第三十二話 クィッカーはどんな奴?
「整備は今日中に終わるのか? さっき明日まで休んでって言っていたけど……」
「もちろんさ! 例え撃墜一歩手前まで消耗していたとしてもしっかり整備する時間さえ確保出来たら新品同様の状態まで整備するのが助手の仕事。しっかり休んで次の日にはいつものようにタスクが出来るように精一杯機体を整備する、そのために僕たち助手がいるんだからね」
ルピウスは誇らしげにそう言った。ルピウスが言っていることはつまりどれだけ装甲を消耗していたとしても撃墜さえしていなければクロードが休んでいる間に整備を済ませて装甲を完全に回復させてくれると言うことである。
クロードはクィッカーがどう言うモンスターであるかを何も知らないが、少なくともヴァッシュで行きたいとは思っていたのでルピウスの言うことに素直に従って一日休むことにしたのだ。
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カシオ平原
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じっくりと休息を取りステータスを万全にしたクロードはクィッカーを討伐するためカシオ平原に来ていた。ここ数回はエリーダ高原へ向かっていたためカシオ平原に来るのは久しぶりである。
「クィッカーってどんな奴なんだ? 俺見たことが無いから相当奥まで行かないと遭遇しないよな」
「いや、ビックホーンの時ぐらいの場所で遭遇は出来ると思うよ」
心配そうなクロードだがそこまで奥にいるモンスターでは無いようである。となるとクロードは見た事があるのかもしれない。しかしある程度カシオ平原の事を網羅していたクロードの記憶にはクィッカーらしきものが無かった。
「本当に? でも見た覚えが無いんだよな」
「見た事はあるでしょう? ビックホーンと戦う前に見かけていたはずだよ」
「本当に? ……どんな奴なの?」
「うーん、見た目は大型で足がかなり速くて飛ばない鳥だな」
大型で足がかなり速くて飛ばない鳥? ……つまりダチョウみたいな感じか? そんなモンスターを見たことがあるような無いような……。
ルピウスに言われてクロードはビックホーンを討伐した時の記憶を辿った。確かにビックホーンに遭遇する前に下手に戦闘にならないように避けて通っていたモンスターたちの中に足がやたら速いダチョウが混じっていたのを思い出した。ルピウスの言っている事を踏まえるならアレがクィッカーだと言うことだ。
見た感じのイメージだとあんまり銃撃で的確に当てるのは難しそうだな。逃げ回られても面倒だし直進して攻撃して来られても面倒だな。ある程度近づいて気付かれないように1発目を確実に当てる。これが理想の攻撃パターンだな。
ある程度作戦を立てたクロードはカシオ平原の3つ目の橋を渡りクィッカーに先に気付かれないよう気をつけながら慎重に捜索を始めた。気付かれにくいよう草が生い茂るところを進んで行ったクロードは視線の先にクィッカーの姿を見つけた。
ここまでは順調そのものである。しかしクィッカーに気取られるあまり他のモンスターの姿に気付けないでいたのだ。けたましい羽音に気付いてふと見上げると縄張りに侵入された事で気が立っており今にもこちらに襲いかかろうとしている大きなトンボのようなモンスターが2匹警戒心溢れる羽音を響かせながら浮かんでいたのだ。
「うぉ⁉︎ 危ねぇ!」
幸いレバーに手をかけかけていたためすぐさまメテオライフルを発射する事が出来たのだ。大きな音が鳴ったためクィッカーに気付かれてしまったが流石に目の前のモンスターを無視するわけにはいかないためこれは仕方のないことだとクロードは自分に言い聞かせた。
襲いかかってきた大きなトンボの内、手前側にいた方を撃ち落とすことに成功しクロードは次のリロードのために体勢を整えた。手前にいた方を狙ったのはそちらが一回り小さかったからであり、体力に差があるならこちらの方がメテオライフル1発で倒せる可能性が高そうだったからである。
現に倒し切ることは出来なかったが撃ち落とすことには成功したのだ。恐らくだが相当なダメージを負ったに違いない。これに警戒してそのまま攻撃を仕掛けて来ないか、あわよくば逃げてくれはしないか。クロードは決して短くは無い10秒のリロードの間それを祈った。
その祈りは半分は届いたと言える。実際残った方はクロードに対して攻撃は仕掛けて来なかったからである。この大きなトンボのようなモンスターは名をツガイヤンマと言い、大抵オスとメスの番で行動している。そしてこのツガイヤンマはカマキリなどに見られるとある習性を持っているのだ。
その習性は共食いである。
メスのツガイヤンマが撃ち落とされたオスに近づくと勢いよく捕食し始めた。時間にしておよそ5秒。メテオライフルのリロードが終わるかどうかとタイミングで捕食が終わり先程よりも素早くなった動きでクロードに襲いかかってきたのだ。
読んでくださりありがとうございます。
忘れ去られたクイッカーの討伐は一筋縄ではいきません。ツガイヤンマはルピウスの言うようにメスから倒すのが定石です。素早くなったツガイヤンマは相当厄介です。




