恋は続かない
あれから2年の歳月が過ぎた。
私はあの後、閣下との間に男児を授かり、なお今も一人お腹に生を受けている。
・・・なーんて事は無く。まったく微塵もなく。根本から引っくり返された後、竜巻でどっかに飛んでったくらいにすっからかんにない。
すなわち、そんな可能性はなーんにも無くなった。
どういうふうにナイかと言うと、まず私が閣下の屋敷に来てから2週間も経っていナイ。2年?あ、それ妄想です。
それから、あの夜から閣下と蜜月を重ねたりも愛を育んだりもしていナイ。赤ちゃん?あ、それ暴走です。
なんなら、先の妄想の未来は私ではナイ、別の人の可能性が出てきた、という感じです。
涙も出ナイ。乾いた笑いしか出ナイ。
そう。それは
あのセバンさんのお茶講義が開始されて5分くらい経ったころ。参入者が現れときに私の恋は終わっていた。
参入者は、閣下の年の離れた弟さんの家庭教師の一人だったという才女で、名前はナーシャさん。現在32歳で独身。中性的な風貌で颯爽とした雰囲気を持つ人で、仕草がさりげなく格好良い。
そんな人が、侯爵家の使用人に案内されてやって来た。
あの日は、私と閣下の顔合わせであり、これから家に入ると言っても私は、まだ客と同じ立場かつ嫁候補だったため、案内してきた使用人はセバンさんに後でこってりと怒られた事だろう。
ナーシャさんは、私を見て少し躊躇った様に見えたけれど、(多分私に向かって)頭を下げた後、閣下に向かい言った。
「侯爵閣下に置かれましては、危急てき速やかに婚姻を結ぶ相手をお探しだと伺い、無礼を承知でご連絡も入れず参りました事、大変申し訳ございません。……ですが、」
ナーシャさんは、顔をあげ閣下を見つめて、
「ですがっ、このナーシャ、閣下の事を以前よりお慕いしておりました!出来るならばお相手として私も立候補させていただきたいのです!」
これぞ告白!
・・・・・・・・・・その目と、顔の綺麗なこと。
恋する女の人はかくも美しいのかと思ったね。
美しい…いや、可愛いもあるな。目元が赤くなってるのが可愛いし庇護欲がそそられるというのか。
ピシッとした印象があったからギャップ萌え。的な~
女の私もドキドキの魅力溢れる表情!
ん?でも付き合い長いであろう閣下やセバンさんの方が、ギャップ感じるんじゃない?
閣下の様子をチラリと視ると、ぽっかーんという感じ。
つぎにセバンさん…貴方も知らんかったのか。めちゃ驚いてるし。
え、知ってた人いないの?さっきの案内人さんは?他の使用人さんとかは?閣下の弟さんは?
ええ~~~?
かくいう私も勿論、ポカンだよ。いろいろとな。
後日聞いた話だが、ナーシャさん、伯爵家の4女らしいが、勉強が好きで家庭教師になった変わり者らしい。
と言うことは血筋は私なんかより極上だ。礼儀作法や知識も言わずもがなである。(一番最初に私なんかに頭を下げたとこ見ると)性格も多分悪くない。
侯爵家には家庭教師で入っていたという信頼関係もしっかりあるし、お互いをよく知ってるって事だし…
そして何よりも、私が人である限り絶対追い付けないもの。それは閣下との歳の差である。
どうあがいても縮めることは出来ない差である。
それにナーシャさんの半分しか生きてない私には、とても彼女のような魅力は出せない。一瞬私も恋する乙女気分になったが、彼女の閣下を見る横顔を見たら、まぁっっっったく及ぶ気がしなかった。
終わった・・・
どこをどうとっても私よりも適任者が現れてしまった。
この地に着いて30分と経たないうちに、私の役目は終無効。お払い箱となってしまった。
その事に悲しみはない。もう私も応援しようそうしよう。ぐらいな気分である。
可愛い恋する女性の告白だよ。応援しないはずがない。不幸な女性を見ることが多かった私だ。
失敗のリスク低い恋路は、きっと楽しいしかない。楽しい恋愛。ナニソレ、めっちゃ見てみたい。
頑張れ!頑張れナーシャさん!
しかし、1つだけ弊害がある。
私を買ったイライム子爵家とライラルド侯爵家との婚約は、既に王陛下によって認可されている。立派な契約であるのだ。
貴族の婚約は私には想像出来ない面倒くささがあるらしく、「やっぱ無しね」は出来ないらしい。
私は元々庶民なので、町に降りる案も出したが、それだと侯爵家は「嫁に逃げられた」家になり、子爵家は「役も果たさず逃げた家」と批判され、いいこと1つも無いとのこと。
また侯爵家は、逃げたくなる程酷い家と言われるかも知れず、それも避けたいらしい。
と言うわけで、曖昧な立ち位置のまま、私は客人として居候させてもらっている。
2週間。気遣わしげな皆さん(勿論、筆頭はライオニア様でセバンさんをはじめとする使用人の方々でナーシャ様も)は、声には出さないが、ライオニア様とナーシャ様の婚姻の方が良いと思っている。
私も勿論そう思う。思うが・・・
16の若い娘が売られるように40以上の相手の婚約者として来た、その日その時その場所で、何となく私は負けた。婚約者としてか、女としてか、人としてか……多分全部で(泣)
別に私は自分を特別不幸だと思わない。食うに困らず意地悪されてるわけでもない。皆どちらか言うと優しい。
だけど。分かっていただけるだろうか?
ふぅーーーーーー
と息を吐くと、隣に座るお婆ちゃんに語りかけた
「もう、殆ど喜劇みたい。だから尚更みんな不憫な子みたいに私を見るのかな?思いっきり笑ってくれた方が、清々するかも」
「そうねえ。ぼっちゃまはお笑いになると本当に愛らしいお子でしたわ」
「婚約の申請は出してもう通っちゃってるし、どうするんだろ」
「うふふ、いえいえぼっちゃまはまだ学校にはお通いになる歳ではありませんよ」
「ナーシャ様も早くご結婚されたいだろうになあ」
「ご結婚は貴族の義務でございます。でも、ぼっちゃまにはまだ早いかしら」
「いえいえ、遅いくらいでしょう」
「ぼっちゃまはまだ10歳ですよ?