表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/59

アケーシャの叶わぬ恋と時戻り -01-

「また、殺されてしまったのね……」


 愛着のあった自分の部屋で目が覚めたことで、アケーシャは確信する。正確には“10歳の自分“の部屋、だけど。


 斬首刑、毒殺。どちらも、公爵令嬢アケーシャ・ヴァンガードの死因だ。


 アケーシャは、二度死んでいる。

 そして、人生を二度やり直している。


 きっと今回も同じ。これから三度目のやり直しの人生が始まる。


 自分でも信じられない話だと思っているし、誰も信じてくれないことは分かっている。

 もちろん誰にも言ったことはないし、こんなこと言えるはずがない。


 だけど、それは現実に起きている。


 だから、今度の人生こそは、“彼”が幸せになってくれればいいな、と真っ先に願った。




 ******




 1st life



「あなたとは、絶対に幸せにはなれない」


 目の前にいるその人に、突如として突きつけられたその言葉に、アケーシャは言葉を失った。


 知情の縺れによる別れ話の最中ならまだ良かった。だけど、違う。

 今まさに、婚約の儀の真っ最中だというのに。


 その言葉の主は、アケーシャが住むウォーレス国という島国の王太子、ダニエル・ド・ウォーレス。


 一瞬にして目を奪われてしまうほど、美しく整った顔立ちと宝石のような金色の瞳に、心ときめかない者はいない、とまで噂される高貴なるお方。


 もちろんそれは、アケーシャにとっても例外ではなかった。


 透き通るほど白い肌は紅潮し、爪の先まで一気に熱を帯びる。

 あり得ないほどの速さで、胸の鼓動が早鐘を打ち、ドクンドクンと、しんと静まり返っていた二人きりの部屋に鳴り響く。


 もう無理、と思いながらも、隠しきれないそれらを必死で覆い隠し、ダニエルと向かい合わせに立った。


 今この部屋には、アケーシャとダニエルしかいない。王位継承権を持つ王族との婚約に際し、必ず行わなければならない決まり事があるからだ。


 そして、その決まり事を為そうとしていたところで、一気に奈落の底へと突き落とされた。


(な、何を……)


 何を言われたのか、理解が追いつかなかった。それなのに、容赦なく、さらに想像を絶する言葉が投げつけられる。


「だけど、婚約は結ぶ」

「……あ、あのっ、仰られている意味が、よく分からないのですが?」


 本当に、全く意味が分からなかった。


 どうして、幸せになれないと分かっている人と、婚約をする奇特な人がいるのだろうか。

 たとえ、政略結婚だから仕方がないとしても、どうしてそれを相手に告げるのだろうか。


 ダニエルが口にする言葉の全てが、アケーシャの頭を酷く混乱させた。


「意味などない。あなたに対する気持ちもない」


 その声は、全くと言っていいほど感情がこもっていない。冷たさも温かさもなく、ただ単調に事実のみを告げる。


(落ち着け、私。きっと何か理由があるはずよ)


 平静を保とうとするその意に反して、身体が小刻みに震え始めた。スカートをギュッと握りしめ、どうにか震える声を悟られないように、言葉を絞り出す。


「この婚約は、今すぐにでもやめるべきです」

「それはできない」

「どうして、でしょうか? 絶対に、絶対にそんなのおかしいです」

「王家の決定事項だからだ。ただ、それだけだ」


 王族の血を引く王位継承者の証でもある金色の瞳は、アケーシャを一度も映さない。ちらりとも見ようとしない。


(まさか、本気で仰っているの?)


 一瞬にして血の気が引いた。


 同時に、反抗する子供のようなその態度に、なぜだか揺るぎない意思の強さを感じてしまい、得体の知れない不安だけがアケーシャを支配する。


(幸せになれないと分かっているのに婚約をして、好きや嫌いどころか、何の情も持てない私と結婚をするってこと?)


 涙が零れ落ちそうになるのを堪えるだけで、精一杯だった。握り締められたスカートは汗に濡れ、皺くちゃになっていた。

 ぐっと奥歯を噛み締めると、もう逃げ出したい、と心が悲鳴を上げた。


 だけど、そんな矛盾したことが罷り通っていいわけなどない。逃げ出すことなど、アケーシャにはできなかった。


「そんなの絶対に間違ってます。幸せになるために結婚するべ……」


 その瞬間、乱暴に口を塞がれた。アケーシャの生まれて初めてのキスで。


 重なり合ったのはほんの一瞬。すぐに唇は離され、そして、ダニエルはそのまま部屋を出て行った。


 一度としてアケーシャをその瞳に映すことなく、バタンッ、と乱暴にドアは閉められた。


 一人、部屋に残されたアケーシャは、ただ呆然とその場に立ち尽くした。あまりに衝撃すぎる突然の出来事に、声も涙さえも出なかった。


 数分前までは、幸せな未来を夢見て、胸が高鳴っていたというのに。こんなことになるなんて、これっぽっちも思っていなかったというのに。


 だけど、それは全ての始まりにすぎなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ