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時戻りの二人の友情と隠された恋心 -07-

「ミモザ嬢、お願いがある。一度俺の母上に、王妃に会ってくれないか?」


 三年生も半ばを過ぎた頃、アケーシャに協力を得られないと分かったダニエルは、強硬手段に出る決意を固めた。


「申し訳ありませんが、お断りさせてください。わたしには畏れ多いことですし、会わなければならない理由がありません」


(二度目の人生と同じだ。きっと身体を見せろってことだよね? 一体わたしの身体を見て、何が分かるって言うの?)


 絶対に頷いてはいけないことは分かっている。だから、全力で拒否した。


「頼む。一度だけでいいから……」

「申し訳ありません」


 絶対に頷かない。


「ミモザ嬢が、俺をあの崩落事故から助けてくれたんだろう?」

「……何のことだかさっぱり分かりません」

「どうして嘘をつくんだ? あの時、俺に口移しで薬を飲ませてくれただろう? 俺は、初めてキスをした相手じゃないとだめなんだ……」


 トクンと胸が高鳴ってしまった。この人生のダニエルも、初めてのキスの思い出を、大切にしてくれていることを知り、涙が零れそうになった。


(だめ、絶対にだめ、なんだから……)


 スカートをぎゅっと握りしめて、言葉を放った。


「わたしには、そのようなことをした記憶がありません。誰かとお間違いになられてるのではありませんか? お話の途中ですが、失礼します」


 初めてのキスの思い出を、なかったことにしてしまった。


(ごめんなさい。“ダニエル様”ごめんなさい……)


 涙が抑えきれなくなり、慌ててその場を立ち去った。



 それでも、ダニエルは諦めなかった。何度も、何度も、ミモザが一人の時を見計らっては、ミモザに願い出た。


「お願いだ、一度だけで構わない」

「何度来られても、わたしは絶対にお断りさせていただきます。それに、もうやめてください。王太子様には、アケーシャ様という素敵な婚約者がいらっしゃるではありませんか。わたし、アケーシャ様を悲しませることは絶対にしないと、初めに言ったじゃないですか!」


 ミモザはもう限界を感じていた。そろそろ手段を選ばなくなるのではないか、と思い始めていた。だから、


(わたしももう、覚悟を決めなくては……)


「俺は、ミモザ嬢じゃないとだめなんだ。他の人では、だめなんだ……」


 ダニエルの悲痛の訴えに、心がズキンと痛む。唇を噛み締めて、そして、告げる。真っ直ぐに、ダニエルを見つめて。


「わたし、お付き合いしてる方がいます。今度その方と結婚することになりました。お腹には赤ちゃんがいるかもしれません。だから、王太子様のご希望に沿うことは絶対にできません」


 そして、一礼をして、ミモザはその場を立ち去った。


 最後に、その金色の瞳に自分が映っているのを目に焼き付けた。

 ただ、その金色の瞳は、弧を描かない。丸く見開き、そして、絶望を映し出していた。



 本当は言うつもりはなかった。卒業までずっと、ダニエルとアケーシャと三人で会う関係を続けられるのなら、それが良かった。


 きっとアケーシャのことも祝福できた。王太子妃になるために努力をしているアケーシャを、近くで見てきたから。


 だけど、もう無理だと悟った。


(アケーシャ様にも言おう。お父様とお母様にもきちんとお話をしなくちゃ)


 それからすぐに、アケーシャに打ち明けた。


「アケーシャ様、来週からわたし、学園をお休みします」

「えっ、突然どうなされたのですか?」

「わたし、結婚することになりました。もしかしたら、お腹に赤ちゃんがいるかもしれないんです」

「!?」


 もちろん最初は驚いた。だけど、ふわりと微笑んで、祝福した。それが、ミモザの選んだ道だから。


「おめでとう、もしかして、お付き合いしていると言っていた方と?」

「はい。スコット男爵家に養子に入った時から、ずっと良くしてもらっていて、乗馬も彼から教わっていたんです。年上の伯爵様なんですけど、スティーブン伯爵という方で、本当に優しくて格好良い方なんですよ」

「伯爵、様? ずっとディーマかと思ってたわ」

「ふふ、ディーマさんとももちろん仲良しですよ。恋のお話もいっぱいしましたから」

「恋のお話、私にも、して欲しかったわ……」


 しょんぼりとするアケーシャを見て、アケーシャと、恋の話をしているところを想像したミモザは思う。


(伯爵様とのお話は確かにできる。だけど、盛り上がって、過去の恋のお話になってしまったら、それは絶対に無理!)


「いや、何となく、アケーシャ様と恋のお話はし辛いですよ」

「何となく、察したわ。ふふ、ミモザ様、本当におめでとう。ミモザ様が選んだ道を、私も応援するわ」


 相手のことは、アケーシャでも名前だけは聞いたことがあった。


 女性関係で変な噂など全くない、紳士的な男性だと。馬術も嗜んでおり、ディーマとも面識があると知っていた。


「だから、ミモザ様は馬術を嗜んでいたのね」


 ミモザは笑顔で頷いた。


「……本当にいいの?」


 それでもアケーシャは、本当はミモザがダニエルのことが忘れられないでいることくらい気付いている。


 どんな時でも、いつもダニエルのことを探していたことも。


「もちろんです! 一緒に幸せになりましょう! それにね、伯爵様はわたしの好きなことをさせてくれるって言ってくれてるんです。思う存分大好きな刺繍ができるんですよ、最高じゃないですか!!」

「ふふ、ミモザ様らしいわ」


 それから、ミモザの噂は瞬く間に学園中に広がった。もちろんアケーシャは、一言も誰にも言っていない。


 噂が広まってしまったことを知ったダニエルは、ミモザを婚約者に迎えることはできないと、とうとう諦めた。


 仮にこの噂が嘘だとしても、噂が広がってしまった以上は、王太子妃として迎えることなど、許されることではないから。





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