-2- VRおばあちゃんとの出会い
「...えーっと、はい繋がっています」
「あーよかった」
安心した様子の声が聞こえてくるが、今度はタンクが混乱する。
おばあさん?なんで?何かのいたずら?ガンズロックを?ゲーマーなのか?
「突然ごめんなさいね、なにがなんだか全然わからなくて、誰かに説明していただこうと思ったんだけど、なかなかお話しできるひとが捕まらなくて」
「な...るほど...」
とりあえず意思の疎通ができそうなことにに一旦ほっとする。
そしてよく聞くと、落ち着いた印象の、しっかりした声であった。落ち着け、案外自分と同じくらいの年齢の女性かもしれない。自分も若いとは言えない年齢であることを思い出す。
「たしか、ゲームを開始して、色々説明を聞くと、ここに飛んでくるようにできているんです、説明がちんぷんかんぷんでした?」
「...実はですね、孫にこのゲームを少し遊ばせてあげようなんて思ってこの機械を貸していたら、ここにいてしまったって感じなんです、だからその説明?も身に覚えがないんです」
理屈は通る。孫の遊ぶゲームに危険はないかどうか心配になったおばあさんなのだろう、と話からタンクは推測し、警戒を解いた。
「お孫さんと一緒にこのゲームをやってらっしゃるんですね...わかりました、ここで会ったのも何かの縁ですし、かいつまんでご説明しましょう」
「良かったわ、親切にありがとうございます」
移動の操作も若干おぼつかなかったおばあさんに一通りのロビー内での操作を説明する。
案内していると、ぴろん!と通知音がなる。タンクの端末にメッセージが届いた音だった。
<<対戦希望:3on3>>
《3on3の対戦をしたいのですが、ちょうど二人足りない状況です、いかがですか?》
どうやら、二人でロビーに長いこといたので対戦希望だと思われていたらしい。
「どうかなさいました?」
「我々と対戦をしたいっていうお誘いが来たんですけど...」
孫のためにゲームの勉強に来たおばあちゃんに対戦をさせて良いものか、そもそも対戦ゲームにお年寄りを誘うのって倫理的に良いのか?
「あら、対戦ってことは、ロボットに乗るやつでしょう?私やりたかったのよ!」
「そ、そうなんですが...操縦は初めてですか?」
「いえ、ここに飛ばされる前はずっと乗ってたのよ?それとあんまり変わらないのでしょう?」
言われてみれば、ゲーム開始直後は設定も兼ねて操縦のチュートリアルが入るのを思い出した。
しかし、実戦となるとまた勝手は違うものだ。
《こちら、対戦が初めての方がいるのですがいいですか?》
念のため断りのメッセージを入れておく。数秒とたたずに返事は来た。
《こちらも初心者なので大丈夫です!お願いします!》
事前に了解がとれれば、波は立たないだろう。
「まあそういうことなら...わかりました、やりましょう」
「ええ、お願いします」
「我々二人が、向こうの方お一人と組む形になるみたいです。音声チャットが繋がりますが、構いませんか?」
「大丈夫ですよ」
淡々と、待ちきれない様子のおばあさんをみて、不安を感じながら対戦開始ボタンを押した。周りの視界が一気に暗くなる。
♪♪♪♪♪♪
「あら、暗くなっちゃったわ、もしもしー?」
「聞こえてますよ」
次に明るくなると、タンクとBBは、近代的なパネルが並ぶ無機質な部屋の中に立っていた。
「なんだか綺麗なところに出たわね」
「対戦前の作戦会議室みたいなとこなんです」
このゲームでは、対戦成立から戦闘開始まで数分間、ブリーフィングが行われる。対戦で使われるマップの確認と、チームメンバーの機体の確認ができるこの時間で作戦を考えることができる。
部屋の中には二人と、洒落たマントを羽織った青年の姿があった。
「やあどーもー!」
朗らかに話しかけてくる端正な顔立ちのアバターは、人懐こそうな声だった。
「ご一緒のチームの方ですね、タンクです。よろしくお願いします」
「フィルです。よろしくっすー」
タンクの硬さとは対照的なあいさつだった。
「ほんで、そちらのお姉さんが初心者さんですね、BBさん」
「...よろしくお願いします」
アバターを見れば始めたてなのが一目瞭然(しかも思い切った年齢詐称)のおばあさん、BBは青年に警戒しているのか、軽く会釈をするだけだった。先ほどまでとテンションが違う。
「操作は一通りできるらしいんですけど、対戦は初めてだそうで」
「へーっ、あれ、じゃあお二人で組むのも初めてなんすね」
「というか、先ほど知り合ったばかりで...」
「ありゃ、いい感じの二人組がいるからって聞いてたのに、初対面だったのか」
青年は少し考え込む。どうやら向こうの3人との戦いの数合わせにあてがわれたらしい。
「俺のほうは数だけはこなしてるので大丈夫です」
「ふむー。ま、初心者交流会みたいなもんですし、気楽にやりましょう!」
サムズアップとともに軽く笑いかけてくる青年、フィルさんは悪い人ではなさそうでホッとする。
「んじゃあ機体を見せて頂くとしましてー...」
フィルさんが部屋の壁にあるボタンを操作すると、3人の機体情報が大きなパネルとそれぞれのアバターの前に表示される。おそらく自分はフィルさんの支援をすることになるので、まずその機体を確認する。
フィルさんのロボットは人型で、目を引くのは機体とほぼ同じ大きさの巨大な剣である。武装としてはほかに、左腕に小さな機関銃が内蔵されていたが、それ以外は何も見当たらない。また、アバターと同じで機体も洒落たマントを羽織っていた。素直にまとまっていてカッコいい、とタンクは思った。動いているのを見るのが楽しみだな、なんて考えていると...
「おお!?」
フィルさんの声が響く。
「どうしました?」
「このBBさんの機体...かなり思い切ったカスタムっすね...」
言われてすぐに確認する。
「こ、これは...」
そこには、およそ戦闘向けとは思えない、ちまっこいドラゴン型のロボがいた。
しかも武器は口に内蔵されている小型の機関銃のみ。とても対戦で火力が足りるとは思えない。
「ええっと、ごめんなさい、まだゲームの遊び方の話とかをしているところで、機体の話とかはあまり教えていなくて...」
思わずしどろもどろになりながらフォローに回るタンク。
「いけなかったかしら、結構いい子なのよ、私も気に入ってるの」
「ってことは、この機体にはBBさんかなり乗り込んでるんすね?」
「ええ、この子以外にはもうずいぶん乗っていないわ」
BBもフィルさんに弁明する。
「そこまで仰るならその機体でいきましょう、必ず最後に愛は勝ちますからね」
「ありがとう、頑張ってみるわ」
「ただし、戦術は、BBさんが空中から先行して、向こうが気を取られるその隙に俺とタンクさんが突っ込む!この先手を取るやり方に従ってもらいます、いいですか?」
「大丈夫よ」
BBはこくんとうなづいた。
結局フィルさんはいい形で折れてくれた。
下手に投げやりになったりせず、こうして勝ちの芽を探ってくれるのは心強い。
ちょうどそこまでの話でブリーフィングは終わり、再び目の前が暗転する。いよいよ戦いが始まるのだ。