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冬の童話集

おうじ と あくま

作者: たろんぱす

 むかしむかし、あるところに小さな王子さまがいました。

 王子さまは兄弟が多く、とても仲が悪い兄弟でした。なにせ、王さまになれるのはひとりだけですから。


 他の王子さまは言います。


「おまえのような小さくて弱い体で王さまになんてなれるものか」

「あきらめて早く死んでしまえ」


 他の王子さまの心ないことばに、小さな王子さまは傷つき涙します。


「泣き虫は王さまになれない」

「弱いやつはいらない」


 周りはそう言います。


(泣いてはいけないんだ)


 小さな王子さまは願いました。


 だれか、だれか。

 この涙を僕から取っておくれ。


 するとその晩、小さな王子さまの夢の中に悪魔が現れました。

 悪魔は頭に赤いふたつの角がある、黒い影の様な形の大男でした。


「強く願ったのはおまえか?対価を払うならおまえの望みを叶えよう」


 小さな王子さまは泣きながら願います。


「どうかぼくが泣けないようにしてください。代わりにぼくが流す一生分の涙をキミにあげる」


 悪魔はその願いを叶えました。

 すると小さな王子さまから涙が消え、代わりに悪魔の目からポロポロと涙が溢れたのです。


「おお、涙とはなんと美しいんだ!気に入った。もっと泣こう」


 小さな王子さまは泣けなくなりました。




 泣かなくなっても小さな王子さまはいじめられました。


「王さまはいつも怖い顔をしていないといけないんだ」

「おまえみたいなへらへらしているやつは王さまになれない」


(笑ってはいけないんだ)


 小さな王子さまは再び願います。


「どうか、どうか。ぼくが笑えないようにしてください。代わりに笑顔をキミにあげる」


 夢の中で悪魔は応えます。


「いいだろう。ははは、笑顔とはなんて楽しいんだ」




 それでも小さな王子さまがいじめられる毎日は変わりませんでした。


「おまえはまだ生きていたのか」

「役に立たないくせに図々しい」


 小さな王子さまはまたも願いました。


「心がいたい。つらくてくるしい。どうかぼくから心を取ってください。この弱い心を」

「わかった。その心をもらおう。…ああ、心がいたいというのはなんてふしぎなんだろう。涙が出る。美しい涙が」


 小さな王子さまはもうなにも感じなくなりました。心を失った小さな王子さまは生きている事に意味を見いだせなくなっていたのです。


 とうとうその夜、小さな王子さまは願ってしまったのです。


「ぼくはちっとも大きくならない。もうこの体はいらないや。悪魔よどうか、ぼくの体を取っておくれ」

「いいのか?その願い叶えよう」




 小さな王子さまが目を覚ますと、意識はすっかり悪魔と入れ替わってしまっていました。

 小さな王子さまは夢の中の悪魔に、夢の中の悪魔は小さな王子さまとなってしまったのです。


「…なるほどなるほど、人間の体とは柔らかく温かいのだな。鼓動が脈打ち心で満たされている」


 悪魔はわくわくして、このままこの小さな王子さまとして生きる事にしました。

 悪魔は我慢なんて知りません。


「また笑っているのか。そんなでは王さまになんてなれない」

「笑うのは楽しい。おまえこそへらへらしてるではないか」

「チビは王さまになれない。早くあきらめろ」

「おまえはおれより五つも上ではないか。きっとおまえを抜いてみせよう」


 兄弟達に何を言われても言い返し、打ち負かし、悪魔は楽しく思うままに王さまを目指しました。




 そうして小さな王子さまになった悪魔は大人になり、りっぱな王さまになったのです。

 りっぱな王さまになった悪魔は思います。


(あの小さな王子はどうなっただろうか)


 久々に夢の中で語りかけると、悪魔になった王子さまは現れました。ただ、はじめて会った時よりもっともっと小さくなっていました。

 黒く、てのひらより小さな丸い塊で、細かく震えているのです。赤い角は針の様に細くなっていました。


 王さまになった悪魔は、その姿がとても可哀想に見えました。長年人間として心を持って過ごすうちに悪魔は悪魔としての考えや生活を忘れてしまっていたのです。


「お前を虐めるやつらはもういないよ。この体も心も笑顔も涙も、お前に返してもいいよ」

「いらない。皆が求めるのは僕じゃない。僕はいらないやつなんだ。夢の中から君を見ていてよくわかった」

「そんな事はない。俺はお前のおかげで十分楽しく生きてきた。そうだ、お前は悪魔になったんだろう?どうか俺の願いを叶えておくれ」


 黒い塊は少しふるえて応えました。


「…対価を払うならおまえの望みを叶えよう」

「お前と一緒に遊んでみたいよ。対価に楽しい気持ちをお前にあげよう」

「…いらないよ。いらない」

「そう言うなよ。そうだ!どうせなら一緒に産まれ生きよう!きっと楽しい!もしまたお前を虐める奴がいたら俺が追い払ってやる。なあ、いいだろう?」

「…わかった。その望みを叶えよう」




 りっぱな王さまになった悪魔は最期までりっぱな王さまだったそうです。




 時はながれて、とある田舎のとある村。

 ある日、その村で元気なふたごの男の子が生まれました。

 そっくりなふたりには、額に赤い三角の痣がひとつずつ。そんなところまで同じ。

 だけど性格は正反対で、引っ込み思案な兄を弟は連れ回しました。


 ふたりはいつも一緒でした。遊ぶ時はもちろんご飯もお風呂も。喧嘩してたって一緒にお昼寝する始末。

 近所の人達は「とっても仲良しで微笑ましいわねぇ」と笑います。


 2人のお母さんはよく言います。


「呆れるほどいつも一緒なの。なんだか夢の中でも喧嘩しながら遊んでいるみたいなのよ」


 と。




〈おわり〉




 

 

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小さな王子さまが虐げられて、悪魔と取引をしていくところに、どうなるのかとはらはらしました。 でも、悪魔はずっと小さな王子さまのことを忘れなかったのですね。 ラストの仲良しの兄弟の姿に、優し…
[一言] 悪魔が立派な王様で終わるところも、その後夢の中まで仲良しで、二人がたのしそうなところも含め、とても素敵なお話だと思いました。 読ませていただきありがとうございました!
[一言] 「冬童話」から拝読させていただきました。 王族に生まれてくるには小さな王子は優しすぎたのかもしれません。 今度は悪魔とともに幸せになってください。
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