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17.ガルの変化

 魔王の城で暮らすようになって二週間が経った。


「シエラ様、手伝わせてしまってすみません」


 たくさんの洗濯物を抱えた、猫のような顔をしたメイド服姿の獣人が声をかけてくる。――えっと確か、この人はミーティアさんだったわね。

 積極的に会話するように意識したおかげで、城の住民たちの顔と名前は覚えることができた。


「いいのよ。じっと座っているだけなんて性に合わないし。何かしている方が気が楽だから」


 私は、洗濯物を干しながらそう答える。


 特に何かするように命じられたわけじゃないけど、お客様で居るつもりはなかったので、人手が足りなさそうなところを見つけて雑用を手伝うようにしていた。


「シエラ、遊ぼう」


 小さな角の生えた子鬼たちがボールを持って寄ってきた。この子たちは、確か……トトとアルルと……脳内で順番に彼らの名前を思い出していく。うん、全員ちゃんと覚えられてる。


「まだお仕事中だから、後でね……あぁそうだ! あなた達も手伝って。そうすれば早く遊べるから」


 えー、と渋る子鬼たちに手伝わせて、洗濯物を干していく。


「すっかりうちの城に馴染んだようだな、シエラ」


「あら、ガル。あなたもお洗濯を手伝ってくれるの?」


「いやいや、俺は通りがかっただけだから! 魔王に洗濯物干させるとか聞いたことねぇし!」


「いいじゃない、一枚くらい手伝いなさいよ」


 私達の会話に子鬼たちがクスクスと笑う。


「はい、ガル様! お手伝い!」


 子鬼が差し出した洗濯物を、ガルはちょっと困った顔をしながらも受け取る。


「俺やったこと無いんだけど。これ、どうすりゃいいんだ?」


「簡単よ。引っ張ってしわを伸ばして、ここにぶら下げればいいだけだから」


 私が洗い立ての服をバサリと広げて、左右を引っ張りながら軽く振ってみせると、彼も同じようにやろうとした。


「なるほど……こうすればいいんだな」


 バサバサッ! パンッ……ビリッ!


「あっ」


 私と同じように引っ張って広げただけに見えたのに、なぜか服が裂けてしまった。


「えっ、ちょっとガルったら力強すぎでしょ」


 完全に予想外の出来事に思わず笑ってしまう。子鬼達もつられて笑っている。


「すまない……」


 ガルも恥ずかしそうに眉を下げてへにゃりと笑った。


「きっと縫えば何とかなると思う。ベティさんに針と糸を借りてくるね」


 私はガル達にそう言い残して、ベティさんのところへ行った。

 事情を説明すると裁縫道具を持って一緒に来てくれることになったので、再び洗濯物干し場へと戻ると、そこは子ども達の遊び場に変わっていた。


「よーし、次は誰だ?」


「はいはーい! 僕!」


「それっ!」


 手を上げた子鬼をガルが両手で抱え上げ、空中で左右に振り回している。

 子鬼は振り回される感覚が楽しいのか、うれしそうにキャッキャと声を上げた。


「あらまぁ……ガル様ったら。ずいぶんいい表情をされるようになったわねぇ」


 その光景を見て、ベティさんがつぶやく。

 私から見ると彼はいつもと変わりないように見えるけど、違うんだろうか。


「以前はもっと魔王らしくあろうと硬い表情なことが多かったけども。シエラちゃんが来てからは、良い意味で肩の力が抜けたように見えるわねぇ。少なくとも、あぁやって子どもと遊んだりすることは無かったわ」


 私が来たことで、彼の中で何か変化があったんだろうか。

 もし良い方向に変わったのならうれしい。



 そして、魔王の城で暮らすようになって三ヶ月が経った。


 城の皆の雑用を手伝いながら、たまにガルからお茶のお誘いを受けたり、ハッピーや子鬼達と遊んだり、穏やかに日々は過ぎていた。


 このまま楽しい時間がずっと続けばいいと思っていたのに――。



「火を消せ! 早く! 急げ!」


「あっちに怪我人が居るぞ! 救助してやってくれ!」


 ある日の早朝。騒々しい声に目を覚まして、窓の外を見ると普段は瑞々しい緑を見せているはずの森が、なぜか煙と炎に包まれていた。


 私は着替える余裕もなく、上着だけ羽織って部屋を飛び出した。何があったのだろう。

 広間に行くと、ガルとキールさんの姿があった。


「ガル様、王国軍が森に火を放ちました」


「王国軍が⁉ 皆は無事なのか⁉」


「それが、ちょうど採取に森へ出かけた者たちがいまして……全力で救助にあたっていますが火の勢いが強くて難航しております」


 キールさんは状況を把握する為に黒煙の中を飛んだのだろう。普段は真っ白なはずの翼が煤で黒く汚れている。


「俺も現場に向かう、キールは皆の避難と消火を指揮しろ!」


「はっ!」


 二人が外に出て行くので、私も慌てて後を追った。

 外に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

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