第四十一話 鍛冶屋に先客
何とも言えぬ虚無感の中クロードはタスクの達成状況を確認してみたのである。パディン及びその部下には逃げられてしまっていることから決してごろつきたちを全員制圧した訳では無い。しかし結果としてはカリーニャの丘にいたごろつきたちは全員いなくなったのである。
従って、タスクの達成状況には完了の文字が光っていた。これほどまでにその完了の表示に嬉しさを感じなかったことはないだろう。とは言えタスク自体は完了したのだ。起こったことを報告しなければならない。クロードはやるせない気持ちを抱えながらウィンドウの表示に従ってスタラジア帝国へと帰るのであった。
……そう言えばピクトさんに設計図を預けていたんだったな。確か5枚……だっけ? それに陸のパーツの珠が2個あるから教官室に行く前に鍛冶屋に寄って行こうか。
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鍛冶屋
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鍛冶屋へ向かったクロードだったが鍛冶屋の前に見慣れぬ赤いE・L・Kが鎮座されているのに気がついた。置かれ方からしてピクトのものという訳では無く今鍛冶屋に来ている誰かのE・L・Kなのだろう。
仕方がないので邪魔にならない範囲でクロードもヴァッシュを置き、操縦席から降りると鍛冶屋の中へ入った。するとやはり先客がいたようだ。クロードと同じ格好をした男が1人ピクトと雑談していたのである。
「……お、噂をすれば来たようだな。クロード、渡された設計図の武器パーツは既に出来ておるぞ。受け取るが良い」
《ノーマルバレットを手に入れた》
《グランドシェイカーを手に入れた》
《アイアンブレイドを手に入れた》
《アイアンアローを手に入れた》
《ギガントキャノンを手に入れた》
お、やっぱり5枚の設計図を預けていたようだね。被った武器パーツもあるけど知らない武器パーツもあるね。どれがどの設計図から手に入ったのかよく分からないけど性能は格納庫に帰ってから確認しようか。どんな性能か楽しみだよ。
「へぇ! 一気にそれだけの量の設計図が手に入ったのかい? すごいなぁ、僕も頑張らないといけないね」
先客だった男が感心したようにそう呟いた。ピクトが武器パーツを渡して来たのでてっきり話が終わって鍛冶屋を出るのかと思ったがそうでも無さそうであり、クロードとしては誰か分からない人に観察されるのは気分がそれほどよろしくは無い。
「あの……、どなたでしょうか?」
「あ! ごめんよ。僕としたことが自己紹介を忘れていたね。僕の名前はラッケル、君と同じスタラジア帝国の騎士だよ。有望な新人がいるって噂だからどんな人なのか気になってね、ピクトさんに聞けば常連だって言うから来るまで待っていたんだよ」
どうやらラッケルと名乗ったこの男はクロードの先輩にあたる人物らしい。確かにクロードは鍛冶屋の常連だがそれはタスクの報酬などで設計図やパーツの珠が途切れずに手に入っているからであり、用も無くここに来ている訳では無い。ここにずっと立ち寄らなかったらラッケルはどうするのか少しばかり気になったのであった。
「ラッケルはこう見えて三等騎士だ。が、お前さんならこいつくらいすぐに抜き去って行くだろうな。なにしろこいつは先輩にも関わらずお前さんに抜かれそうだってわしに相談しに来たぐらいだからな」
「うわ、やめて下さいよ。恥ずかしいなぁ。先輩の威厳って奴が無くなるじゃ無いですか」
ピクトに指摘されてラッケルは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。これまでのやり取りからラッケルは穏やかな性格のようであり、聞けばそれなりの答えが返って来るようである。そこでクロードは鍛冶屋の前に置かれていたE・L・Kについて聞く事にしたのである。
「あの……、鍛冶屋の前にある赤い機体はラッケルさんのE・L・Kなんですか?」
「あ、そうだよ。僕の愛用の機体ローゼルさ。クロードは今何に乗っているんだい?」
「ヴァッシュですね」
「なるほど、ヴァッシュか。前まで僕も使っていたよ。確かにあれも良い機体だよ。……ただ、僕はどちらかと言えば射撃攻撃より斬撃攻撃の方が好きでね。ローゼルが手に入ってからはヴァッシュには乗らなくなったかな」
ラッケルはしみじみと思い出すかのようにそう言った。どうやらラッケルは以前にヴァッシュに乗っていた事があったらしい。そしてクロードもヴァッシュが手に入ってからはブランシアやルブールに乗らなくなったので気持ちは分かる。
そしてラッケルの話からするとローゼルは斬撃攻撃が得意のようである。つまりは近、中距離のE・L・Kであり、戦う時には距離を詰められないようにしないと、と戦闘する訳でも無いのにクロードはシミュレーションをしていたのである。
「……それで、ほかに何かあるか?」
「……、あります! 今出すのでちょっと待ってください」
ほかに何かと言われて我に帰ったクロードは慌てて陸のパーツの珠を取り出そうとアイテム一覧から探し始めた。その様子を見ながらラッケルは鍛冶屋を出るようだ。ラッケルはピクトに何か預けていると言う訳ではないので立ち上がるとそのまま出口へと歩いて行ったのである。
「それじゃあ僕は自分の部屋に戻るとしますよ。ピクトさん、また何かあったら来ますね」
読んでくださりありがとうございます。
一応タスクは達成したことになったようですね。ただ形式上完了になっているだけで実態は違うので報告するのが少し億劫になりそうです。
ここにきて新しい登場人物、先輩騎士のラッケルです。優しい話し方ですが実力は相当のようです。




