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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢見る少女A

作者: 唐草日和

 皆さんは学校の七不思議や学校にまつわる怪談を聞いたことはあるだろうか。私が通っていた高校にも、その手の怪談があった。内容は殆どがよくある怪談、つまり歩く人体模型だとか、ひとりでに鳴るピアノだとかであったのだが、今その中でもかなり異色なものが一つあったので、ここに記したいと思う。私はもうその高校を卒業してからいくらかの時が経っているのだが、今でも時々思い出すことがある。それほどまでに私の記憶に残り続けている話だ。

 この話の中心となるのは、とある女子高校生、つまり私の母校の生徒だ。仮にAさんとしておこう。Aさんは高校二年生で、かなりの美人だったとのことだ。学校のマドンナとまではいかないが、同じクラスの男子からはいつも視線を感じないではいられなかった。ただ、このAさん、実は性格に難アリだった。それは夢見がちだったということと何かにのめり込むと周りが見えなくなってしまうというまるで、子どものような、少女のような性格なのだ。彼女はいつも自分の夢の世界にいた。それだけでなく、その他の創作からも着想を得て、自分の夢小説を書いていたほどだ。この性格が災いしてこの事件を巻き起こしたのかもしれない。

 そして、この話にはもうひとり、重要な人物がいる。それはAさんの担任であり、国語教師であった。Hという男である。このHさんは、名門の大学に入り、そのままノンストップで高校教師になった、エリートであった。しかも顔も良くて、高身長、更には授業も面白いといった、まさしく完璧超人とも呼べるものだった。そうなると当然、学校での人気は高いものとなり、思いを寄せる女子高校生がいたのは当然のことであろう。しかも幸か不幸か、28歳、独身であった。いや、これだけのハイスペックな男を28まで世間が放っておいたのは、不幸と言えるだろう。

 当然のことながら、AさんもH先生に恋をした。文系志望の彼女にとって、H先生は最も関わりが深い先生のひとりであった。そこから彼女のストーキングが始まった。毎日のラブコールは当然のこと。どこから調べてきたのか、H先生の連絡先を手に入れ、更には住所まで調べ上げるという、とんでもないストーカーであった。これにH先生は耐えられなくなってしまったのか、ついに学校では関係がバレるようなことをしないことを約束にAさんと付き合い始めてしまった。教え子と教師、当然許された関係ではない。それでも休みの日には、人目を盗んで様々な場所へとデートに出かけた。多くはH先生の家であったが、遊園地や水族館などにも行くこともあった。この時に誰か別の生徒と合っていれば、この関係は終わっていただろうが、別の生徒と合うことが一度もなかったのは、運命のいたずらとでも言うのだろうか。最初のうちは、嫌々だった様子の先生も、回数を重ねるごとに渋々といった素振りはなくなっていき、それなりに楽しんでいるように思えた。しかし、段々と休日の日だけのデートでは満足できなくなってきてしまった。毎日学校で、目を合わせて挨拶をして、授業でわからないところがあればすぐに横に来て教えてくれるというのに、自分を恋人とは扱ってくれない。そして自分もすぐに抱きつける距離にいても、抱きつくことすら許されないなんて、想像するだけでも我慢のしがたい状況である。ましてや、その人間はあの夢見がちな少女Aなのだ、私達が思うよりも欲望は深かったに違いない。そうなってくると、その欲求は別の形で発散するしかなくなってしまった。そう、ついに一線を越えてしまったのだ。休みの日のデートの夜についに越えてしまった。もともと、教え子と教師という、あってはならない関係、それがさらに未成年と成年という絶対的な一線すらも越えてしまった。それからは休みの日になれば、熱いキスを何度も交わし、その行為に没頭していた。だが、休みの日の行為が激しくなればなるほど、平日の虚しさが大きくなるばかりであった。学校のときにはキスができる距離にいても、当然許されない。抱きつき、交わることができる距離でも、交わることができない。そして、その空虚な気持ちを埋めるためにまた、行為は激しくなっていく。完全に悪循環である。しかしこの関係にも、終わりが来た。それは高3の夏、彼女は本格的に受験勉強をしなくてはならなくなった。彼女は夢見がちと説明したが、夢は見つつも現実も見ていた。いや、そうではなく自分の夢を見ていたのかもしれない。どんな理由にせよ、受験勉強のために時間を割く必要があったこと、そして先生からも受験が終わるまでは、この関係はやめると言われてしまったため、この関係に一度終止符が打たれた。ただこれは、彼女に取っては最高の言葉であった。なぜなら、受験が終わる時、すなわち卒業をするとなれば、もう生徒と先生の関係ではなくなる。その時までやめるということは、逆に言えば受験が終われば、正式に付き合うと暗に行ってきているようなものだからだ。

 それからは、彼女らの関係に変化はなかった。ただAさん先生との行為を我慢し続け、自分の行きたい進路に進むことができたということ、そして日に日にH先生への思いが募っていったことはここに記しておこう。

 そして卒業式が終わり、誰もいなくなった教室でAさんとH先生が向き合っていた。そしてAさんの自分の思いを全力でH先生に伝えた。相当の我慢をしたうえでの告白であった。その告白は、関係を持っていたのが嘘であるかのような、熱烈なものであり、新鮮なものであった。まるで汚れの知らない小学生が必死に思いを伝えようとしているような、そんな告白だった。しかし、その返事は彼女が望むものではなかった。H先生から帰ってきたのは、思いには応えられないことそして、結婚の報告であった。彼女との関係がなかった半年の間に彼の心は完全に別の人へと変わってしまったのだ。そして、今までの関係はすべて忘れてくれと言い放ち、そのまま教室を出ていってしまった。教室には彼女一人が残っていた。裏切り、困惑、悲しみ、怒り、憎悪、邪悪、空虚、憎しみ、悔しさ、この世界のマイナスな形容詞が彼女の頭の中を駆け巡った。彼女は泣きもしなかった。叫びもしなかった。怒りもしなかった。ただただ、ただぼーと立っているだけであった。まるで魂が抜け落ちてしまったかのような。そして、少しずつ現実であることがわかって来ると、もう泣かずにはいられなかった。大声を出し、ただ泣きじゃくった。誰かに聞こえるかもとか、誰かに見られたらとか、そんな気持ちは一切なかった。悲しいから泣いているのだ、悔しいから泣いているのだ、怒りたいから叫ぶのだ、ただ感情に任せて泣きまくった。

 それからしばらくの彼女についての情報はない。しかし、もう一度彼女の姿を見ることになる。それは、卒業してから二年ほどたったある日、皆20歳となり成人を迎えた。(当時はまだ、20歳で成人だった)そこで、同窓会が行われた。当然その学年の人気者であったH先生も呼ばれていた。彼は少しばかり躊躇したけれど、名簿にはAさんの名前がないことをかくにんし、参加することにした。会場に入ると、懐かしいメンツが集まっていた。立派になった生徒を見ていると、考え深いものがある。しかしそれ以上に、彼はAさんがいるのではないかと気が気ではなかった。誰と話していても、Aさんのことが頭から離れない。後ろから声をかけられるだけで驚き、飛び退いてしまう。立っているだけで疲れてしまうため、用意されていた椅子に座り、会が始まるのを待つかとにした。そこには一つの封筒が置いてあった。そこには「H先生へ」とだけ書かれていた。そして封筒を開けて、中身を取り出すと、そこにはキスマークがついていた。そしてその周りから血が吹き出しているように赤いインクが付いていた、、、。いや、そうではないキスマークではない、それは唇であった。しかも小道具などではない、本物の唇が切り取られ、手紙に貼り付けられているのだ。もしやこの周りについている赤いのはインクではなく、血だ、本物の血だ。そして大声を上げて、椅子から転げ落ちてしまった。「大丈夫ですか?」と差し伸べられた手を取る。そしてその人の方を見上げた時、その顔は!マスクをしていて、目元しか見えないけれど、間違いない、Aさんだ。この2年間忘れたことのない顔であった。そうしてAさんは「これでやっとあなたとはお別れできるわ。」そう言うと彼女はつけていたマスクを取り去ってしまった。そこから出てきたのは、唇のなく白い歯がむき出しになっている口であった。

 これが今回紹介したかった話になります。私にはこの話にはどうしても気になる部分があります。それは、あなたとはお別れできる。というセリフです。このいいかただと、他にもお別れする人がいそうに感じます。お別れする人、もしかしたらAさんは今もH先生の奥さんを探し続けているのかもしれません。

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