時戻りの二人の友情と隠された恋心 -03-
「ミモザ様は、いらっしゃいますか?」
(やっぱり来た……)
「はい、わたしですが」
ミモザは入学式の昼休みの出来事も、もちろん忘れてはいない。ダニエルの側近の男性が、教室まで呼びに来ること。
「王太子殿下がお呼びです。中庭にいらしてください」
「申し訳ありませんが、わたし、アケーシャ様と約束があるんです。あ、アケーシャ様!」
そこへ、アケーシャが来てくれた。事前にお昼休みになったらC組まで来て欲しい、と伝えていたから。
図々しいお願いにも関わらず、他のクラスにも行ってみたかった、と言って快く了承してくれていた。
「ミモザ様、お待たせして申し訳ありません」
「いえ、わたしこそわざわざ来ていただいてすみません。……と言うことで、無理です」
「いや、しかし」
ミモザの拒絶に、側近の男性も戸惑いを見せる。
「あら? マイケル様、こんにちは。C組までいらっしゃるなんて、どうなさったのですか?」
「こんにちは、アケーシャ様」
「もしかして、ミモザ様に?」
もちろんアケーシャも、この男性がダニエルの側近だと知っている。
すぐにダニエルからの誘いだと察したアケーシャがミモザを見ると、首を左右に振っている。
(もしかして、お会いしたくないの?)
「マイケル様、私たちは久しぶりにお会いできて、とても嬉しいんです。だから、ご遠慮していただくようにお伝えしていただいてもよろしいでしょうか? それとも、私もミモザ様とご一緒に、王太子殿下のところへお伺いいたしましょうか?」
「いえ、殿下にお伝えいたします。失礼します」
(やっぱり、私がいては、不都合な内容なのね。まあ、入学初日の中庭というと、あれですものね)
公衆の面前での熱烈アプローチ。さすがに婚約者のアケーシャの前で、やるわけにはいかない。
二人は持参したお弁当を、空き教室で食べることにした。
ミモザのクラスが入っている校舎は、空き教室を使い、持参したお弁当を食べても良いことになっている。
三度目の人生のミモザは、人気のない教室も把握済みだ。一度目の人生で、虐めから逃れるために、たびたび利用していたから。
「先ほどはありがとうございました。アケーシャ様のおかげで本当に助かりました」
「ねえ、ミモザ様、どうして?」
(あれほど、王太子殿下のことがお好きだったのに)
「わたし、今度の人生は絶対に王太子様と関わらないって決めたんです。お願いします。それに、わたし、………… 」
だけど、ダニエルのことだから、きっと明日にでもまた誘いが来る。
「それで、ご相談なんですけど、少しでもいいので、明日もお時間をいただけますか?」
次の日、ミモザはダニエルからの呼び出しに応じた。
「あなたたちは、古くからのご友人、と伺ったが本当なのか?」
「はい、もちろんです。ご紹介します。ねえ、ミモザ様」
「お初お目にかかります、ミモザ・スコットと申します。わたしの大好きなアケーシャ様の婚約者でもあられる、王太子様にお会いできて光栄です」
「はじ、めまして……」
ダニエルは戸惑いを露わにした。
(きっと、初めてじゃない、と仰りたいんだわ。でも、今日初めてお会いしたってことにしなければ)
ご相談、とは、ダニエルに会う時は、アケーシャにも一緒にいて欲しいということだった。せめて、最初だけでもいいから、とお願いしたのだ。
「あなたたちは、何をきっかけにお知り合いに?」
「ミモザ様とは、乗馬を共に嗜む仲間として知り合いました」
ミモザからは、刺繍仲間というのはどうか、との提案を受けた。それをアケーシャは全力で拒否した。容易に嘘がばれてしまうだろうから。
他の共通点を探した結果が、乗馬だった。
「そうか……」
ダニエルは、毎回言ってきたあの言葉をミモザに言わない。アケーシャの手前、言うことができなかったのだ。
「わたし、王太子様とアケーシャ様の美男美女カップルが、本当に憧れなんです。だから、とっても嬉しいです。わたし、お二人のことを精一杯応援しますから。だから、もちろん浮気なんて絶対に許せませんし、アケーシャ様を悲しませることだって、わたしは絶対にしません」
「ミ、ミモザ様、突然何を仰られているの!?」
突然のミモザの宣言に、頬を赤く染めたアケーシャが狼狽えた。その姿を見たダニエルは驚きを露わにした。
「あなたでも、狼狽えることがあるんだな」
「はい、狼狽えることばかりです。いつもは必死で取り繕っていますから。お恥ずかしい限りです」
「アケーシャ様、とっても可愛いです。王太子様もそう思いませんか?」
「……ん、まあ、そうだな」
「ですって、アケーシャ様!」
「もうっ、ミモザ様ったら!!」
それからは、ダニエルと会わなければならない時には、必ずアケーシャと共に会った。
時々、一人でいる時を見計らって、声をかけられることもあったけれど、不敬でもいいからと、逃げるように去った。




