第四十七話 激闘の戦闘訓練
ローゼルがロングソードを振り下ろしスキルが発動された。発動されたスキルは【ブレイドショット】。体勢を立て直しながらもローゼルの持つロングソードが淡く光ったのを見逃さなかったクロードのファインプレイである。
「良いね! そう来なくっちゃ。でも回避の方向がよろしくないな。その方向だとすぐに距離を詰められちゃうよ?」
クロードは回避することで精一杯であり、闇雲に前進しただけである。そのため【ブレイドショット】を回避した後の動きには対応出来ないのだ。スキル発動後流れるような動きでラッケルはこちらとの距離を詰めて来た。最早クロードにこれを回避する術は無い。思い切り後ろに下がりながら【エクスプロージョン】を発動させた。
スキル発動中は動きは制限されるが既に動いている状態を強制的に動かないようにする訳では無い。いくらローゼルの速度が速かろうと思い切り後ろに下がったヴァッシュとの距離を詰めきって攻撃を仕掛けるには2秒以上は絶対にかかる。つまり【エクスプロージョン】を発動させるには充分な時間が確保されているのだ。
凄まじい炸裂音と共にローゼルが吹っ飛んでいった。もしこれでローゼルが吹き飛ばなかった場合距離を詰められ撃墜の可能性もあっただけにクロードとしては安堵したのである。
とは言え追い詰められているのは事実である。【エクスプロージョン】のリロードまでにかかる時間は約40秒。距離を詰められそうな時の緊急避難用に使うならその間通常射撃のみで戦う必要がある。
つまりラッケルが倒れている間にどれだけ距離を離せるかが重要なのである。ラッケルが吹き飛ばされた左奥とは対角にあたる場所までクロードは目一杯距離を取った。
「……中々強烈じゃんか。近接戦闘は得意じゃ無いと踏んだんだけどまさかあんなスキルがあるなんてね。……ただ逃げ道に関してはあまり良くないかな。後ろが壁だと前に出るしか無いじゃない?」
ラッケルはローゼルを斜め前に発進させた。横に動くなら横に縦に動くなら縦に動いて距離を保とうとしていたクロードは困惑し、そして後悔した。後ろに下がれないのなら近づかれるだけだからである。まだ20秒程リロードには時間が残っている。つまり今度こそクロードには回避の術が無くなったのだ。
最早撃墜が避けられないのならと棒立ちでその結果を受け入れてしまう。そんな人もいるだろう。しかしクロードは、蔵元和人は違う。まだ負けていないのならやるべき事は残されている。クロードは退路を絶たれローゼルが迫ってくる状況で逆に前にペダルを踏み込んだのである。
「前に来るか! これは予想外! そこからどう挽回して来るんだい⁉︎」
前進してメテオライフルを構えたクロードを一瞬警戒したが大したダメージにならないことを思い出すとそのままクロードに迫った。
ラッケルは斬撃攻撃が好きであり回避されることが嫌いである。そのため彼は威力の高い斬り下ろしよりも薙ぎ払いを重視する事が多い。メテオライフルもろとも薙ぎ払おうとしたその瞬間ヴァッシュがガード姿勢になった。薙ぎ払い攻撃はその攻撃の性質上相手を吹っ飛ばしてしまう事が多い。ましてやガードされた場合は尚更である。
「……狙ったのか?」
ラッケルは距離を詰めたはずがダメージを抑えながら距離を取られたことに少し困惑した。破竹の勢いで実績を積み上げる目の前の男を見ているとそれもまた狙っていたかのように思われた。最速で階級を駆け上がろうとしているだけある、そう思ってラッケルは微笑んだ。
ラッケルは吹っ飛ばされた後体勢を立ち直す時を狙ってスキルを発動させる事が多い。しかしそれは先程回避された。警戒されていないのにも関わらず回避されたのだから二度目もまた回避されるだろう。それならと距離を詰めるためにラッケルはペダルを踏み込んだ。
踏み込みながらもラッケルは先程食らったスキルを思い出していた。あの時はヴァッシュの持つ銃が赤いオーラを纏ったかと思うと拡散弾のようなものが炸裂し吹っ飛ばされたのである。そして今まさにヴァッシュが持つ銃にその赤いオーラが纏っているのだ。……これ以上吹っ飛ばされる訳にはいかない。咄嗟にラッケルはガードを選択した。
予想通り【エクスプロージョン】が発動し、ガードしたために吹き飛ばされる事なくローゼルはその場に立っていた。クロードにはこれ以上の攻撃手段は無いはずだ。つまり今この瞬間はラッケルにとって攻撃のチャンスである。……時間がこれ以上残っているのなら。
『……そこまで! 制限時間の5分が経過した。そしてクロードの生存を確認、これより戦闘訓練の達成を認める。クロードには報酬を与えよう。後ほど教官室に来るように』
読んでくださりありがとうございます。
ここで制限時間の5分が経過したようです。クロードは危なっかしいながら戦闘訓練の条件を達成しました。このギリギリの戦いを今後の糧にしたいものです。




