EP.7 殺し屋
爆音の正体は私の家の庭に着地する。これ周りの人に迷惑かかってないかなぁ。私はそいつに向かって話しかける。
「よ。急に呼んですまんな。......兄貴」そいつは私の兄であった。
「本当だ。一応オレ隣国にいたんだぜ?で、要件は?」
「ああ、仕事が溜まり過ぎてな......手伝って欲しいんよ」「暗殺だっけか。りょうかーい」
......ノリかっる。人殺すんだぞ?いや助かるけど。
「じゃあこっちの半分を頼む。暗殺だからな。顔がバレないように仮面とフード忘れんなよ。......今日中に全部、やり切るぞ」「お〜〜」気の抜けた返事が聞こえる。こんなので大丈夫か、と心配になる。
が、腕は確かだ。なんなら私より強い。
兄貴は地を蹴り、飛翔していく。いや何で飛べるんだよ。
……そんなことを言っている場合ではない。私も出発しなければ。「証拠隠滅希望が5件、それ以外が3件。とりあえず簡単なものからやるか。」整理はついた。足に力を込め、跳ぶ。流石に兄貴のように飛ぶことはできないので、ピョンピョンと屋根をつたって進んでいく。
「早く終わらせたいなぁ」なんて、独り言をこぼしながら。
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「標的確認」ビルの屋上から、別の建物内にいる標的を見つめる。パーティーに参加しているようだ。今回は証拠隠滅は不要。なのでどんな手で殺してもいい。
私は懐から投げナイフを取り出し、構える。ここから標的はだいたい100メートル離れている。結構全力で投げないと多分風にのまれるなこれ。風を見極め、投げる角度を調整し、集中する。
そして、一閃。弾丸と見紛う速度で投げナイフが宙を裂き、窓ガラスを容易く破り標的の喉元に刺さる。直後に悲鳴、絶叫。会場は阿鼻叫喚の地獄絵図に変わっていた。彼は政府の重役。捜査の手が回らぬうちに次の標的を殺しに向かわねば。またもや私は跳び、次の標的を探す。
これがまだ一件目なのである。ちなみに今は午後9時。今日は徹夜確定だ。......ハァ
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あれから時間は過ぎ、午前2時。もう次の日となった。さすがに集中が切れてくる時間である。仕事の方は、残り2件となっていた。が、面倒である証拠隠滅希望。どうにか早く終わらせたい私は、『能力』をフルで使用し、高速で移動することを決意する。フル使用はめっちゃ疲れる。ただまあ私の睡眠時間のためだ。頑張らねば。
「『能力』発動!」自分を奮い立たせつつ発動。現在地から標的までは結構遠い。それを一気に跳び、直接触れに行く。証拠隠滅には『能力』を使わなければいけないが、触れることが条件となる。
「い......け!」音速を超える跳躍。私自身が空気を切り裂く弾丸となり、遠くにいる標的目掛けぶっとぶ。標的の『魔力』を追って居場所の確認をすると、なんと二人とも同じ場所にいた。標的はヤクザと政府の役人である。だが戦っているような気配はない。
どこかで聞いた政府と犯罪者組織が繋がっている、と言う噂は本当なのだろうか。少し探ってみるか。
着地位置を少し変え、音が出ないようにそっと地上に降り立つ。スマホを構え、会話を録画する。
「お役人様、これを......」「お主も悪よのう」「いえいえ、お役人様ほどでは......」
......ここまで典型的な悪いやつの会話聞いたことねぇよ!ここは時代劇かっ!
まあいい。証拠はしっかり収めた。いつか役に立つだろ。
ってことで、悪い奴らは成敗しないと、な。
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「お主も悪よのう」俺様は今、ヤクザと取引している。その内容は、「政府に反対意見をもつ人物や、反旗を翻されると危険な『能力』を持つ人物の情報提供を受ける代わりに、こいつのグループには手を出さない」というものだった。情報に則ってそいつを殺せば、上から報酬が出るし、出世もできる。こいつはグループが潰される心配がなくなる。ウィンウィン、ってやつだ。
さて、誰かに見られる前にここを離れるとするか。まあ護衛が大量にいるから誰かが近づいたらすぐにわかると思うがな。その時は国への反乱を企てた、として俺様がこの手で粛清してやる。そうなればまた階級が上がって〜もっといい立場になって〜いずれはこの国を牛耳る存在に、なんてグフフフフ......
「話は聞かせてもらったぁ!」いきなり聞こえた声。「何奴!?」どうやって護衛を掻い潜った?気配を消せるような『能力』か?なら俺様の敵ではないな!俺様の手で葬ってやる!
ドスッ。ドスッ。「......へ?」
今何が起こった?なんの音だ?何かを刺した音か?じゃあ何を刺したんだ?なぜか腹がとてつもなく痛いのだが......まさかまさかまさか!恐る恐る視線を下に向けると、
俺様の腹から、何やら赤い液体がとめどなく溢れ出ていた。
「何奴、か。答えるなら私は『unknown』だ。」あんのうん?『unknown』ってまさか裏社会のドンを殺した、とか噂されてる奴か?あいつは俺様の取引相手だからよく覚えてる。
「お前のせいで!俺様の取引相手が一人減ったんだぞ!」怒りがどんどんと湧いてくる。俺様が死んでもこいつだけは絶対に殺して地獄に送ってやる!
「護衛ども!こいつをさっさと殺せ!」命令を出す。グフフ、これでこいつは地獄に落ちる!俺様は天国から貴様を見下してやる!そういえば護衛どもの声が聞こえないな。返事もしないなんて無能の極みだな。
「誰に話かけてるんだ?お前以外人いねぇぞ?」......は!?なんでなんでなんで!?逃げたのか?でも足音しなかったぞ!?
「ま、私が全員跡形もなく消したんだがな。お前もだ。じゃあな」嘘だろ......死体もない。じゃあ俺様も?何も残らないのか?
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいや
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やーっと終わった。私は立ち上がり、ここに殺しの跡が残っていないか確認する。......うん、遺体も血痕もない。大丈夫だ。護衛もたくさん殺してしまった。まあしょうがないか。
跳びながら考える。今が午前2時ちょい過ぎ。帰ってだいたい4時か?そっから依頼主に連絡とかして兄貴の方の確認もして報酬の受け取りとかして......一睡もできねぇな。
明日はちゃんと休もう。そう堅く誓う私であった。