第五十五話 ……強化書?
「……何ですか? これは」
見たこともないアイテムを入手したクロードは思わずレオにそう尋ねてしまった。レオはそんなクロードの態度も予想していたかのように表情をピクリとも変えずにその質問に答えた。
「ふむ、強化書を手に入れるのは初めてだったようだな。全てのE・L・Kに個別に存在している強化方法が書かれた秘伝の書物だ。秘伝と言ってもそこまで珍しいものではない。それに強化してしまえばその人にとって不要になるからな。こうしてタスクの報酬なんかでたまに手に入る事がある代物だな」
……なるほど、E・L・Kを強化するための本か。そう言えば達成したタスクは俺を指名したタスクだったな。そう言うスペシャルタスクなら機体が貰える可能性があると思っていたけどこう言うパターンもあるんだな。……でもこれどうやって使うんだ?
「……あの、これはどうやったらE・L・Kを強化出来るんですか?」
「あぁ、その説明を忘れていたな。その書物には強化するための手順が書かれているから助手に渡すと良い。君なら確かルピウスが助手だったな?彼が強化書に従って強化してくれるはずだ」
へえ! ルピウスに渡せばやってくれるのか。ピクトさんのところじゃなくて良かったよ。強化されるとは言え設計図もパーツの珠もタスクも何も無い状態でルブールのために行くのはちょっと気が引けるんだよね。
でもルピウスに渡せば良いなら格納庫に帰ったらすぐ頼もうか。それじゃあ、タスクをいくつか申請して格納庫へ戻ろう。
クロードは横のホログラムにカードキーをセットして適当にいくつかタスクを選ぶとレオに申請するために前を向いた。……実は高ランクタスクはコールバの海が場所のものが多かったのだが、それらのタスクを一切選んでいないのは秘密である。
「タスクの申請をお願いします」
「……ふむ、特に問題無いな。それではこれらのタスクの申請を受理しよう。健闘を祈る」
そう送り出されたクロードはさっそくルピウスにE・L・Kの強化を頼もうと教官室を出ようとして、ある事を思い出して振り返った。
「……、どうした? まだ何かあったか?」
「いや、……あの。……確かここに地図が掛けてあったと思ってそれを確認しようかと」
「……なるほど、地図ならそこに掛けてある。……ところで確認しようとしたのは何だ? 良ければ教えてくれ」
クロードが思い出したかのように地図を確認しようとしているためレオが不思議に思うのは当然である。危うくネミリア王国に行きかけた事を言えば怒られるかもしれないが、この流れでそれを伏せるのは不自然すぎた。少し間を空けてクロードは説明するために口を開いた。
「……実は、コールバの海のタスク中にネミリア王国らしき陸地が見えまして。気づいた瞬間に引き返したので特に問題は無かったんですけど、そんな事にならないよう位置関係をもう一度見直しておこうと思いまして……」
クロードの言葉を聞いてレオは表情を特には変えなかった。何かを考えているようにも少し笑っているようにも見えるその表情がどんな感情を表しているのかとクロードが考えているとレオが口を開いた。
「なるほど、陸地が見えたが特に問題は無かったと。……すると恐らくだが夜にタスクをしていたな?」
「……そうですね、夜でした」
「そうか、良かったな夜で。君が言っている陸地とは恐らくネミリア王国に続く浜辺の事だろう。地図で言うとここだ」
そう言ってレオは立ち上がって掛けてある地図に近づくととある地点を指で示した。確かにその場所はネミリア王国と書いてある場所の端の陸地を示していた。しかしクロードが思っているよりずっとコールバの海の奥にそれはあるのである。
「……俺が思っていた場所よりも奥ですね。そんな深いところまで行った覚えは無いんですけど」
「君の達成したタスクはナップスクイードの討伐だろう? ならキングインクに遭遇したのではないか?」
「あ、遭遇しました。訳が分からないうちに吹っ飛ばされたんですよ」
クロードの素直な答えに満足しているようにレオは頷くと話を続けた。
「やはりな。キングインクは回避しづらい吹き飛ばし攻撃を多用するんだが、それを食らってしまった場合想定よりもかなりの距離を移動していることが多いのだよ」
……なるほど、キングインクが吹っ飛ばしてくる距離は意外と長かったんだな。吹っ飛ばされて距離感がちょっと狂ってしまっちゃったって事か。……しかしあの吹っ飛ばし攻撃は多用して来るんだな。やはりキングインクは厄介なモンスターと言うことか。
「そして、先程示した場所にはネミリア王国の技術の結晶とも言われる自動で稼働するE・L・Kが数個並べてある。もちろん接近してくる認証されていない物体全てを自動で攻撃する恐ろしい存在だ。……引き返すのが間に合って良かったな。キングインクに遭遇して消耗した状態で奴らに見つかれば帰還がかなり難しくなる。よくぞ無事に帰ったものよ」
読んでくださりありがとうございます。
強化書は文字通りE・L・Kを強化するためのものでした。今回はルブールのものという事はどのE・L・Kにも強化書が存在するという事に他なりません。




