第百三十八話 数の暴力
……! いつの間にため始めていたんだ! こいつは確かでっかいビーム攻撃だ。
「気付くのが遅い! お前にこれが回避出来るか? 食らえ【ネグロブラスト】!」
ベルウッドがそう言い終わった瞬間結集していた黒いオーラがクロード目掛けて発射された。【レーザースパイラル】の効果時間内であり、クロードにとっては攻撃のチャンスだが【ネグロブラスト】を回避しなくては装甲がとてもじゃないが保たない。クロードはベルウッドにダメージを与えることを捨てて回避に徹した。
「……これも回避したか。ふむぅ、攻撃が当たらないと話にならんな」
ギリギリのところでクロードは【ネグロブラスト】をなんとか回避した。もし発動したのが範囲が広い【ネグロプロシオン】の方ならば確実に機体のどこかを掠めていたに違いないと思えるほどにギリギリであった。
……助かったぁ。絶対どこかは掠ったと思ったよ。あの【ネグロブラスト】とか言うスキルは予備動作が分かりやすいから回避しやすいのであって予備動作に気付くのが遅いと余裕で直撃してしまうからな。なんとか回避が間に合って良かったよ。
向こうの大技を回避したんだから今度はこっちの攻撃といきたいところなんだが、【レーザースパイラル】はもう使用済みだから当分は使えないんだよね。通常攻撃でどれくらいダメージが稼げるんだろうか。
ダメージに不安を抱えながらもクロードはベルウッド目掛けて通常攻撃を放ち始めた。スキルと比べれば大したダメージソースにはならないがやらないよりはマシである。それにクラウンレーザーに備わっている唯一のスキルは【レーザースパイラル】である。そのため通常攻撃をベルウッドに当てることはスキル発動時に攻撃を上手く当てる練習にもなるのだ。
「攻撃が回避されるなら回避されない攻撃をすれば良い。……そうだな、そうしよう」
……ん? 今ベルウッドが何か言ったな。……回避されない攻撃? 一体どう言う意味だ?
ベルウッドから突然そんな呟きのような声が聞こえて来た。クロードはベルウッドの意図が分からないが何らかの攻撃が来ることは明白である。ベルウッドの動きを1つも見逃さないよう身構えているとジョニアの周囲に小型のミサイルのようなものが円形に並び始めた。
「さて、回避するのが上手いお前に1つ問答を出してやろう。攻撃を回避させないために増やすべき項目は大きく2通りある。何と何だ?」
……何の話だ? 回避させないために増やすべき項目は大きく2通り? そんなの重視するものなんて人それぞれだろう?
「そんなの人それぞれ答えが違うんじゃないか?」
ベルウッドの問答にクロードはそう答えた。ただクロードはこの問答についてそこまで真剣に考えていない。なぜならジョニアの周囲に並び始めているものの数が最早数えきれないほど増えていたからである。
「なるほどなァ、その考えも一理ある。俺はな、攻撃が回避されるのが嫌いなんだよ。だから俺の攻撃はすべて俺の考える答えに特化したものになっている。さて、答え合わせだ。攻撃を回避させないために必要なことはァ、絶望的な程の範囲の広さ! そして暴力的な程の数だァ! …食らうが良い、【ジャミングミサイル】‼︎」
ベルウッドがそう言った瞬間ジョニアの周囲に漂っていた小型ミサイルのようなものが唸りを上げながらクロードに迫った。【ジャミングミサイル】と呼ばれたそのスキルの効果は武器パーツに備わった弾数の限界分と同じ数の小型ミサイルをほぼ同時に放つものである。
完全に同時に発射されれば放たれた小型ミサイルのいくつかは隣り合うものと接触し誘爆が生じてしまい数がある程度減ってしまう。しかしそうならないよう調整されて放たれたその暴力的な数の小型ミサイルは規則性を持った1つの塊のようにクロードを襲った。
こいつはやばすぎないか⁉︎ しかもご丁寧に追尾機能まで付いてやがる。あんまり正確じゃ無いのか少しずつ俺が旋回する度にどこかで爆ぜた音は鳴っているな。自爆で数が減るのを期待してたんだけど、見た目の数がそんなに変わらねえな。それに迫って来る速さがちょっと遅いくらいしか変わらない。……これは回避し切るのにも限界があるな、多少食らうのは覚悟しないと。
クロードは着弾するまで大きく旋回してその数を減らす作戦だった。しかし思ったよりも数は減っていない。減らせたのは精々1割程度だろう。だがこの作戦で隣り合う小型ミサイル同士の接触で多少は数が減ることは判明した。そこでクロードは出来る限り自爆するよう狙いをつけながら撃ち落とす作戦に切り替えた。
切り替えレバーでレーザーが拡散するように切り替えたクロードは迫り来る小型ミサイルの群体に通常攻撃を始めた。1発当てても撃ち落とすことは出来なかったが当たった小型ミサイルが動きを瞬間止めるためにそこかしこで爆ぜる音が聞こえて来た。
旋回で回避を試みるよりも遥かに効率的にその数が減らせている。早くから撃ち落とすことに集中していれば全て撃ち落とすこともあり得たかもしれない。だがそれは結果論に過ぎない。既に小型ミサイルの塊は小さくなりながら確実にクロードに迫って来ていた。
……もう限界、これ以上は減らせねぇ。
とうとう小型ミサイルの塊はクロードに到達し一斉に爆ぜた。クロードが今まで聞いたことも無い程の爆発音が操縦席の周囲いっぱいに響いた。いくら耳を塞ぎ顔を伏せてもその爆発音は鳴り響いた。やがて視界が晴れクロードはジョニアの操縦席に座るベルウッドを見た。攻撃が当たったことに満足しているのかしたり顔である。
「やはり数だな、暴力的な数の前にはさすがのお前も攻撃を回避出来ない。……違うか?」
読んでくださりありがとうございます。
……劣勢ですね。大してダメージを与えられていないのに相手からの攻撃を貰ってしまいました。ここから挽回していきたいところです。