第九十三話 攻撃パターンは一つだけ……?
その言葉通りそれからキングインクから繰り出される叩きつけ攻撃を全てクロードは回避したのである。何度か回避したクロードはもはや影になる前段階で叩きつけ攻撃が来るのが分かるほどに回避に慣れた。何度目かの叩きつけ攻撃が終わったタイミングでクロードはふと疑問に思ったのである。
……おかしいな。攻撃パターンがこれだけだ。回避が簡単だからこっちとしては楽で良いんだが、そんなはずは無いよな。だってランクAのタスクなんだし。……となるとキングインクは段階別に攻撃らパターンが変わる系のモンスターか?
当然回避の合間に通常射撃は何発か食らわせてはいるけど、手ごたえは一切無い。正直このまま戦闘を続けて倒せる自信は微塵も湧かない。狙う場所が悪いのか? 普通なら胴体を狙うのがセオリーだと思っているんだが……。試しに腕を狙ってみるか。
叩きつけ攻撃のために動く時こそあるが通常は特定の位置に留まっているため両腕を狙うことの難易度はそれほど高くない。変わることと言えば叩きつけ攻撃への反応が少しばかり遅れるため回避の難易度が少し上がるくらいである。
クイックガトリング5発分。分かりやすく言えば一回でリロードされる弾丸を撃ちきられない程の弾数の通常射撃でキングインクの右腕が弾かれたように大きく後退したのである。今までこんなリアクションは見たことが無い。
……たった5発でこの反応か。少なくとも15発以上は胴体に当てたけどそんなリアクションは無かった。……腕が弱点なのか? それじゃあ左腕も狙ってみるか。
右腕を大きく弾き飛ばした影響からか先程までなら叩きつけ攻撃が来ていたタイミングでキングインクは叩きつけ攻撃を行わなかった。ここで左腕に狙いを変えてクロードは通常射撃を行った。……しかし先程のようなリアクションは起こらなかった。そればかりか弾かれた右腕が戻ったことにより叩きつけ攻撃が再開したのである。
……またこの攻撃か。回避は難しくは無いけど攻撃しにくくなるから嫌なんだよな。……左腕を攻撃してもそんなに手ごたえは無いな。右腕が弱点って事か? そんな弱点がピンポイントなことなんてあるんだろうか。……まあとりあえず狙ってみるか。
クイックガトリングのレバーを握りしめ狙いをキングインクの右腕だけに絞ったクロードは次の叩きつけ攻撃に備えつつ通常射撃を放ち始めた。やはり6発撃ちきらないうちにキングインクの右腕が大きく後ろに弾かれたのである。
……やっぱり右腕が弱点か? さっきはここから左腕を狙ったけど後退した右腕をさらに狙ってみるか。
畳み掛けるようにクロードはキングインクの右腕に通常射撃を撃ち続けた。するとやはり5発目辺りで反応が変わったのである。さらに右腕が後ろに後退するように弾かれた上に、痛がるようにキングインクが顔を下に向けているのだ。
効いているとみて良さそうだな。キングインクが顔を下に向けているなんて初めて見たよ。……もしかしなくてもこれは攻撃のチャンスか? 狙うのは胴体か右腕か。……ちょっと右腕を狙うには遠すぎるから胴体を狙ってみるか。効かないならまた右腕に集中して通常射撃をすれば良いしね。
クロードは狙いを胴体に変えるとクイックガトリングのレバーを回し始めた。リロードの短いクイックガトリングは攻撃の隙が大きい時にかなりの攻撃性能を発揮するのである。キングインクが下を向いている間計10発の通常射撃を食らわせたのであった。
お、顔を上げたか。意外と長かったな。こんなに通常射撃が撃てるなら【ヒートチャージ】もついでに撃っておくべきだったか? まあ次こんな時が来ればそうしようかね。
さて、そろそろ叩きつけ攻撃が来る頃……?! あれは口か⁉︎ すっげぇ! でっけぇ!
キングインクは再びクロードの方を向きさらに水中に隠れていた胴体部分を持ち上げるようにして地上に見せた。そこには吸い込まれてしまいそうなほどに大きく暗い口のようなものが開かれていた。
突然の行動に驚くクロードの目の前にどす黒い球体が現れたと思えばその数秒後に恐ろしい勢いでその球体から大量のどす黒い液体が放たれた。凄まじい勢いのその液体は進路上にあった岩や海藻などを跡形も無く消し去ったのである。
……危ねぇな。なんだあれ。液体……なのか? 凄まじい威力だったよ。岩とかあったはずなのに何にも無いじゃんか。回避してて本当に良かったよ。
キングインクが大きく口を開いた時既にクロードは叩きつけ攻撃でも吹っ飛ばし攻撃でも無い何かをして来ると判断し、何かが起こればすぐに回避に徹するように決めたのだ。その結果回避しながらの横目で先程のキングインクの大技を見たのである。
……さすがにあれを連発はして来ないよね? もう口がある部分は水中に沈んで行ったから多分来ないね。それじゃあもう一度右腕を狙っ……て? 右腕も水中に沈めているのか。それじゃあ今度は左腕を狙うか。
右腕は沈んでおり狙えなくなっていた。そのためクロードは左腕に狙いを変え再び通常射撃をするためにレバーを握りしめた。左腕に狙いを変えたとは言え先程攻撃していた時にはすぐに右腕の時のようなリアクションは無かった。故にクロードは攻撃を回避しながら通常射撃を撃つパターンだと考えていた。
しかしその予想は外れである。5発程左腕に命中したその時キングインクの左腕は右腕と同じように大きく後ろに弾かれたのだ。
……なるほどね。これは倒すのに段階があるモンスターってことか。それなら多分左腕に追加で攻撃をするとまたさっきのようにキングインクが下を向くんじゃ無いか?
いち早く予想を立てたクロードは追撃するようにレバーを回し続けた。するとやはり左腕が後ろに大きく弾かれキングインクは再び顔を下に向けたのである。
読んでくださりありがとうございます。
キングインクはクロードの読み通り段階的に攻撃パターンが変わるモンスターです。そして一定の期間以外は食らうダメージを大幅にカットする特徴を持っています。そしてキングインクの特徴はそれだけではありません。




