第四十五話 戦闘訓練の達成条件
赤く輝くその機体と手にしたトレントアローの木の色は似合っており、重厚感ある格好良さを演出していた。やはり武器パーツを装備してこそE・L・Kの魅力が出るというものだとクロードは改めて思ったのである。
……いやぁ、やっぱりかっこいいな。武器を持っただけでさらにかっこよく見えるんだから不思議だよ。さて、それじゃあ性能を確認しようか。
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搭乗E・L・K
エリュトロ
攻撃 270 速度 70 装甲 1800
トレントアロー(弓)
攻撃 +20 速度 −10
拡張スロット:1
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おお! これは凄いや! 確かに遅いは遅いけど要するにルブールと同じくらいってことだろう? 装備ボーナスでさらに低くなってはいるけど問題はそこまで無さそうだ。……まあ早くなってから遅くなるとその落差を気にしちゃうかもしれないけどね。
でもそれをかき消すぐらいには攻撃が高いし、装甲もかなり分厚くなったな。ヴァッシュの3倍以上? それだったら速度的に避けられなくなったダメージを加味しても問題無くタスクがこなせそうだ。……となるとかなり迷うな。
クロードが迷っているのは戦闘訓練でどの機体に搭乗するかである。今まで搭乗していたヴァッシュは速度が高く攻撃も高いため相手の攻撃を避けながらという戦闘スタイルであり、1発こそ重いが連発は出来ないメテオライフルには相性が良い。
対して新しい機体であるエリュトロは速度が遅くなるものの攻撃の高いヴァッシュを遥かに超える高い攻撃と安心出来るほどの装甲が特徴である。性能だけ見れば即答でエリュトロにするのだが、戦闘訓練に初めて操縦する機体で行く事と装備させている武器パーツが今まで経験したことの無い弓系統のトレントアローである事から踏み込めずにいるのである。
「ルピウス、弓系統の武器パーツって扱いやすいかい?」
判断の助けになると思いクロードは弓系統の扱いやすさをルピウスに尋ねた。もし扱いやすいのなら初めての操縦もなんとかなるかもしれない。そう思っての質問であった。しかしルピウスは少し渋い顔である。
「……うーん、どうだろうな。弓っていう性質上、操縦するためのレバーにかかる負荷が一番重いのが特徴なんだよ。その分1発1発の威力は高いんだけどね。だから銃ほど連発は出来ないし、外した時のリスクが大きいから部類としては扱いにくい系統なんじゃないかな」
ルピウスから扱いにくい武器パーツと聞いたクロードはエリュトロで戦闘訓練に行くことを断念したのである。どういう訓練で誰と戦うのか分からない以上使い慣れた機体で行くのが良いだろう。そう判断してサブの格納庫からヴァッシュを呼び出しそれを自分の目で確認してクロードは休息を取るために自室へと戻ったのであった。
「……さて、話は全て伝わったかな?」
クロードが格納庫でエリュトロで行くかヴァッシュで行くか悩んでいた頃、教官室にはとある人物が訪れていた。一通り話し終えたレオが真剣な眼差しでその人物を見つめている。やがてその人物は口を開いた。
「……つまり僕がそのクロードくんと戦闘訓練をすれば良いんですね?」
「あぁ、たった5分間だけだがな。……やってくれるかい?」
「ええ、もちろんやらせてもらいますよ。……ところでその訓練で本気を出しても?」
言葉では戦闘訓練とは言え本気の勝負がしたいという血気盛んな素振りだが表情からはとてもそうは感じられない。ただ穏やかに微笑んでいるだけである。
「なんなら撃墜させても構わない。その時はクロードには三等騎士になる資格が無かったと言うだけだ」
「ふふ、それじゃあ楽しみにして待ってますよ。場所は演習場C5ですね」
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教官室
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しっかり休息を取り万全の状態となってクロードは教官室を訪れていた。もちろん戦闘訓練の準備が整ったとレオに知らせるためである。
「……クロードか、戦闘訓練の準備は整ったのか?」
「……はい!」
「良いだろう、それでは今回の戦闘訓練のルールを説明しよう。まずは場所は演習場C5で行うものとする。君は一度利用したはずだから場所は分かるはずだ。そしてそこには君にとって格上と思われる騎士が待ち受けている。そこで5分間真剣勝負をしてもらう」
……真剣勝負か、つまり5分間の制限時間で相手をどうにかして撃墜させれば良いってことだな。
真剣勝負と聞いてクロードはそう考えていた。しかしそれを見透かしたかのように続けてレオがこう言ったのである。
「そして、その5分間の真剣勝負で撃墜されないことが達成条件だ」
「……え? それで良いんですか?」
読んでくださりありがとうございます。
勝たなくても良いというのは一見簡単そうに聞こえます。しかし実はそれは難しいことです。勝ちに行った方が負けないというのはよくある話だと私は思っております。




