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3.絶対ここから抜け出してやる!

 それから一時間後。私を乗せた馬車はゆっくりと王宮から遠ざかって行った。

 馬車の窓から見える夕陽はとても美しかったが、その美しさを語る相手がいないのが残念だ。


  『シエラ様、どうか幸せになってください』


 涙目で見送ってくれた侍女のメアリーのことを思い出すと、なんとも言えない気もちになる。


「幸せに……か」


 今回の婚約破棄は、表向きは私に非があった扱いにされているらしい。

 まだ具体的にはわからないけど、国を追われるほどなのだから何かしらの酷い罪状をでっちあげられているに違いない。


 いくら名家の出とはいえ、王宮を追放されて経歴に傷がついた私と結婚したい人なんているんだろうか。

 父親もきっと私を持て余すはずだ。もしかしたら修道院に入れられてしまうかもしれない。


 家に居ては都合の悪い貴族の娘が修道女になる話は、私も耳にしたことがある。

 修道院での生活は、事前の寄付金の額で待遇の良し悪しが変わるのだという。

 うちは古くから続く名家なだけで実情は貧しい。

 もし私がそんなことになったら、寄付金が足らずに酷い扱いを受けるに違いない。


 たとえ修道院行きは免れたとしても、誰も嫁ぎたがらないような、条件の悪い縁談をおしつけられてやっかい払いされるのが関の山ではないだろうか。


 いくら考えても、自分が幸せになれる道筋なんて見えなかった。


 ――憂鬱だなぁ。帰りたくないけど、でも他に行くあてもない。

 私はこの先、どうやって生きていけばいいんだろう。


 そんなことを思いながら窓の外を見ているうちに、馬車がどんどん森の中へ入っていくことに気付いた。

 この国の街道は整備されていて安全だが、そこを外れると途端に治安が悪くなるので普通は何か特別な事情でもない限り、そこを通ることは無い。


 それに「森には恐ろしい魔王が魔物達と住んでいて、迷い込めば命は無い」なんて噂も聞く。

 実際に、森で魔物を見たという報告が王宮にも届いていたはずだ。

 それなのにこの馬車は道を外れて、どんどん森の奥へと進んでいた。明らかにおかしい。


 私は御者(ぎょしゃ)に声をかけた。


「あの、道を間違っているのではありませんか?」


 ヒゲを生やした御者はこっちをちらりと見ると、森の中で馬車を止めて、ここで降りるように言った。なにがあったのだろう。


 不審に思いつつも馬車を降りると、最低限の身の回りの物が入った鞄をいきなり持たされた。


「これはどういうことですか⁉ 私をノイシュタール家に送り届けてくれるのではなかったのですか⁉」


 問い詰めると、御者は少しためらいながらも口を開いた。


「シエラ様…………実は、ワシはあんたを森の中で殺すように言われておるんじゃ」


「殺す……」


 まったく想像していなかった言葉に、背筋が寒くなる。

 無意識に後ずさった私に、御者は硬い表情のまま手にしている馬用の鞭を握り締めた。


「しかし、ワシには若い娘さんをこの手にかけるなんてことはできん……だが、言いつけに背くこともできん。だから、ここにアンタを置いて行く。本当に申し訳ない」


「そんな! お願い、家に帰して!」


「すまん。こんな魔王が居るかもしれん恐ろしい森に置き去りにする時点で、殺したも同然じゃが……シエラ様、どうか恨まんでくだされ」


 御者はそう言って再び御者台に乗ると、私を置いて馬車を走らせようとした。

 私はそれを必死で呼び止める。


「待って、こんな酷いことをいったい誰が⁉」


「王子様のご命令だ」


 残酷な言葉を残して、馬車は私を薄暗い森の中に残して消えて行った。

 そろそろ日が暮れる。

 夜になって辺りが闇に包まれれば、完全に何も見えなくなってしまうだろう。

 その前に森を抜け出さなくては。

 私は地面に残る馬車の車輪の跡を辿りながら走り始めた。


 ――王子様のご命令だ。


 走りながら先ほどの御者の言葉を思い出す。

 まさかエドワード王子が私を暗殺しようと考えていたなんて。

 婚約破棄の真相と彼の醜い本性を知る私を殺してしまえば、何の心配も無くマリアンヌと結婚できるということだろう。


「どこまでも腐ってる(ヤツ)ね……」


 そんな卑怯な男を婚約者として慕っていた自分が悔しい。

 この場にエドワード王子が居るなら、張り手のひとつでもお見舞いして、なんなら思いっきり股間を蹴り飛ばしてやるんだけど。


「絶対ここから抜け出してやる!」

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