告げ口…ではない
「あの、閣下は・・・子しゃ・・・父にどの様に私の事をききましたか?」
「どの様にとは?」
「私は、その・・・」
執事や侍女が気になるが、血を重んじているのがライオニアだけではないなら、聞かれた方が良いのか?と思い続けた
「私は、庶民です。孤児・・・でした。子爵様が身請けしてくれたのです」
「・・・」
「正直、私には跡継ぎなどの重要性が分かっていません。でも腹が必要であっても私のものではいけないのではないですか?あの…卑賤の身なので」
チラリと部屋の隅の方を見てみた。
執事は少し目を伏せて無表情。ううむ?何を考えているのか分からない。
首を傾きかけた時、呆けたようにライオニアが声を出した。
「まさか」
「あっはい?」
「まさか君は、この婚姻の為に身請けをされたのか…?だとしたら、何て人非人な…子爵がそのような人であったとは…」
閣下は驚いているようだが、私は思わず首をかしげた。
「理由はそうだとは思います…けど…」
その続きは声に出せないが、結構なお金を用意してお嫁さんを求めた侯爵家もどっこいどっこいな非道さだ、と思う。
ライオニアは良識的な表現を使ってはいるが、結局私は買われて此処にいるのだし。
にもかかわらず、尊き血を守るためなら私は多分役に立たないであろうと、期待するのだが…
まあ、その問題は置いておいて、誤解を解いておこう。
「えーと、理由はどうあれ、得難い経験をさせていただきましたし、それほど非道い待遇でもありませんでした。お金まで払ってもらってこう言っては閣下に対して失礼かも知れませんが、子爵様…あ…父をどうか許してください」
ペコリとひとつ頭を下げる。
つい癖で子爵様と言ってしまう。まあ暴露したので今さら父と呼ぶ必要はもうないかもな。
子爵様もこんなに早くネタばらしされてるとは思わないだろうけど、1年2ヶ月の宿飯の恩はこのくらいで返そう。別にそこまで憎むほどでも腹に据えかねるほどでもない。ただ、15の娘の純潔を軽くあつかった仕返しも一緒に返せたと思う。うむ、万々歳だ。
「貴方がそう言うのなら私が何かするのは筋違いだろう。分かった、子爵家にはなにもしない。だが今後は関係を持たないようしよう。あと、」
ライオニアは一度言葉をきって咳払いをした。
「えー、婚姻の件だが、君の出生が庶民であろうと、うちは構わない。というか、こんな老いぼれのとこに来てくれたのはドリー、貴方だけだった。こちらがお願いした身なのだし、国にも通達し受理されている。家どうしの正式な婚約だとね」
「そうなのですね」
わたしの淡い期待が砕かれた。しかしある程度覚悟していた。腹をくくろうと、フッと息を短く吐き気合いを入れ閣下を見ると、閣下の耳が赤い事に気づいた。
「なので、あー。んん。わわ、私と、結婚してほしい」
ライオニアは消え入るようだが、確かにそう言いきった。
それを聞いた私に起こった衝撃たるや、教会の鐘を耳をつけて鳴らされたらこんな風になるかもと思ったくらい、頭にゴーンと音が響き、痺れた。
そして、次に頭を占めたのは、
何だ?この人っかっっぅわいいいいいいいいいいいーーーーぃ!
という感情の爆発だった。
目の前に火花が散ったような感覚。さっきまではただのおじさんだったのを、その火花がピカピカ照らしているみたい。
あれ?あれれ?なんかいきなり閣下が渋かっこ良く見えるんだけど?。あれれれ?あれれれれ?ほんのり赤い耳に何かキュンキュンする!
なんだっ?これ?なんだー??
まばたきを早送りで何度繰り返しても、閣下がかっこいい。
何も話せないでいる私に閣下は項垂れて続ける。
「その、すまない…。私はあまりこう言うのに慣れていなくてだな。んん、ごほん。ちゃんと誠意を見せるべきかと思ったが。はは・・・恥ずかしいものだが」
そのはにかみも何か心臓がズキズキすんですけどもっ
しかし落ち着け私。
「すーすー。ふぅーー……」
何をか言わねば、何か……な…何を?
お礼か?お礼!それだ。
「えーっと。す、てきなプロポーズでした!」
「う、うむ」
「胸がいっぱいになりました!」
「そうか」
「有難うございまいます!」
「ああ、そ」
「えっとえっと、素敵で…えっと。」
「それくらいで、もう」
「あっ!もう一度言われたいって思うくらいでしたよっ!かっこ良かったです!」
「~~・・・勘弁してほしい…」
ライオニアは手で顔を覆って、完全に床を向いてしまった。
ええ?恥ずかしいんですか?そうなんですね、スミマセンかわいいです。
「あの、閣下は全然老いぼれて無いですよね?大人の魅力というか、渋さというか。良い味…じゃなくて、雰囲気をお持ちですよ!?私は良いなって思いますよ?」
ああっ顔をあげてくれない。私の嗜虐心をくすぐるのは止めていただきたい。
「それに、それに、えーっと、あ。家の問題も他に押し付けず、自分で泥を被ろうなんて凄いです。あとは、そう!家族にも優しくって人格者だなって思いましたし……」
「セバンっ」
「はい」
元気付けに見せかけた煽りの台詞が、ライオニアの声で遮られた。その声に隅にいた執事が速やかに反応する。
その笑顔よし。
ですよねぇ?ライオニア様からかいたくなりますよねぇ?
「彼女にお茶を。あと、焼き菓子はないか?軽食でもいい」
「はいすぐに」
そう言うとセバンと呼ばれた執事は、部屋にいたもう一人の侍女に何事かを言付け私達が座るテーブルに、ワゴンを押しながら近付いた。
「あの?あの、まだ先のお茶が残ってますし、温かいので」
先に閣下のお茶を、という前にセバンはゆっくり話し出した。
「カミンドル様。」
「は、い?」
「本日は若い奥様がいらっしゃるという事で、私どもも少々張り切ってしまいまして、色んな種類のお茶を準備させていただいたのですよ?」
「ええ!?そんな…何だかすみません」
「いえいえ、準備も今も、とても楽しくさせてもらっておりますので」
そう言ってセバンは本当に楽しそうに笑って、ライオニアと私を交互に見た。
「さて、僭越ながら。その成果を少々披露させていただいても宜しいでしょうか?」
といって、セバンは恭しく一度頭を下げた。
チラリとみたライオニアはなまだ項垂れてるように見えるが、どうやら執事は主人の回復するまでの時間稼ぎを買ってでたようだと判断し、委ねることにした。
度を過ぎて嫌われたくはないもの。
「はい。お願いします。何だか楽しみです」
「では、まず・・・」
そう言ってワゴンの上に並ぶお洒落な絵が描かれた缶を1つ手に取って、セバンさんは説明を始めた。