第百四十四話 レオの小さな抵抗
クロードがその声に思わず振り返るとそこには見慣れぬ陸戦用E・L・Kに乗ったレオがいたのである。レオもまたオリオンの頂へと到達していたのであった。動けないでいるクロードの前に立つとレオはまっすぐシュガを見据えた。真剣なレオのその眼差しを見ておかしく思ったのだろうか。シュガは鼻で笑うと口を開いた。
「だが、お前が来たところで何になるって言うんだ?まさかお前は私に操縦の腕で負けていたことを忘れた訳じゃああるまいに」
「そんなものやってみなければ分からないだろう。君があれから腕を上げたとして、私も同じく腕を上げた。今なら操縦の腕も負けてないかもしれないぞ? 私はな、いつか君と戦うだろうと思って日々人知れず腕を磨いていたのだよ。……ところで」
出会うなりそんなやり取りをレオとシュガは交わしていた。かつての同期で一等騎士目指して日々切磋琢磨していたと言うのはきっと本当なんだろうとクロードには思われた。その時不意にレオがクロードの方へ振り返った。
「このままだとクロードを巻き込んでしまうな。無闇に巻き込みたくないんでな。ちょっとだけ移動させても良いか?」
「……ふ、相変わらずのふ抜けだ。動けない奴なんて放っておけば良いものを。好きにすれば良い。どうせ結果は変わらん」
どうやらレオはクロードを巻き込んでしまうことを心配していたようだ。出来ることなら戦いに参加したいが動けなくてはどうしようもない。されるがままクロードはミスリルで出来た壁に押し上げられるような格好で移動させられた。地に足がついているはずだがなぜかクロードは宙に浮いているように錯覚に陥った。その理由はすぐに分かることになる。
「さて、待たせてしまったね。それじゃあ戦いを始めようか」
「……おい、お前。今何をした?」
「……何の話だい? 私はただクロードを移動させただけだ。それ以外何があるって言うんだ」
「そんなはずはあるか! ……さっきまで見えていたはずの機体がまるで見えない! これは……まさか⁉︎」
シュガは狼狽えていた。先程まで動けずに最早スクラップと化していた空戦用E・L・Kが突如姿を消したのだ。そもそもレオがオリオンの頂までやって来ること自体予想外なのである。他にも誰かが来ているなんて発想は欠片もしていなかったのだ。
「……実を言うと私が腕を上げたと言うのは嘘だ。私は君がスタラジア帝国を裏切りネミリア王国傭兵部隊の幹部となった時からずっと機体に乗ってすらいなかった。大変だったんだぜ? 久しぶりの操縦に加えてあんなに重いものを運ぶのは騎士になって初めての経験だったからね」
シュガは野望のため数多くのことをもたらしていた。そのうちの1つにE・L・Kを運ぶためのコンテナ及びトラックがある。これにより機体の乗り換えが可能になったのだが1つだけ欠点があった。それは攻撃に巻き込まれることで搭乗機体よりも先に輸送している機体が消耗してしまうことである。
そこでシュガは全てのコンテナ及びトラックに認識阻害機能を付随させたのだ。これにより攻撃に巻き込まれることは余程のことが無い限り無くなったのである。そしてもちろんクロードが突然見えなくなったのはレオが自然な流れを装ってコンテナの中にアクィラを押し込んだからである。
「だがなぜだ⁉︎ こんな芸当私の野望を理解していなければ到底考えつかない!」
「知っているさ、……昔からね。君は完璧主義者であり夢想家だ。君の野望は騎士隊の地位向上なんて言うちっぽけなものなんかじゃ無い。ネミリア王国に行ってもなお、君がそれにこだわり続けたのには他に理由があるはずだ。……そんな時空戦用E・L・Kの操縦を不可能にさせる機械の噂を知った。君ならそれを完璧に使うためにオリオンの頂へと行くだろう。そうして絶対に勝つことの出来る状況を作り上げること。それが君の野望。……違うかい?」
「黙れ黙れ黙れ‼︎ お前ごときが! お前ごときが‼︎ ……私の野望の邪魔をするなどあってなるものか‼︎」
シュガは怒りで我を忘れているようだ。エミリアーゼが持つ武器を乱暴に振り回すと簡単にレオを吹き飛ばした。撃墜こそしないがかなりのダメージがレオの乗る機体を襲った。立ち上がろうとしたレオの目の前に陸戦用E・L・Kが現れた。それを見てレオは穏やかに笑った。
「すみません、遅くなりました」
「私は構わないよ。私の役目は君を戦えるだけの状態にして送り出すこと。シュガの野望はもう知っているな? 奴を止められるのはもう君しかいない。……健闘を祈る」
……なんだか不思議な感じだよ。アクィラが動かせなくなった時は完全に負けだと思ったけどまさかこうしてルブラリアに乗ることが出来るなんてね。ここまでお膳立てしてもらったんだ。この勝負勝たないとね。
ルブラリアに乗り換えて再び戻ってきたクロードはゆっくりシュガの方を向いた。シュガは怒りに満ちた目でレオを見ていたがやがてクロードへ向き直ると口を開いた。
「……勝てると思っているだろう? 絶対に私が勝つ状況から五分まで持ち直したんだからな。だが五分に過ぎない。私が君に勝てば何の問題も無い。あいつの小さな抵抗も意味を無くす。……そうだ、何の問題も無い。誰も私に勝つことが出来ないのだから! ……来るが良い、儚い希望もろとも蹴散らしてくれる‼︎」
読んでくださりありがとうございます。
レオの活躍によってクロードがルブラリアに乗り換えることが出来ました。空戦用E・L・Kを封じられたことで絶体絶命の状況になりましたが陸戦用E・L・Kなら何の問題もありません。後はクロードがシュガに勝つだけです。