6.側近のキール
「なんだと⁉ 聖女が魔王と一緒に住むなんて聞いたこと無いぞ! そんなこと出来るわけが無いだろ!」
「あら、そんなこと言える余裕があるのね。言うことを聞かないなら、また吸い込んじゃうけどいいのかしら?」
私が右手を彼の方にかざして念じると、また指輪は光り始めた。それを見た彼は、慌てて後ずさる。
「あぁぁっ! 待て! わかった! わかりましたっ! わかったからその光はやめてくれ!」
念じるのをやめると指輪は輝きを失った。どうやら指輪の力をなんとなくだけどコントロールするコツを掴んだみたい。
「しかしなんで、シエラはこの城に住みたいんだ? 聖女なら王宮にだって暮らせるはずだろう」
「その王宮から追い出されて、行くあてが無いのよ」
私がここに来た経緯を話すと彼は信じられない、といった様子だった。
「王宮の奴らは聖女であるシエラを追放した上に殺そうとしたのか! まったく、何を考えてるんだ……」
まぁ王宮の人達はもちろん、私だって自分が聖女だなんて今の今まで知らなかったんだけどね。
「事情はわかった。そういうことであるなら客人としてシエラを歓迎しよう。好きなだけ滞在するといい」
「ありがとう、ガルトマーシュ!」
「ガルで構わん。皆、俺をガル様と呼ぶからな」
その時、お城の方から何かが羽ばたくような音がして大きな鳥が飛んでくるのが見えた。
いや、違う。あれは翼の生えた人間だ。
真っ赤な髪に天使のような白い翼を持つ青年は、私達の目の前で優雅に着地した。
「ガル様、そろそろ夕食のお時間でございます。城にお戻りくださいませ」
――本当だ、ガル様って呼ばれてる。
「キールか。紹介しよう、俺を封印しに来た聖女のシエラだ」
「聖女っ⁉ なっ……なんと。よくご無事で」
キールと呼ばれた青年は、一瞬、目を見開いたがすぐにまた元の澄ました表情に戻った。
「それで聖女が何用でガル様のところへ? もしガル様に危害を加えるようであれば……」
警戒して身構える彼をガルは片手で制する。
「キールが思っているようなことではない。シエラは、しばらくこの城に客人として滞在する。失礼の無いようにな」
「どういうことでございますか⁉」
「彼女に敵意は無い。俺は聖女と和解したのだ。シエラがこの城に滞在する限り、俺が封印されることは無いだろう」
「か、かしこまりました……」
そう答えると、ガルに向かってうやうやしくお辞儀をした。
「この者は、俺の側仕えをしているキールだ」
側仕え……つまり魔王の側近ということか。凛とした立ち振る舞いなのも頷ける。
「キールさん、シエラと申します。しばらくお世話になりますのでどうぞよろしくお願いいたします」
「…………鳥人族のキールでございます。聖女殿、よろしくお願いいたします」
彼は、胡散臭いものを見るような目で私を見ながら、渋々といった感じで応対した。
まぁ普通に考えたら、いきなり敵対勢力であるはずの人間が客人として滞在することになるなんて、怪しまれても仕方無いかもしれない。
「では俺は一足先に城へ戻らせてもらおう。キール、シエラのことは頼んだぞ」
「仰せのままに」
「じゃあ、シエラ。また後でな」
ガルは軽く微笑むと、マントをバサリと翻し、溶けるように消えた。転移の魔法か何かを使ったのだろう。
彼が消えたと同時に、案の定キールさんは露骨に私に敵対心を見せてきた。
「貴様……どうやってガル様を誑かしたのか知らんが、私は騙されんからな」
「騙すも何も無いんだけどなぁ……」
とりあえず、しばらくここでお世話になろう。
ガルはともかく、キールさんには歓迎されてないけども、それでも森の中を彷徨うよりは絶対良い。
「この指輪が、私の運命を切り開く……本当にそうなるなんて」
指輪はいつもと変わりなく鈍く光を放っている。
でも私の未来は、自分でも思ってもみない方向に転がっていく、そんな気がしていた。