第六話 鍛冶屋
「これは……宝箱? 鍛冶屋にこれごと持っていくのか開けて持って行くのかどっちなんだ?」
「開けて持って行くが正解だね。その宝箱を手に持てば何をすれば良いのか分かるはずだよ」
ルピウスは自身あり気にそう言った。半信半疑でクロードが宝箱を手に取ると目の前にこうウィンドウが表示されたのである。
《銅の宝箱を手に入れた。中を確認しますか?》
お、なるほど消耗系アイテムだとこういう表示が出るんだな。……ちなみにこれ今確認しなかったらどうなるの? 試しに1回確認しないにしてみようか。
一度アナウンスに従わなかったらどうなるかを試してみたくなったクロードは中を確認しますか? の問いかけを断った。すると手にした銅の宝箱はどこかへ吸い込まれたかのように消えてしまったのである。
……えっと、宝箱消えたんだけど、捨てた訳じゃないよね? どこに行ったの?
「クロード、早く中身を確認しよう。設定から持ちものを選択して宝箱を選べば確認出来るはずだよ」
良かった……。あれ断ったら捨てることになるのかと思っちゃったよ。ええと、設定から持ちものを選択して……あ、確かにあるわ宝箱。っていうかこの画面の時に右上に所持金が出るのか。今は5000G持ってるのか。何だか急にリッチになった気がするぜ。
……おっと、今は宝箱の中身だったな。持ちものの中にある銅の宝箱を選んだら中を確認しますか? のウィンドウが出るからはいを選んで……。
《銅の宝箱を開けた 普通の設計図(陸)、陸のパーツの珠を手に入れた》
ウィンドウでそう表示されたかと思うとクロードの手には白い紙の束と手のひらサイズのガラスの球のようなものが入っていた。恐らくこれが手に入ったものなのだろう。
「……これを鍛冶屋に持っていけば良いのか?」
「設計図とパーツの珠だね。両方とも鍛冶屋に持って行くアイテムだよ」
持ちものから選択することが出来なくなっていることからも手に入ったのはどこかの場所で使う消費アイテムであることがうかがわれた。パーツの珠は拡張パーツになるのだろうが設計図とは何の設計図なのか。想像を膨らませながらクロードは鍛冶屋へと向かおうとした。
「……鍛冶屋はどこ?」
「寮から出てすぐ右隣の建物が鍛冶屋だよ。僕は格納庫でやることがあるから1人で行って来なよ」
どうやらルピウスは忙しいらしく案内まではしてくれないようだ。何で忙しいのかクロードにはさっぱり分からないのだが。とりあえずクロードは1人で鍛冶屋に向かうことにしたのである。
ルピウスの説明を聞く限りではすぐに着きそうだったのでクロードはそのまま歩いて鍛冶屋を目指した。演習場までの短い距離をE・L・Kで簡単に移動してしまったからだろうかクロードは鍛冶屋までの数分の歩きが微妙に遠く感じてしまったのである。それだけE・L・Kが高性能なんだろうと納得してクロードは目の前の鍛冶屋へと入った。
「……いらっしゃい。何か用かね?」
鍛冶屋に入るとそこには椅子に座って休憩している年老いた男が1人いた。中は蒸し暑く先程まで作業をしていたのであろうことがクロードには感じられた。手に持ったままであった設計図とパーツの珠を差し出してクロードは彼の問いかけに答えた。
「これを持って行けば良いと聞いてここへ来たんですが……」
差し出した物を受け取る訳でも無くじっとクロードの手を見たかと思うとその視線はクロードの顔へ上がった。歴戦の戦士を思わせる程の鋭い視線を向けられたクロードは少し困惑しているとやがて男が口を開いた。
「……設計図とパーツの珠じゃな。これはお前さんのものか? それとも誰かに頼まれて持って来たのか? どっちだ?」
「……? 俺のですけど」
「……ほう、それじゃあお前さんは新米の騎士ってことだな。……名前は何と言う?」
クロードを試すような鋭い目つきをしたまま男はそう問いかけた。答え次第では何か今後の展開に支障をきたしそうな気がしたが、クロードには素直に名乗る以外何も浮かばなかった。
「……クロードです」
「そうかクロードか。わしはここで鍛治をしておるピクトじゃ。皆からはピクト爺とよく呼ばれておる。お前さんも騎士ならここによく来ることになるだろう。わしのことはピクトでもピクト爺でも単にジジイでも好きに呼ぶが良い」
どうやら気に入られたようだ。ピクトと名乗った男はニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。そしてクロードから設計図とパーツの珠を受け取ったのである。
「さて、どちらから先にやれば良い? わしは別にどっちを先にしても構わん。お前さんの好きな方を選ぶんだ」
「それじゃあ珠の方を先にお願いします」
「ふむ、承った。パーツの珠……見た目はただのガラスだがこれを叩いてやることで装着した時にE・L・Kの武器に馴染ませることが出来る。同じような物を見つけたらわしの所に持って来ると良い。装着させるのはお前さんの助手がやってくれるはずじゃ」
そう言うとピクトはパーツの珠を鉄の鋏で掴みながら鍛治炉に放り込んだ。一瞬で色が変化したかと思うとすぐに回収すると手元のハンマーで思い切り叩いた。数回ハンマーで叩いた後のパーツの珠は無色透明だった色からほのかに黄色に色づいているように感じられた。
「ほれ、【エレキチャージ】じゃ。大事にしろよ」
読んでくださりありがとうございます。
パーツの珠はピクトが叩くまではなんのパーツかは分かりません。ピクトが叩いた瞬間に内容が抽選されると思ってください。もちろんですが被りもあり得ます。