14.ガルとアリスの関係
「アリスさん、シエラ・ノイシュタールと申します。よろしくお願いいたします」
近くでじっくり見るとアリステアさんは気品のある端整な顔立ちをしていた。
銀髪が陽光を浴びてキラキラと輝き、銀色の長いまつ毛に覆われた瞳は、泉の水面のように青く神秘的で上品だ。
想像とはまったく違ったけど、普通の人間では無いような浮世離れした感じがする。
「よろしく、シエラ嬢。あぁ白い手が可愛いねぇ」
「えっ、ありがとうございます……」
「可愛すぎて今すぐキミを食べてしまいたいくらいだよ。君の愛らしさには美の女神も嫉妬するに違いない。今すぐにでもこのまま連れ去ってしまいたいが、まずは清らかな水でこの出会いに乾杯しようじゃないか!」
「おい、さっきまで祝福する気だったのに、なに口説いてんだ。方向転換早すぎるだろ」
まるで演劇の台本のごとく流暢にくどき文句を並べるアリステアさんを、けん制するかのようにガルが睨んだ。
「いやぁ、だって紹介するって言うから」
「そういう意味じゃねぇよ!」
ガルが怒鳴りつけても彼は涼しい顔でニコニコしている。
なんとも不思議な関係だ。でもそこに流れる空気は険悪ではない。
「お二人は仲が良いんですね」
「おや、わかるかね。これでもガルトマーシュ君のことは、彼が幼い頃から知っているのだよ」
「そうなんですか」
アリステアさんは見た目はガルと同年代に見えるが、精霊だし実はもっと年齢が上なのかもしれない。
そう考えると、この人を食ったような態度もなんとなくしっくりくるように思えた。
「しかしガルトマーシュ君、最近は飛竜にも上手く乗れるようになったんだねぇ。いやぁ成長したもんだ。そういえば昔、彼が飛竜に振り落とされてこの泉に落っこちてきた時は傑作だったなぁ」
「おい、アリス! それは……」
「落っこちた彼が、私を見つけて“助けてくれ~!”って涙目で必死でもがいてるんだけど、どう見ても溺れるほど深くないんだよねぇ、ここ」
「ふふっ、可愛い」
アリステアさんの淡々としつつも愛嬌のある話し方に思わず笑ってしまう。
ガルにとっては知られたくないエピソードだったのか、彼は顔を真っ赤にして、あさっての方向を向いていた。
「――まぁ、そんなわけで彼と私は親友なんだよ。どうか私とも仲良くしてくれたまえ」
「はい、よろしくお願いします」
「シエラ。用が済んだから帰るぞ!」
「えっ、もう帰るの?」
まだ来たばかりなのに、ガルが私の手を引いて飛竜のグラスの方に戻ろうとする。
「なんだ、ゆっくりしていけばいいのに。せっかくシエラ嬢にもっとキミの面白エピソードを聞かせてあげようと――」
「だから、それが嫌なんだって!」
「それは残念だねぇ。あぁ、シエラ嬢。私は普段この泉に居るからぜひまた遊びに来てくれたまえ。君のような可愛い女性ならいつでも歓迎だから」
「ありがとうございます、また面白いお話し聞かせてくださいませ」
「任せたまえ。次までにガルトマーシュ君の傑作エピソードを厳選しておこうじゃないか!」
「やれやれ……」
自信たっぷりに答えるアリステアさんを見て、ガルが呆れた表情をしたので笑ってしまった。
私たちはアリステアさんに礼をのべ、再び飛竜の背に乗った。
水の精霊なんていうからどんな人なのかと思ったら、ずいぶん気さくでびっくりだったなぁ。
「さぁ、グラス。ライムのところへ帰ろうか」
ガルがそう言うと、グラスは尻尾を振ってクオォォォォンと鳴くと、再び大きく翼を広げた。
飛竜の小屋に戻ってガルが手綱を外すと、グラスは真っ直ぐに小屋の中に戻って行った。
小屋を覗いてみると、グラスがライムに頬ずりして甘えているのが見える。
その光景はとても仲が良さそうで微笑ましいものだった。
「グラスとライムは、つがいなんだ。来年には子どもが生まれるかもなぁって、皆も楽しみにしてるんだよ」
「飛竜の赤ちゃん、きっと可愛いでしょうね。楽しみだわ」
「あぁ、そうだな。――さて、今度は城下町を案内するよ。さっき城からも見えたと思うが、すぐそこだから」
私たちは城下町の方に向かって歩き出した。




