第百四十五話 ペンタソード
シュガはエミリアーゼの持つロングソードを大きく振りかぶった。次の瞬間刀身が黒いオーラを纏った。その間僅かに1秒弱であり、注視して見なければシュガがスキルを発動させたことに気付けないほどである。
慌てて正面から外れたクロードだったがそれでは回避は出来ない。薙ぎ払いによって飛ばされた斬撃は幅がかなり広く正面から外れただけで安心していたクロードに斬撃を浴びさせた。
……なるほど、単なる薙ぎ払いの斬撃を飛ばして来た訳じゃ無いな。纏うオーラの色も違ったし【ブレイドショット】とは多分違うスキルだね。【ブレイドショット】で放たれる斬撃は幅がそれほど大きく無いから比較的簡単に回避出来るんだけど、これはかなり幅が広い。……多分倍くらいには広いかな。……となるとただ正面から外れるだけで避けるのは難しいか。
さて、反撃と行きたいところだけど向こうの戦闘スタイルがまだ分からないんだよな。武器からすると近接系だと思うけどさっきのスキルを見ると中距離タイプの可能性も捨てがたい。……ならこっちで近づく隙を作ってみるか。
そう分析したクロードは【ブレイドショット】のスイッチを押し込んだ。刀身が淡く水色に輝いき【ブレイドショット】の発動準備が整った。本来ならば放つべき斬撃は先程のシュガのように薙ぎ払いによるものの方が良いのである。他と比べると斬撃の幅が広く相手が簡単に回避が出来なくなることが大きな理由だ。
しかしクロードは敢えて幅の狭い斬り上げによる斬撃を【ブレイドショット】によって飛ばした。シュガに回避させることにより接近するための隙を作ろうとしたのだ。
放たれた斬撃は直撃する直前にシュガに回避されると壁まで飛んで消え去った。最小限の回避のため思ったよりは隙を作れなかったがクロードは迷わずシュガに突撃を試みたのである。これを見てシュガもまた手にしたロングソードで応戦して来た。
やはり傭兵部隊隊長だけあってシュガの剣捌きは見事なものでありクロードの攻撃を防ぎつつ幾度となく隙を狙って攻撃を仕掛けようとしていた。だがそれを防げないクロードでは無い。戦いの最中起こった近接戦闘はどちらも消耗しないまま堪えかねるようにシュガがその場を離れるまで続いたのである。
「……チィ! ……なるほど、今まで幹部たちを全て撃墜して来た実力は本物らしい。まさか近接戦闘でここまで差が出ないとは思わなかった。ここは1つ中距離で戦うとするか。……【フロストチャージ】!」
シュガはロングソードを高く掲げた。剣先にはみるみるうちに冷気エネルギーのようなものが集まって来ていた。
【フロストチャージ】自体の経験は無いが似たようなスキルならクロードは食らったことがある。冷静にシュガの正面から外れると次の瞬間凄まじい速度と威力で【フロストチャージ】が放たれた。
……うわ、おっかないな。あんなの絶対食らいたくないよ。しかしさっきの斬撃を飛ばして来たのもスキルだとして今回の【フロストチャージ】でスキルは2個目。まあ、仮にも傭兵部隊の隊長の持っているスキルの数が2個な訳無いよな。
それにあの武器パーツに少し見覚えがある。あれは確かカリーニャの丘でパディンが持っていた武器パーツだったかな。確か名前はトライソード……、だったっけ?
クロードの予想は正しい。パディンがかつて使っていた拡張スロットが3個空けられた武器パーツであるトライソードは今シュガが使っているペンタソードを元にして作成されたものである。そしてオリジナルであるペンタソードに空けられている拡張スロットは脅威の5個。シュガは再びペンタソードを高く掲げていた。
「まだ私の攻撃は終わらんぞ。食らうが良い! ……【ヒートチャージ】!」
剣先に瞬く間に炎熱エネルギーのようなものが集まって来ていた。矢継ぎ早に放たれるスキルにクロードはやや困惑したがスキルが発動している以上回避しない訳にはいかない。すぐさまシュガの正面から外れると放たれた【ヒートチャージ】を横目で確認しつつクロードはダメージを稼ぐために接近しようとした。だがシュガはまたもやペンタソードを高く掲げたのである。
「まだだ!まだ私の攻撃は終わらない! ……【エレキチャージ】!」
……マジ? さすがに連発しすぎじゃない?
スキルの発動を声高に宣告するシュガをクロードは信じられない表情で見ていた。が、すぐに表情を引き締めた。その理由は簡単。ペンタソードの剣先に電気エネルギーのようなものが集まって来ているのを目で見たからである。スキルが発動している以上クロードは回避しない訳にはいかない。すぐさまクロードはシュガの正面から外れた。次の瞬間凄まじい速度と威力で【エレキチャージ】が放たれたのである。
……ちゃんと発動してるね。これは結構マズイかもしれないな。何がマズイってもう随分と前からこっちの【ブレイドショット】のクールタイムは終わっている。これは向こうも同じこと。俺の体感が正しければもうすぐ【フロストチャージ】のクールタイムが終わるんじゃないか?
「さて、クールタイムの終了だ。今度こそ【フロストチャージ】を食らうが良い!」
読んでくださりありがとうございます。
傭兵部隊の隊長だけあってシュガは数多くのスキルを使うようです。そして扱うスキルの種類が多いためクールタイムというスキルの欠点が撃ち続けるだけで解消されるという力業もあります。果たしてこの戦いはどうなっていくんでしょうか。




