第二十八話 睡香石を求めて
……ふぅ、まあこんなものかな。近場で採取出来るポイントはこれで多分全て回ったはずだよ。新しく手に入ったのは月見草が3個に宵闇茸が1個、闇水晶の欠片が2個だな。
夜ってのは結構面白いね。これは定期的に夜にも出発することが増えそうだ。それじゃあスリープマシュルを探して行こうか。……どの辺りにいるんだろう?
「ルピウス! スリープマシュルの位置ってMAPに表示出来るか?」
「ごめんよ、それは出来ないんだ。表示出来るのはタスクで討伐対象になっているなどの一部のモンスターと、タスクに関係している採取ポイントだけなんだ」
「……となると自力で探すしかないってことか。」
MAPに表示出来ないことを聞き少し面倒に思っていたが右横のホログラムからさらに続けてルピウスの声が聞こえてきた。
「ただ、前にも言ったと思うけど採取ポイントになっていないキノコがあったらそれがスリープマシュルだからね。今回はキノコ類はタスクに関係ないからMAPには表示されないけど、採取ポイントはそれを表すために光っている。だから採取ポイントの近くで光ってないキノコを探すと良いよ」
そういえばそんなことを言っていたような……。確かに採取ポイントは光っているよね。とりあえず手近な採取ポイントを巡ってみようか。スリープマシュルに出くわすかもしれないしね。
先程までの採取で何箇所かはキノコの採取ポイントも通っていたのである。故にクロードはそのうちの少なくとも1箇所にはスリープマシュルが擬態しているだろうと当たりをつけていた。しかしスリープマシュルを見つけるのはそう甘い話ではない。
「……全然見つからねえ! どこにいるんだい!」
実はスリープマシュルは擬態に優れているだけでは無く警戒心も非常に高いのである。そのため一度見逃すと再び来た頃にはどこかへ逃げ去っていると言う訳である。
とは言え採取ポイントはたくさんあるので例え見逃しても新しく次に行く採取ポイントに擬態したスリープマシュルがいる可能性はある。そのため難易度はそう高くは無い。しかしクロードは最初の採取で既に数箇所の採取を済ませており、少なくとも近場での採取ポイントはもう残ってはいなかった。
「うぅん、こんなに見つからないとはね。多分スリープマシュルはここら辺りにはもう居ないんじゃないかな?」
「もう居ない? 逃げたってこと?」
「結構警戒心が強いみたいだよ? 一度見逃すと逃げ去ってしまうとか」
……なるほど、それならもう逃げただろうな。周辺の採取ポイントは既に全部見た後だからな。
「だから、一旦出直すか、他のモンスターも倒す必要があるけど奥に進むかの2択だね。どうする?」
あぁ、そうか奥にも採取ポイントはあるもんな。……どうせ後で奥に潜んでいるような強めのモンスターのドロップアイテムも必要になるんでしょう? なら進む以外の選択肢は無いね。
「奥に進もう。どうせ相手にはする相手だ、今相手にするか後で相手にするかだけの違いだよ」
「いざとなったら撤退も考えておいてね。装甲が心許なくなったら合図を出すから素直に撤退するんだよ?」
どうやらルピウスは装甲が削り切られる前に教えてくれるようだ。しかしクロードには撤退という考えは頭から無かった。考え無しに突っ込んでいるからでは無い。プレイヤーである蔵元和人が今までのゲームを攻略してきた経験を踏まえ、考えに考えた上でこう結論を出しているのである。
「自分がもう少しで負けてしまう程追い詰められている時。もしそこから撤退出来るなら相手との実力差はそう無い。ならば撤退より勝ちに行った方が絶対に良いはずだ。もしそこから撤退出来ないのなら、撤退してもしなくても結果はそう変わらない。ならば僅かな可能性に賭けてでも勝ちに行く方が絶対に良いはずだ」
結果として彼のこの結論は今のところは正しいと言える。実際に撤退したことは無く、全て勝って来ているからである。この考えが今までの彼を突き動かしているのだ。
さて、……進んで来たわけだが意外とモンスターがいっぱい蔓延っているわけじゃないんだな。てっきり色々なモンスターに邪魔されると思っていたんだけど今のところ普通に進めているぞ?
慎重にかつ大胆にクロードはヴァッシュを前に前に操縦していた。基本的に草食獣はもちろん肉食獣だったとしてもE・L・Kに果敢に襲いかかってくるものは居ない。襲いかかってくるの相当は血気盛んなモンスターか、同じくE・L・Kを操る人だけである。
そしてエリーダ高原に生息するモンスターでそのような血気盛んなモンスターは存在しないためE・L・K同士がかち合わない限り表立って戦闘は発生しないのである。ただし、これは無闇にその縄張りに侵入しないことが前提である。侵入者は排除せよ。それは全ての動植物に備わっている生存本能なのである。
不意にクロードは寒気を覚えた。別に近くに凶暴なモンスターがいる気配は無いし何かトラップのようなものを踏んでいる訳では無い。あるのは土の壁に絡まったツタとその近くの鉱物の採取ポイントだけの何の変哲も無い風景である。しかし何故だかこれ以上進むと危険なのではと言う予感が感じられたのである。
読んでくださりありがとうございます。
本文中に出てくる蔵元和人の考えは彼の根幹となっています。今までの経験がそれを彼に確信させたのです。ですが本当のことを言うと撤退も大事です。あくまでこの考えはゲームをしている時ということが前提であります。




