第百四十八話 アルギュロスの秘密
再びエミリアーゼは七色のオーラを纏った。跳ね上がったその速度は凄まじく、クロードが回避する判断をする前に既にペンタソードの射程圏まで接近していた。こうなれば回避は不可能。迎え撃つようにクロードもアルギュロスを構えたが迎え撃つには攻撃が足りない。思い切り振るわれたペンタソードによってクロードは一気に壁まで吹っ飛ばされた。
「クロード! 装甲の限界が近いよ! 気をつけて!」
ルピウスの声がホログラム越しにコックピットに響いた。クロードには返事をする余裕が無い。【アルギュロス】が発動出来ないため【プリズムオーラ】の対処は不可能に近い。それでも僅かな可能性に賭け迎え撃ったのだ。そして今クロードは壁に打ちつけられ、ルブラリアは限界の近さを示すかのように黒煙を上げ始めていた。
「ほう、まだ戦意は失っていないか。見上げた精神だよ。幹部たちがやられたのも納得がいく。……だがそれももう終わりだ。さあ、フィナーレと行こうか!」
……あぁ、この攻撃に直撃すれば間違いなく撃墜だ。ルピウスの言葉が無くてもそれは何となく分かるよ。仮にこの攻撃をなんとか防げたとして、撃墜するのが遅くなるだけ。結果は多分変わらない。
……だから何だって言うんだ。可能性はゼロじゃない。
クロードはコックピットの左上、銀色に輝き始めたスイッチを押し込んだ。淡く銀色に輝くオーラが機体の全体を包み込む。速度は捨てた。その代わりに跳ね上げた攻撃でシュガの攻撃を迎え撃つことがこれで可能となる。
撃墜間近まで追い詰めているのにも関わらずまだ食い下がるクロードにシュガは苦々しい表情を浮かべていた。だがクロードもまた苦々しい表情を浮かべていたのである。
……これで効果が続く限りシュガの攻撃は凌げる。…だが効果時間はこっちの方が短いんだ。【アルギュロス】の効果が切れるのが先か、先に発動させている【プリズムオーラ】の効果が切れるのが先か。
体感的に微妙に【アルギュロス】の方が早く効果が切れそうだ。……ならそれまでに決着を付けなくては!
激しい戦いを繰り広げる両者は両者の都合でどちらも焦りを覚えていた。効果が切れた方の負け。そんな思いが両者で共通していた。シュガは早く【アルギュロス】が効果切れになれと念じ、クロードは【アルギュロス】の効果時間内に決着をつけたがった。
これまでの経験で培われたクロードの体感はかなり正確である。 1度目の【アルギュロス】の効果時間では【プリズムオーラ】が効果切れとなる前に先に効果が切れてしまうのだ。
但し、それはあくまでも 1度目の話である。
【アルギュロス】は他に例を見ない効果時間とクールタイムが可変するスキルである。そしてその時間は回数を重ねれば重ねるほどに長くなる。比較的クールタイムが長い【プリズムオーラ】が発動出来るようになってもまだ【アルギュロス】が発動可能になっていなかったのはそれ故である。
そして長いクールタイムにより効果時間はかなり長くなっている。それ故に先に効果切れとなるのは【プリズムオーラ】の方なのである。そしてその時は唐突に訪れた。
……! 向こうが先に効果が切れた?! なら畳みかけろ! 決して逃すなっ‼︎
いち早く【プリズムオーラ】が効果切れになったことに気付いたクロードはシュガを逃がさないとばかりに追撃を仕掛けようとアルギュロスを引き込んだ。
だがシュガもまた自身のスキルの効果が切れたことにすぐに気が付いた。
シュガは自身の経験上【プリズムオーラ】の効果が切れるタイミングを熟知していた。そして【アルギュロス】と言うスキルは攻撃を上げる代わりに速度を犠牲にしているのでは無いかと予想していた。
故にシュガは効果切れの瞬間回避のために1歩後退したのだ。
シュガが後退した1歩は距離にしてアルギュロスを振る場合ギリギリ届かない距離である。その1歩はシュガのこれまでの経験を凝縮させた1歩であった。
【アルギュロス】の効果時間中は効果の都合上速度が落ちる。それはスキルを使っているクロードが一番よく知っている。そして一度逃してしまえば効果時間中は追いつけなくなることもよく知っている。
故にクロードが追撃に選んだ攻撃方法は切り替えレバーを駆使した突き攻撃。それはルブラリアが出せる最高リーチの攻撃である。
今の今までシュガに全く見せてもいないその攻撃は、シュガの予想を上回り後退しようとするエミリアーゼの胴体部分に突き刺さった。
装甲がかなり消耗していたエミリアーゼには【アルギュロス】で上がっている攻撃を耐えることが出来ない。限界を迎えたエミリアーゼはゆっくりと後ろへ倒れ込むと音も無く崩れ落ち、限界を超え気絶しているシュガを乗せた操縦席だけがその場に残ったのである。
読んでくださりありがとうございます。
ついに決着がつきました。アルギュロスの持つ2つの秘密が勝負の鍵となったようですね。




