時戻りの逆転人生で、初恋のやり直しを -04-
教会に着くと、アケーシャとミモザは礼拝堂の中に入り、二人でお祈りを捧げた。
「神様、10歳になりました。またやり直しの機会を与えてくださりありがとうございます。どうか、祠の神様にお伝えください」
「祠の神様?」
ミモザの言葉にアケーシャは首を傾げる。
「そうよ。実は私ね、祠の神様にお願い事を叶えてもらったの。一度目の人生は大切な記憶を覚えていたいって。二度目はエイデンのことをよろしくって、三度目は、……ミモザ様の願い事を叶えてあげてほしいってお願いしたの」
ふふっと照れながらミモザが言った。
一方のアケーシャは、三度目の人生のお願い事が自分のための願いだったことに驚きを隠せない。
「それならやっぱり、わたしたちが入れ替わったのは、わたしのせいです。わたし、三度目の人生で空が光った時、アケーシャ様になりたいって願ってしまったんです」
「私になりたいって、どうして? 自分で言うのもなんだけど、他人から見たらあまり良いとは言えない人生を送ってきたと思うわよ?」
婚約破棄され、斬首され、やり直したと思ったら、婚約解消されて、毒殺される。
どう考えてもこんな人生誰も望まないだろう、と納得のいかないミモザは異議を唱える。
「だって、王太子様の隣に並びたいって思っちゃったんだもの」
しゅんとするアケーシャを見て、ミモザはようやく納得する。
(やっぱり、三度目の人生でも王太子殿下のことが好きだったのね。それなのに、私のために身を引いてくれたんだわ)
「私に申し訳ないと思って、入れ替わったことを悔やむ必要はないわよ。私もね、ミモザ様になりたいってずっと思っていたのだから」
「えっ? どうしてですか?」
「ふふ、秘密!」
「ずるいです!!」
教えてくださいよ、とミモザの脇腹を突く。礼拝堂の中に笑い声が響く。
「私ね、とても心配だったの。私がミモザ様の人生を奪ってしまったのかなって。私の中には、昨日までのミモザ様の記憶があるの。それなのに、突然私になった。それならミモザ様はどうなってしまったの? って。あなたに会うまで本当に不安だった。でもアケーシャの身体の中にミモザ様がいるのが分かってとても安心したわ。少なくとも生きていてくれて良かった」
「わたしも、アケーシャ様の身体で、昨日までのアケーシャ様の記憶があるのに、でもわたしなの。またアケーシャ様の全てを奪ってしまったんだって。だけどミモザの中にアケーシャ様がいてくれて、笑っていてくれて嬉しかったです。わたしになりたかったって言ってくれて嬉しい……」
少しだけ照れながら、お互いに目を合わせて微笑みあった。
「私たちは身体を、これからの人生を奪い合ったわけじゃなくて、交換したのね」
「はい! 少なくともわたしは後悔していません」
「私もよ。ミモザ様になれたおかげで、素直になれば、今度こそは本当の意味で幸せになることができるんだもの」
その言葉に、ミモザが自分になりたかったと言った理由が分かった。
「……もしかして、エイデン様?」
ミモザはふわりと笑った。
素直に感情を表に出せるミモザが羨ましかったのもあるけれど、何よりも、彼に想いを告げられるようになったのだから。
「神様、私をミモザ様にしてくださり、ありがとうございます。今度こそ必ず幸せになります」
「神様、わたしもアケーシャ様にしてくれてありがとうございます。わたしも必ず幸せになってみせます!」
お祈りを終え二人が礼拝堂から出ようとした時、突然アケーシャが笑い出した。
「ふふ、今日もおばあちゃんが寝てるわ」
「おばあちゃん?」
「ほら、あの隅っこにいるおばあちゃんです。ここに来ると必ずあそこで寝てるんですよ」
アケーシャの言葉に、ミモザは顔を顰める。
「ねえ、アケーシャ、あそこには誰もいないわよ?」
「……えぇっ!?」
ただ、長椅子が置いてあるだけ。ミモザの言葉にアケーシャは目を見開かせ驚いた。目を擦り、もう一度見る。間違いなく老婆は長椅子に座って眠っている。
ミモザには見えない、だけど、アケーシャには老婆の姿が見える。ということは、
「え? じゃあ、あのおばあちゃんは幽霊? アケーシャ様っ、助けてください!!」
一気に青褪めたアケーシャは、ミモザの後ろに隠れた。
「……いや、アケーシャ様って言われても、アケーシャは今あなただからね。それにここは教会だから、きっと悪い幽霊ではないはずよ。とりあえず、一緒に拝んでおきましょう」
二人は老婆に向かい拝んだ。そして逃げるように教会を後にした。
「ふうっ、安心したらわたし、お腹が空きました……」
起きてすぐに飛び出してきたから、朝食も食べて来なかった。
「ふふ、それならこれから一緒に食べに行きましょう」
二人は教会の近くの飲食店で食事をすることにした。
「誕生日のお祝いだと思って好きなだけ食べてくださいね……って言っても、今までのアケーシャ様が貯めていたお金ですけど」
「ふふ、ありがとう。遠慮なくいただきます」
そして、他愛のない話をしながら、遂にミモザは今朝のことをアケーシャに話した。
「今朝ね、お母様に養子の話を切り出されたわ」
「え? お母ちゃんから? もう? 今までは明日の夜だったのに」
「私、お母ちゃんって呼ばずにお母様って呼んでしまったの。そしたら、男爵家に養子に行く心構えをしているのだと勘違いされたみたいだわ。養子、だったのね。知らなかったわ」
「まあ、お母ちゃんがわたしのために選んでくれた道ですから。あ、スコット男爵家のお父様とお母様もとっても優しい人たちだから、わたしはとっても幸せでしたよ」
その言葉に嘘はないことは分かった。だけど、寂しくないわけがない。
「でも、お母様とは望めば会えるのよね?」
アケーシャは首を左右に振った。
「わたしが養子に出た後、どうしてなのかすぐに音信不通になるんです。どの人生でもそれは同じでした。どんなに探してもお母ちゃんは見つからないんです」
「そう……」
「実は一度目の人生で、お母ちゃんに会いたいって泣いて頼んだことがあったんです。そしたらすごく悲しい顔をさせちゃって、とても後悔しました。わたしたちくらいの娘さんを亡くしてしまったらしく、わたしまでいなくなっちゃうんじゃないかって不安みたいなんです。だから、養子に行っても、お母ちゃんのことは話題に出さないで欲しいんです」
勝手なことをお願いしてごめんなさい、とアケーシャは謝る。だけど、その表情は今にも泣き出しそうだった。
(本当は、ずっとお母様と一緒にいたいのね)
スコット男爵夫妻の過去の辛い話は理解できた。だけど、あまりにも寂しそうなその表情に、本当にこのままでいいのかと、頭を悩ませる。
「私じゃなくても、アケーシャとお母様が繋がりを持てたらいいのだけど……あっ!」
そこでミモザが思い出したのは、あれほど苦しめられた淑女の嗜みと刺繍のハンカチだった。
「私にとってもいい考えがあるわ!」




