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-1- 既婚中年サラリーマンの受難

「じゃあタンクさん、短い間でしたけどありがとうございました。」

「いえ、こちらこそ。」

「もう会うこともないでしょう、さすがに引退でしょうしね。」

嫌味ったらしい言葉と周りからの嘲笑に返事もせず、簡単な会釈と共に、俺はそそくさとその場を去っていた。


♪♪♪♪♪♪


さまざまな技術の進歩が目覚ましい、今より少し未来の世界。

そこでは、高速通信技術の発達により、VR(バーチャルリアリティ)システムの普及が格段に進んでいた。とはいっても、未だに五感全てを接続するいわゆるフルダイブには至っておらず、ヘッドギアを装着して視覚と聴覚のみ仮想世界に委ねる形となっていた。


それでもその技術はまさしく人々の常識を変えつつあるレベルに達しており、さすがに義務教育となるレベルではないながら、家にいながら仮想オフィスに出社するサラリーマン、家にいながら仮想学校に登校する学生等は、決して珍しくはないところまで来ていた。


そんな中、VRを利用したゲームはまさに隆盛を極めており、様々なジャンルのゲームがVRとの融和を試みていく。そのひとつが、この「ガンズロックオンライン」であった。

自分でロボットを作成、カスタマイズし、操縦する対戦型アクションゲームであるこの作品は件のシステムと相性が極めて良く、ゲーム自体の完成度も高かったので発売時は大いに、世界的な話題となった。


しかし、複数人対複数人の対戦がメインであることと、競技としての完成度からくるハードルの高さ、VRゲーム特有の難しい基本操作等々が合わさり、発売日から1ヶ月ほどをピークに、プレイヤー数自体はそこまで増えることはなかった。


が、それでも、仮想世界の中で大きなロボットが駆動音と共に激しくぶつかり合い、時には半壊しながらも戦い続けるその様は世界中の男性諸氏の心を激しく掴み、実際にプレイするのではなく、他人のプレイを観戦するのがメインの人も多い一種のスポーツのようなゲームとして扱われていた。


♪♪♪♪♪♪


中田一敏...タンクもまた、「ガンズロック」の男の世界に魅入られた一人であった。

昔からロボットアニメや漫画が好きであり、結婚して世帯を持ち、娘を立派に育て上げて尚、その趣味から離れることはなかった。


ゲームは発売された当初から熱心に遊んでいるものの、ゲームのメイン層である20代〜30代に比べるとやはり気持ちや体力の面で劣ること、会社勤めなのであまり多くのプレイ時間を確保できないこと、なにより"良き"チームを見つけることが未だ出来ずにいた彼は、現状このゲームを心から楽しめているとはいえない状況だった。


それでも、このゲームで、子どもの頃の夢だった自分だけのロボット、それを駆るエースパイロットを目指して遊び続けていた。


彼は、最近チームでの不和を指摘され、所属していたチームは脱退してしまった。チームでも年齢の差から、双方距離を置いた付き合いをしていたので、当然といえば当然だ。

しかし、次は正しく連携の取れるチームに所属しよう、それが出来ないならこのゲームとの距離を置こう、と考えるに至った。


次の日、改めてログインした彼は初心者向けロビーに真っ先に入った。

言わずもがな仲間を見つけるためである。ここは、チュートリアルを終えた初心者が最初に通される場所である為、常に一定の人で賑わっていた。

新人のチームへの勧誘、初めて遊ぶ友達との待ち合わせはもとより、初心者同士の対戦を望むものもここで希望者を募るのが慣習になっていた。


「さて、来てみたは良いものの、どういうプランで行くか...」

ただ勧誘されているものに入っていくだけでは前回所属したものと何も変わらない、自分から勧誘する側に回るのが手だろうか...そんなことを考えている時、事件は起きた。


<<音声通話申請が届いています>>


「ん、なんだ?」

突然の通話申請である。BBという見覚えのない名前だったが、どうやらこのロビーからだった。軽く辺りを見回すと明らかにキャラ作成を終えてすぐのような飾り気のない女性のアバターがこちらを見つめて立っていた。警戒しながら通話に応じる。


「もしもしー?これどうなったのかしら?つながった?もし?」


明らかに困惑した様子のおばあさんの声だった。

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