第一話 目覚めそして始まり
――
自室
――
「始まったのは良いけど……。ここどこ?」
クロードはどこかの部屋のような場所で目覚めた。自室とあるのでクロードの部屋であることは間違いなさそうだ。周囲の景色からどうやら騎士団の寮のような場所だろうか。特に説明が無い事からこの部屋を出るなど何かしらのアクションを起こせばイベントが進むのだろうとクロードは解釈しとりあえず部屋の中を確認してみることにしたのである。
「まず、定番はタンスとかを開けることだよな。何かアイテムがあるかもしれないしね」
《クローゼットを開けると服装のカラーリングを変更出来ます。変更しますか?》
「へぇ、クローゼットを開ければ着替えが出来るって感じか、なるほどね。さすがに開始直後に気分転換する人はいないな。今はしない……と。ま、これは後々使うかもしれない機能だな。……そう言えば、視界の端に映るコイツはなんだ? 設定か?」
クロードは視界の端に時折り映る歯車のようなものが気になった。どこを見てもいつも同じ視界の左上の端のところにあるのだがどうやって使えば良いのか分からなかった。
その歯車をよく見るとボタンらしきものが下に書いてある。つまりはこれを押せば良いのだろう。それに従って操作すると設定画面が視界に表示された。
「これは多分設定画面だな。プレイ時間の表示も止まってるところを見ると静止の効果もあるのかもね。中身はオプションに、プレイヤー情報、持ちものに図鑑にヘルプか。ヘルプは時々お世話になるかもね。閉じるのも同じ操作で良いのかな? お、閉じた閉じた。もう一度同じ操作をすれば画面に表示されると……、うん? 開かないな」
先程表示出来た設定画面が今度は表示出来なくなったのである。慌ててクロードは色々と操作を試してみたのである。その結果どうやら設定画面を表示するには一度視界の照準を左上にする必要があることが判明した。
普段使う分にはそこまで支障は無いが咄嗟にポーズするためにこの設定画面を使うのは難しいとクロードは結論づけた。
クローゼット以外は特に気になるところは無かったのでクロードは部屋を出ようとしたその瞬間ドアがノックされた。恐る恐るドアを開けるとそこには同じ背丈で同年代と思われる若い男の姿があったのである。
「クロード! そろそろ行かないと遅刻するよ! 準備は出来てるかい?」
……この親しげに話しかけて来る人物は重要な人物なんだろうか。……弱ったな、説明書を読んで無いからキャラクターの名前とか全然知らないんだよね。ヘルプに載ってないかな? ……そもそも調べ方が分からないな。……良し、直接聞くか。
「すまん、名前が記憶から飛んでしまった。君の名前はなんだい?」
「……おや? 僕の名前を忘れたのかい? しっかりしてくれよ、僕はあんたの幼馴染のアンドロだよ。今日は騎士団に入ってから初日だよ? 初日に遅刻してどうするのさ」
アンドロね、覚えた覚えた。そしてやっぱりこの場所は騎士団の寮であってるんだな。……遅刻するって言われてもさ、どこに行けば良いわけ?
「とにかく早く行くよ。ほらついて来て!」
お、教えてくれるの? ありがたいね。一本道ならともかく初見の建物で目的地に着くのは無理ゲーだからなぁ。……まあ結果一本道だったんだけどね。目的地はここ?
「ふぅ、間に合った。ほら早く入るよ?」
――
大広間
――
アンドロに促されるままクロードは大広間という名の部屋へと入った。部屋はかなり広々としておりその中には同じような服装をした人たちでいっぱいである。しかしそんなことはクロードにはどうでも良かった。彼の関心はこの部屋の側面に飾ってあるものに集中されていた。
「分かるよ? その気持ち。ついに騎士団に入れたんだからね。憧れのE・L・Kを操縦出来る日が近いと思うとワクワクするよね」
E・L・K、正式名称をElectronic Link Knightと言いこの世界では欠かせない存在となっている電気で動くロボットである。蔵元和人がこのゲームを即買いしたのはVR技術を駆使しこの3メートル以上はあろう巨大なロボットを自在に操縦出来ると言う触れ込みからである。
ゲームのパッケージ裏にも登場するアンドロを全く把握していないのは、蔵元が最大限楽しむためにE・L・Kの正式名称とゲームの名前以外の情報をシャットアウトしたために他ならない。
「あぁ、今俺はすごくワクワクしてるよ。……? でもこの見た目のものは見たことがないな。俺が見たのはもっとかっこよかったはずなんだが……。武器が無いからか?」
クロードは憧れたE・L・Kを目の前にして首を傾げた。E・L・Kは豊富な武器が扱えるのが売りでもある。しかし目の前のそれは武器を何も持っていない所為かやや味気なく見えたのだ。
「それはそうだろ。だってこれは旧型のルブールだぜ? 今回僕らに支給されるのは新型って言う噂だよ。……さぞかしかっこいいんだろうなあ。ワクワクが止まらないや」
アンドロがそう言った瞬間周りの空気が一変した。一気に締まったという言い方が一番正しいかもしれない。広間の奥にとある人物が立ったのである。その人物は周囲の人たちよりも階級がずっと高そうな装いをしていた。
「……静粛に、と言うつもりだったが必要無さそうだな。今回君たちの教官である二等騎士のレオだ。これより君たちは支給されるE・L・Kの操縦訓練に励みスタラジア帝国を守るため戦ってもらうことになる。まずは順番に支給を始めよう」
読んでくださりありがとうございます。
クロードが最初にいるのはスタラジア帝国騎士団の寮になります。寮は騎士団の駐屯所に併設されており大広間は扱いとしては駐屯所の建物になります。まあだから何だという話ではあるんですが。