第五十三話 エイミングに反応アリ
クロードが【エイミング】のスイッチを押し込むと間もなく砲弾が発射された。発射された砲弾が海面に着弾するとたちまち大きな水飛沫が生じた。水飛沫がおさまると次第にそこにいたモンスターが姿を現した。見た目からすると、さしずめ大きな二枚貝と言ったところだろうか。
「……一応聞くけど、こいつはナップスクイードか?」
「いや、違うね。これはバイトシエルだな。噛みつかれると厄介だから離れた距離をキープするんだよ?」
やっぱり違うか。そもそも見た目二枚貝でナップスクイードな訳無いよね。噛みつかれるのが厄介って言うなら先に言っておいて欲しかったけど、案外速度はそんなに高く無いな。
ルピウスの助言に従ってバイトシエルから距離を取るように操縦していたクロードはバイトシエルがそこまで迫っていないことに気がついた。それならば狙いながら通常砲撃を当てるだけである。
……しかし標的がそこまでは大きく無い事もありギガントキャノンを使い始めたクロードには的確に当てるのは至難のわざであった。
……これ難しくないか? 相手の動きを予測して的確に当てなきゃいけないんだろう? バイトシエルの動きがまだよく分からないからなぁ……。
バイトシエルは左右交互にして海面から斜め前に飛び出して来るのだ。一定のリズムで飛び出して来るのならリズムゲームの要領で砲弾を撃ち込むことが可能なのだが残念ながら飛び出すタイミングはランダムである。
……あ、そうだ。【エイミング】なら追尾機能があるんだったな。つまりこれを押せば一番近いモンスターに自動で当たってくれるからバイトシエル相手にするにはちょうど良いね。
クロードはこれこそ【エイミング】の正しい使い方だろうと思い白く輝くスイッチを押し込んだ。クロードの言うように、【エイミング】は最も近くにいるモンスターを標的として自動で追尾する砲弾を放つスキルである。そしてバイトシエルの攻撃から回避しながら放った【エイミング】はバイトシエルがいるところとは異なる方向へ飛んで行ったのである。
……あら? どこへ飛んだんだ? バイトシエルはそんなところに居ないぜ? せっかくバイトシエルに攻撃が出来ると思ったのによ。……あ、待って。もしかしてそこにもモンスターがいたのか?
クロードの予想は当たりである。【エイミング】が着弾した場所から見慣れた大きな二枚貝が姿を現したのである。こうしてバイトシエル2体に追い回される羽目となったクロードはこれ以上他のモンスターを巻き込まないよう一定の範囲を旋回しながらバイトシエルに【エイミング】を当てようやく2体とも討伐したのである。
……ふぅ、ようやく倒せたか。最初の索敵の【エイミング】を合わせて3発分で倒せたな。スキルの説明的に結構ダメージを食らわせられるスキルだと思ったんだが違うんだろうか? それとも2発当てたらギリギリ倒しきれないくらいだったんだろうか? 結局通常砲撃は1発も当たらなかったからこの辺は分からなかったな。それじゃあドロップアイテムを確認しようか。
《真珠の尖牙を手に入れた》
《真珠の尖牙を手に入れた》
真珠の尖牙ね、覚えておこう。もしかすると納品タスクで使うかもしれないからね。それじゃあナップスクイードを探すとしますか。……ん? なんか前が光っているな。……陸地か?
ええと、今俺はスタラジア帝国からエリーダ高原を越えて、コールバの海に来ている。進む途中でキングインクに奥側に吹っ飛ばされたから目の前の陸地らしき場所がエリーダ高原で無いことは確か。となると、次の候補は……。うん、今すぐここを離れよう。
クロードは陸地らしきものを見つけた瞬間から頭を回転させて結論にいち早く辿り着くとすぐさまUターンし、その場を離れた。クロードの予想通り見えた陸地はネミリア王国近くの浜辺であり、当然だが傭兵部隊が昼夜問わず監視しているのである。
これ以上進めば間違いなく監視に気付かれたのだが幸いにもUターンが間に合ったようだ。陸地から何か攻撃される事は無かった。勝負事には勝ちたくなるクロードだが無駄な戦闘はそこまで好きではない。ましてや操縦にやや不慣れな状態で好戦的に突っ込んで行くのは愚かな行為である。こう言う時は逃げるが吉であろう。
……後ろは特に騒がしくないな。やれやれいつの間にか結構奥まで来ちゃったみたいだな。……いや、それほど奥でも無いのか? まあ、教官室にある地図をよく見れば分かるな。帰ったら確認しよう。これもキングインクのせいだな、俺の確認不足じゃない。きっとそうだ。
クロードが自分の確認不足をキングインクのせいにしながらコールバの海の入り口側に向かって前進していると【エイミング】のスイッチが輝き始めた。効果範囲内にモンスターがいると言う訳である。
……お、反応アリだな。しかしこのスキルを索敵に使うのは合ってるような間違っているような複雑な感じなんだよな。まあ、実際見つかるから使い方としては合ってるのか? とりあえず発動してどんなモンスターが出て来るのか待つとしますかね。
そんな事を考えながらクロードは【エイミング】のスイッチを押し込んだ。自動で照準を合わせた砲弾がクロードには何の変哲も無いように見える海面に着弾した。派手な音を響かせながら水泡が立ち昇った。やがてそこからモンスターが姿を現した。そのモンスターは淡く光り輝いており、大きなイカのような見た目をしていた。
「これはもしかして……か? まさか小さいキングインクじゃあ無いよな?」
「違うね! キングインクよりふた回り程小さい体と淡く光るその体。まさしくナップスクイードだよ」
読んでくださりありがとうございます。
クロードはすっかり【エイミング】を索敵に使いこなしていますね。まあ夜のコールバの海はモンスターがどこにいるのか分かりづらいので仕方ないことなのかもしれません。さて、ナップスクイードが見つかったようですね。




