじゃん。

初日の混乱。馬車が揺れ、クラスメイトの笑い声と叫び声が交錯。森に入ると、木々がざわめき、遠くで狼の遠吠え。妨害はまだないけど、いつ始まるかわからない。奴隷なんてごめんだ。俺たちは、この理不尽なレースを勝ち抜くしかない。

(つづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ