-えりびと-
-速報です
本日未明 長原河川敷で女性の遺体が
発見されました。-
「あ、報道してますね、今回の事件。メディアで放送するって七瀬さんどう思います?私犯人刺激しそうで、いつもヒヤヒヤするんですよ」
そう言って私の部下 <野田真樹> がテレビに食いつく。
「日本のメディアは情報が早いからな。優秀と言うべきか。
犯人が刺激される前にさっさと捕まえるのが俺たちの仕事だ。野田行くぞ」
「はい!」
今回の【長原河川敷】で起きた事故
被害者は女性
長時間水に浸かっていたためか
身体は水分を吸って肥大化し、
髪が抜けていて頭蓋骨の一部が見えていた。おそらく、死後1ヶ月程だろう。
人としての原型があまりなく、ぶよぶよしている。
「七瀬さん 着きました」
「野田、近隣の方に聞き込みをしてこい」
「はい!」
車から降り発見現場まで歩く、
近付くにつれて、慣れない匂いが鼻を刺す。
遺体がなくともそこに匂いは残っているものだ。
「どうだ?まだ新しい発見はないか?」
「はい、遺体は検察官の方で検視しています。現場付近は遺体の身元特定の手がかりになるものと、殺人の可能性があるものは何もありません」
「水に長時間晒されていなかったため、早い段階で個人を特定できるかと…」
「分かった。ありがとう。この後も周辺の調査を頼むよ」
私もこの周辺をしばらく捜査したが、何も見つけることができなかった。
「七瀬さーん!第1発見者の方にお話を伺ってきましたー!」
そう大声で伝える野田の話を聞く。
調査で判明したことは
第一発見者はこの近くに住む50代女性。
早朝のランニング中にみつけたという。
近くには怪しい人影はなく、普段から通る人が少ない道だという。
「野田は引き続き聞き込みをしてくれ、私は検視結果を待つ」
「わかりました!聞き込みしてきます!」
現場のことは野田に任せて大丈夫だろう。
私も急がなくては。
車を走らせる。
「お待ちしてました、七瀬さん。
こちらへ」
遺体が安置された部屋へ向かう。
部屋に着くと、遺体の親族であろう方々も集まっていた。
親族の方々にお辞儀をし、検察に話を聞いた。
検察がゆっくりと調査でわかったことを伝えてくれた。
こちらの遺体は <坂内 渚>さん
22歳女性。DNA鑑定で検査をし、間違いはないとのことだった。
「そして、大事なことが一点、お腹上部に切れ込みがあるんです」
よく見てみると、うっすらと、細い線のようなものがあった。糸で雑に縫われていて…
手を合わせ糸を解くと
《腸》だけが綺麗に抜かれていた。
「…模倣犯なのか?」
10年前、世間を騒がせた
《神野川集落殺人事件》
警察の汚点と言われた事件。
私はその時若造で右も左も分からなかった。
そんな私でも、今までの事件と空気が違うことを感じていた。
悲惨だった。
被害にあった集落の方々は全員《腸》を抜き取られていた。そして、今回と同様切れ込みがあり、糸で縫われていたのだ。
メディアで大々的に報道され、この事件を
知らない人はいない。
それほどまでに有名な事件だ。
犯人の<沼津良吉>は沼津病院の医院長で、
人当たりの良い人物だった。
彼に命を救われた患者も多く、事件解決は
したものの今でも冤罪であると主張する人もいる。
沼津は現在逮捕されており、死刑囚となっているはず…
しかし、とても魅力を感じる人物だったため
憧れがあり、模倣犯がいてもおかしくない。
「うぅ、渚ァ渚ァ…」
ご家族の方が膝をつき、皆で抱き合っている。
事件の一番嫌なところだ。
なぜ、彼らが悲しまなければいけないのだ。
「ありがとう 親族の方のケアを頼むよ」
今の俺には家族に暖かい言葉をかけてあげることはできない。
犯人を見つけ、罪を償わせる。
そう伝え、俺は警察署に向かった。
野田と<沼津良吉>の元に向かおう。
「七瀬さんおかえりなさい。
聞き込み結果の資料です」
「ありがとう」
野田…上流の方まで聞き込みに回ったのか。
上流には病院…幼稚園…小学校
随分と建物が多い。
上流から遺棄したとは考えにくいか?
「上流の方は発見現場と違って住宅街も多く、監視カメラにも何も映っていませんでした」
特に怪しい人物もなし。
「検視は殺人の可能性が高い…
奴の模倣犯ですか…」
「野田には辛いと思うが<沼津良吉>に会いに行こうと思う」
そう口にした瞬間、野田の顔が一瞬強ばった。
「奴はどこまで人の人生を無下にするんだ!」
野田真樹は
神野川集落殺人事件の被害者
<野田彩乃>の弟だ。
彼が15歳の時に姉が殺された。
沼津が逮捕されたのはその3年後。反省の色がなかった。野田からすれば、心底腹が立つ男だろう。
殺してやりたいと言っていたほどだ。
ゆっくり深呼吸し、呼吸を整えて
「俺は大丈夫です。姉さんと同じ被害をだしたくありません」
そう唇を噛み締めて口にする野田はわなわなと震えていた。
刑務所に着くと、刑務官から最近の沼津の様子を話してくれた。
奴は死刑囚だが、それを感じさせないほどの模範囚。
毎日礼拝堂に通い、罪を改めているそうだ。
更生してるとは思えないが…
ひやりとした廊下の奥に
厳重に閉ざされた部屋があった。
「沼津 面会だ」
そう刑務官が言うと、奥からのそのそと
やせ細った白髪まみれの男がでてきた。
「なんだ、若造じゃないか」
ヒョッヒョと細く笑う声が聞こえる
「沼津 聞きたいことがある。答えてくれ」
今回の被害者<坂内渚>の写真を見せる。
「この子が殺された。あんたの手口と一緒なんだよ。模倣犯だと俺達は考えている」
「おいおい、警察が俺に写真なんて見せてもいいのかよ。…ふーん、こいつぁ、俺と一緒だな」
「手助けをしてんのさ」
手助け…?
「お前…!よく、手助けなんて言えたな!姉さん達を殺しておいて!!」
「手助けとはどういうことだ?
お前たちは集団で罪を犯しているのか?!」
「おーいー、罪なんて言葉使うなよ。光栄なことなんだぜ?選ばれたんだからよぉ」
そう言って沼津は奥の方へ消えていった。
「姉さん…」
冷たいコンクリートの壁を殴る。
ドンと鈍い音がした。
「落ち着け、野田の気持ちはとてもよくわかるが、抑えてくれ…」
沼津の上に犯罪を指揮する者がいるのか?
殺害されて光栄なことってなんだ?
選ばれた?誰に?謎が深まった。
組織犯罪を視野に入れて捜査を進めねば。
「野田、1度警察署に帰って状況を整理するぞ」
野田は深呼吸をして怒りを抑えて言った
「…はい」
警察署に戻り、今まででわかったことを整理した。
解決の糸口になるものは見つからず、事件解決は難航していた。
それから2日後
近くの公園で男性が殺害されているのが見つかった。