最終話 戦いを終えて
クロードは深く息を吐いた。1つのミスも許されない状況で戦っていたのだ。無理もないだろう。深呼吸をしたクロードはやがて落ち着きを取り戻した。そうすると勝利したのだという思いが勢いよくこみ上げて来た。クロードは間違いなくこの戦いの勝者であった。
「すごいよクロード! 本当に君は凄いや!」
ホログラム越しに……ではなくすぐ近くから興奮してテンションが上がりきっているルピウスの声が聞こえて来た。どうやら輸送用トラックから飛び出してクロードを賞賛しに来たようだ。
……ふふ、そんなに喜んでもらえるなら嬉しいな。あ、そうだ。シュガが気絶しているうちにあれを早く壊さないと……。
稼働させた人物が気絶してもなお不思議な黒い機械はまだ動いていた。この状態では空戦用のE・L・Kを動かすことが出来ないため帰還は出来ない。ゆっくりとクロードはその機械を壊すために近付いていった。
空戦用E・L・Kの操縦を不可能にするその機械はシュガが起動させた時から変わらずに不思議な音を響かせていた。ふとクロードは近くにもう一機のE・L・Kが来ていることに気が付いた。振り返るとE・L・Kに搭乗したレオが穏やかに微笑んでいるのが見えた。
「その機械を壊すんだろう? 私には何の機械か分からないが不穏な気配に満ちている。恐らくシュガが作ったもので間違いないだろう。なら早く壊すべきだ。……私は見ているだけだから早く壊すと良い。それほど頑丈なものでは無いはずだ」
レオのその言葉に応えるかのようにクロードはまっすぐアルギュロスをその機械に振り下ろした。派手な音を立てながらその機械は爆ぜ効果を失った。これで空戦用E・L・Kが操縦出来るようになっただろう。……そしてこれによりシュガの野望は完全にくじかれたのであった。
「……これで終わりだな。改めてクロード、君に感謝したい。……ありがとう」
「そんな、感謝なんて良いですよ。頭を上げて下さい」
「いや、感謝させてくれ。私では到底なしえなかったことだ。クロード、君だからこそこれは出来たことなのだよ。スタラジア帝国だけでは無い。シュガの野望が叶えばこの世界はシュガの思うままになっていただろう。それを君は救ったのだ。最大の感謝と最大限の賛辞を送らせてくれ。……本当にありがとう」
そう言うとまたレオは深々と頭を下げた。これほど直球で感謝の気持ちを受け取ったことがあまり無いためやや恥ずかしそうに笑みを浮かべていた。
大きな達成感と虚無感が混じった不思議な感覚をクロードは感じていた。それは流れてくるBGMのせいなのか、それとも長かったタスクがようやく終わったからか、それとも別の理由なのか。クロードには分からなかった。
やがてレオは頭を上げた。穏やかな笑みを浮かべ口を開いた。
「さあ、帰還しようか」
「そうですね、帰還しましょうか」
そう答えた瞬間先程感じていた感情の理由がはっきりと分かった。このタスクから帰還することは特別な意味を持っているようだ。いつものようにウィンドウの表示に従って一瞬で帰還するのでは無く、来た道をゆっくりと帰るようである。
彼は何一つ操作をしていない。だが操作をせずとも自動でE・L・Kは進んでいった。彼の視界にはゆっくりと帰還していく風景と共にエンドロールが流れていた。今までのことをゆっくり噛みしめながら流れるエンドロールをいつまでもいつまでも眺めていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
これにて『E・L・K』 ~フルダイブVRゲームでロボットを操縦したい~ は最終話完結となります。この作品が読者の皆さまに楽しんでいただけたならば本当に嬉しく思います。それではまたどこかでお会いしましょう。




