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1.婚約破棄

 私はこの人と結婚して、ゆくゆくは王妃になるんだと思っていたのに。

 ――その未来は、突然の婚約破棄の通告にあっさりと打ち砕かれた。


「エドワード様、どういうことですか?」


「どういうことも何も、話した通りだよ。シエラ、キミとの婚約は無かったことにしたい。僕はマリアンヌと結婚する」


 この国の王子であり私の婚約者であるエドワードは、目の前で華やかなドレスに身をまとったマリアンヌの肩を抱いた。


「シエラさん、ご報告するのが遅くなってごめんなさいね。迷ったんですけどもエドワード様と国王様がどうしてもと仰ったから……」


 彼女は勝ち誇った表情をしながら、口先だけの謝罪を述べる。


「どうしてマリアンヌを……?」


「魔王の復活が噂される今、それに対抗できる力を持つ聖女のマリアンヌを妃に迎えた方が国益になると父上が判断されたのだ」


 マリアンヌは私と同様に貴族の令嬢だ。

 彼女には教会の後ろ盾があり「魔王を封印する力のある聖女の再来」として最近評判が上がっていて民衆にも支持され始めていた。


 この国はずっと魔王や魔族の脅威に晒されてきた歴史がある。

 たしかに単に家柄だけが良いだけの私より、聖女である彼女の方が王妃に相応しいのかもしれない。


 だが、それにしてもあまりにも急な上に、横暴な話ではないだろうか。

 婚約が成立した五年前から今まで、私は未来のお妃として王宮で暮らしてきたのに。

 納得がいかない様子の私の顔を見て、エドワード王子は意地悪くニヤリと口角を上げた。


「もし、シエラが婚約破棄に応じないというのなら、結納金や今までキミの実家に援助してきた大金を返還してもらうということも視野に入れねばならないなぁ~」


 いったい何千万ゴールドになるだろうねぇ、と彼は白々しくつぶやいた。


 私の実家であるノイシュタール家は格式こそ高いが、お世辞にも裕福とは言いがたい状況だった。

 元々さほど収入が多かったわけではない上に母親が重い病を患い、その治療に莫大な費用がかかったからだ。

 結局、母親は治療の甲斐なく亡くなり、我が家には負債だけが残った。


 すっかり没落した名前だけの貴族ではあったが、王家の支援の下でこれまで何とか維持してきたのだ。

 王子と私の婚約が決まった時の、父親の安心した顔が思い出される。

 そんな状況なのに、結納金や援助金の返還なんてことになったらノイシュタール家は破産してしまうだろう。

 それがどれだけの人に影響を及ぼすか、想像するだけで頭が痛くなりそうだ。


「…………わかりました」


 その一言を喉から搾り出すのがやっとだった。

 どうせ国王の決めたことなのだから、私に拒否権など無いのだ。


 エドワード王子はさらに容赦なく、私に追い討ちをかけた。


「世間的には、シエラに非があったから破棄することになったと公表するから。そのつもりでいてくれたまえ」


「私に何の(とが)があると言うのですか!」


「内容なんてどうでもいいさ。シエラに非があったから王宮を出て行くということになれば、国民もマリアンヌとの結婚に納得するだろうし」


 王子は露骨にめんどくさい、とでも言うような表情をした。


「いいかい? シエラが婚約破棄を受け入れてくれさえすれば、すべては丸く収まるんだよ。馬車はこっちで用意しておくから、わかったら早く荷造りをしたまえ」


 あまりの言い草に、涙すら流れなかった。

 これが夫になるはずだった人の本性だったのかと思うとゾッとする。

 初めて会った時に優しく微笑みかけてくれていた彼はもう居ないのだ。そこに居る男は醜くゆがんだ表情をしながら、邪魔な私を追い出すことしか考えていない。


「……わかりました。今までお世話になりました」


 すべてを諦めた私は深くお辞儀をした後、重い足取りで自室へ引き返した。

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