時戻りの二人の友情と隠された恋心 -05-
「ディーマさーん!」
「ミモザちゃん、いらっしゃい」
今日もまた、ミモザはヴァンガード公爵邸に遊びにきた。
ディーマととても仲が良い。初めてヴァンガード公爵邸に遊びにきた時に、アケーシャに厩を見たいとお願いし、ディーマが案内してくれたことがきっかけだ。
(まさか、二人が!? ミモザ様も乗馬を嗜んでいたというから、実は以前から会っていたのかしら? それで……)
「ねえ、ディーマさん、今度みんなで遠乗りに行きませんか?」
「いいですね。とても美しい場所を知っているので、今度そちらに行ってみますか?」
「ぜひ! 嬉しいです!! 絶対に、約束ですよ!」
アケーシャを他所に、どんどん話を進める二人を見て、アケーシャは決心した。
(もしそうなら、本当にミモザ様の意志は強いのね。それなら私も心から応援してあげましょう)
そんなアケーシャも、少しでもダニエルに好まれるように、苦手だったことにも挑戦し始めた。刺繍だ。でも、刺繍だけは苦手らしい。
始まって直ぐにアケーシャは音をあげる。そこへタイミング悪く、アケーシャの母アイリーンが二人のもとへとやってきた。
「アケーシャ、淑女の嗜みなのだから、もっと頑張りなさい」
「……はい」
「ミモザちゃんは、とてもお上手ね。誰か先生に習ったのかしら?」
褒められて嬉しくなったミモザは、いつも大切に持っている刺繍のハンカチをアイリーンに披露した。
「この刺繍のハンカチをくれた先生に教わったんです」
「まあ、素敵! このような繊細で綺麗な刺繍は生まれて初めて見たわ! 私もこの先生に師事を仰ぎたいわ。どなたなの? 紹介してくださらない?」
アイリーンは一目見て、ハンカチの刺繍の美しさに感嘆の声を上げた。しかし、その言葉に肩を落としたのはミモザだった。
「実は、数年前に連絡が取れなくなってしまったんです」
「あら、そうなの? それは残念ね。もし連絡がついた時には、私にも紹介してね」
(お母様は、本当にこの刺繍に惚れ込んだのね。確かに美しいわ)
アケーシャは、自分の刺繍と比べてみた。比べるのさえ申し訳なくなってしまい、すぐに自分の刺繍を目の届かぬところへと隠した。
「失礼します。姉様、少しよろしいですか?」
「あら、エイデン。何かしら?」
「あ、すみません、お友達がいらっしゃっていたのですね」
「もしかして、エイデンはミモザ様とお会いするのは初めてだったの? 紹介するわね……って、ミモザ様、大丈夫ですか!?」
ミモザを見て驚いた。表情は青褪め、小刻みに震えていたのだから。
「だい、じょうぶです。少しだけ休めば」
「お水を持って参ります」
エイデンは水を持ってくるために部屋を出て行った。そして、ようやくミモザも落ち着きを取り戻す。
「すみません、アケーシャ様」
「本当に大丈夫なの?」
「はい。お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません」
えへへ、と愛想笑いをするミモザに気付き、アケーシャは核心に迫る。
「ミモザ様、前の人生でエイデンと何かあったんですか?」
「えっ……」
それは、アケーシャが感じた、前の人生のエイデンが幸せになれなかった気がした理由。それを今、はっきりと感じた。
「二度目の人生で、ミモザ様が私のことを探しているのは知っていました。でも、私はわざと逃げていました」
「はい。知ってます」
改めて言われて、ミモザは少しだけ悲しくなった。
「だけど、図書館には、エイデンと一緒にいる時だけは、絶対に来ませんでした」
「……」
(もし、私が死んだ後、エイデンならきっと……)
そんなこと考えたくなかった。だけど、今度の人生でもそうならないために、知っておかなければならない。
「もしかして、ミモザ様も、やり直す時に殺されてるのではないですか? それも、エイデンに……」
「……はい」
核心を突かれ、誤魔化すことができなかった。
(エイデンは、やっぱり幸せになれなかったのね……)
「ごめんなさい……」
涙ながらに、ミモザに謝った。
「どうしてアケーシャ様が謝るんですか!! 元はと言えばわたしが悪いんですから」
「いいえ、だって、エイデンは……」
きっと、私のことが特別だったから。だけど言えない。だからせめて、エイデンの代わりに償いたい。
「もし、私やエイデンのせいで王太子殿下のことを諦めるのなら、それはやめて」
ミモザとダニエルが結ばれなければ、国が滅んでしまうかもしれないから。
「私だったら、今度は国外にでも逃げるわ」
自分が生きてさえいれば、エイデンはきっと復讐は望まない。修道院に入った時には、未来を願う手紙が届いていたのだから。
そのために、語学も勉強し始めた。ミモザ付きの侍女も考えたけど、婿を取れと言われてしまったら、エイデンの居場所がなくなってしまうから。
「いえ、わたしは決めたんです。好きな人だっているんです」
「それって、ディーマのこと?」
「え? ディーマさん?」
ミモザはキョトンとした顔で首を傾げた。その姿を見て、アケーシャが驚く。
「え? 違うの?」
「えへへ、アケーシャ様には、まだ秘密です。でも、本当に今度はその人と結婚する予定でいます。それに、アケーシャ様がせっかく王太子様のために努力しているんだから、報われてくれなきゃ!」
「知ってらしたの?」
「だって、あれだけ嫌いだった刺繍をやるほどですよ? 刺繍ができるからって、いい気になってるんじゃないわよーって叫ぶ人が、刺繍を頑張ってるんですよ」
ふふっと笑いながら、ミモザは一度目の人生のことを言い始めた。
「もうそれは忘れてほしいわ。なかったことにはできないと思うけど。あの時のことは、本当に申し訳ないと思ってるわ」
「アケーシャ様、真っ赤になって可愛いです。きっと、王太子様もアケーシャ様のことをよく知れば、うまくいくと思うんです。わたし、アケーシャ様に幸せになって欲しいんです。だから、絶対に、王太子妃になってくださいね」
ミモザは真っ直ぐにアケーシャに願った。その眼差しに、アケーシャはこくりと頷いた。




