第百話 男の名はベルウッド
いつもとは違うレオにやや戸惑いを隠せない。確かにトライアイズは厄介なモンスターではあったが無事に帰還出来るか分からなくなるほどでは無い。撃墜の心配をするならむしろ二等騎士昇格のために討伐したキングインクの方が撃墜される可能性が高い。故にクロードはレオが何を心配しているのか分からないのだ。
「……なるほど、そもそも出くわしてもいないのだな。……クロード、テレジコ空域はスタラジア帝国からしか入る事が出来ないと言ったのを覚えているか?」
「……? 覚えてますけど、それがどうしたんですか?」
「テレジコ空域に不審者が侵入しないよう帝国ではテレジコ空域の観測隊が発足している。そして先程その観測隊から何者かが強引にテレジコ空域へと侵入したとの知らせが届いたのだよ」
へぇ、観測隊なんてものがあるのか。それじゃあタスクをしている間に俺以外の誰かもテレジコ空域に居たってことか。しかしただ入ったって訳じゃ無く、侵入だからね。穏やかじゃないな。……ん? と言う事は何か物音がした感じがしたのは気のせいじゃなかったってことか?
「……実は」
クロードはタスク中にかすかに物音がした気がして振り返ったことをレオに話した。これは普段なら気のせいと流す些細な出来事である。
しかしテレジコ空域に実際に何者かが侵入していた事を、そしてそれを受けてクロードの帰還をレオがやや大げさに喜んだ事を考えるとあながち気のせいと流せなくなったからである。そしてレオもまたクロードの話を真剣な表情で聞いていた。
「……なるほど、それは恐らくだが気のせいでは無い」
「! ……と言う事はその侵入者だったと言う事ですか?」
「そう考えて間違い無い。そして今の君の話が気のせいで無いのなら侵入者を絞る事が出来る」
そう言ってレオは何やら手元の端末を操作し始めた。少し待っているとレオはクロードの左横にホログラムを投影させた。そこにはクロードが見たことの無い男の顔と、これまた見たことの無い空戦用E・L・Kが映っていた。
「間違っている可能性もあるが9割方正しい情報として聞いてくれ。今そこに映っている男の名はベルウッド。ネミリア王国の傭兵部隊の幹部をしている男だ。最新の情報では無いが最も直近でベルウッドが搭乗していた空戦用E・L・Kジョニアも合わせて表示しておいた」
ネミリア王国の傭兵部隊の幹部か……。今まで何度か……、ええとパディンとハイブリジだっけ? 相手にした事があるけどこんなに間近で顔を見たのはこいつが初めてだな。厳つい顔だよ。なるべくは相手にしたく無いね。
投影されたホログラムを見ながらそんなことをクロードは考えていた。そんなクロードに向かってレオは口を開いた。
「帝国としても侵入者は即刻排除せよとの考えではある。だが相手はネミリア王国が傭兵部隊の幹部。すなわちかなりの大物だよ。生半可な騎士では相手にならず撃墜されてしまうだろう」
そこまで一気に言ってからレオは1つ咳払いをした。何となく話の流れが見えてきたクロードはじっと口を閉じてレオの話の続きを待っていた。
「……クロード、君にとあるタスクを頼みたい」
「……はい。……ベルウッドの撃墜でしょうか」
「……ふふ、話が早くて助かる。ラッケルにもタスクから戻り次第向かうように伝えておこう。クロードは申請されたタスクに従って侵入者を、……ベルウッドを撃墜するのだ。相手は傭兵部隊の幹部、それ故に実力もかなりのものだ。ドラゴリキッドなど有用なアイテムは惜しみなく使うと良い。それでは健闘を祈る」
……予想はしていたけど、当たってほしくは無かったなぁ。……ベルウッドの撃墜か。どうせ戦うなら顔を知らないままで戦いたかったよ。まあやるしか無いね。
半分諦めのような感情を抱きながらもクロードはタスクに従ってベルウッドを撃墜する覚悟を決め教官室を後にした。タスクの準備をするために格納庫へと向かったのだ。
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格納庫
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……さて、ひとまず申請されたって言うタスクを確認しようか。多分タスク一覧の最後に表示されているはずだよ。
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タスク一覧
この輝きは素晴らしい!
ランク:D
場所:エリーダ高原
目的:鉄×1、闇水晶の欠片×3の納品
依頼者:石に囲まれたい男
これじゃあ漁が出来ない!討伐してくれ!
ランク:B
場所:コールバの海
目的:ナップスクイードの討伐
依頼者:泣きそうな漁師
あの厄介な腕を切り落としてくれ!
ランク:A
場所:コールバの海
目的:唸る触腕×2、波打つ大腕×1の納品
依頼者:苛立つ漁師
侵入者を排除せよ。
ランク:A
場所:テレジコ空域
目的:ベルウッドの撃墜
依頼者:レオ教官
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読んでくださりありがとうございます。
第百話です。記念すべき回にも関わらずちょっと不穏です。ベルウッドはテレジコ空域に侵入して何がしたいのでしょうか。




