4話 伝説と自分
店から出て、エルシー行きつけの武器屋を案内してもらった。
「ここが、私の行きつけの武器屋よ」
まさに、ゲームの世界の武器屋みたいだ。
看板には斧が二つクロスされておりいかにも武器やと言った雰囲気を醸し出している。
「へい、いらっしゃい! お、嬢ちゃん! 久しぶりだな〜。また、オーダーメイドの銃が必要になったか? 」
野太い声に、スキンヘッドで顔のパーツがしっかりしているこのおっさんは筋骨隆々で日々武器を作っているせいか強そうだ。
「ちがうのよ、おじさん! 仁にこの街の案内をしてるの! 」
「そうかい。じゃあ、嬢ちゃんの隣にいるのが仁かい? 」
「うん!」
「鏡 仁です。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくな!」
気さくなおじさんだ。
僕としては余り得意じゃないタイプの人間だ。
だが、この際そんなことなど言っている暇はない。少しでもこの世界に慣れなければならない。
「それよりエルシー、武器をオーダーメイドすることができるのか? 」
「そうよ。この店の武器の品質がこの街で一番いいんだから! 」
「嬉しいこと言ってくれるね〜」
褒められたことでつい嬉しくなったのかツルツルの頭に手を置きながら照れたように武器屋のおっさんは言った。
「それと、エルシーは銃を武器にしているのか? 」
「あ、言ってなかったね。私、役職がガンナーなの! 」
エルシーの役職はガンナー。
この時の僕は初めて知った。
「そうだったのか!それと、この世界にはどのくらいの役職があるんだ? 」
僕はまだこの世界の役職について知らない。
知らない事を知ろうとする好奇心からつい聞いていた。
「なんだあんちゃん、知らないのか? 」
「はい。冒険者になりたてなもので」
「じゃあ、俺が教えてあげるよ! 」
どうやら、この世界には9つの役職が存在する。
一つは武闘家。次に剣士、ガンナー、ランサー、弓師、魔法使い、盾、女神
最後に市民(冒険者)だ。
役職と言っても多種多様で協力プレーで魔物を倒す時なんかは大体ほとんどの役職が揃うらしい。
まあ、本当の強敵の時だけだが。
「なるほど、では、女神は神扱いでいいんですか? 」
「厳密には神扱いではない。女神は仲間を癒す存在だからな」
なるほど、ヒーラー的な存在か。
「では、神は存在しないということですか? 」
「役職で神様という存在がいたという伝説は聞いたことがあるぞ! 」
「どんな伝説なんですか?」
「それはな……」
遥か昔、魔王と戦っていた英雄がいた。その英雄は他の役職とは違いただの市民だった。
しかし、その市民は他の市民とは違い他の役職に転職することができなかった。能力など転職するには十分すぎる経験を得ていたのに出来なかった。
だが、その市民は諦めなかった。
そして、他人に対しても公平に接し、差別などはしなかった。
すると、その市民にある希望の光が現れた。それと、同時に、自分にも力が欲しいと
願った。
ただ、力を手にしたことで、その市民は豹変した。己の力に支配されてしまったのだ。
そして、魔王を従えるようになった。噂なんだが、神には仲間がいなかった。
つまり、自分だけの独りよがりがことをすすめた原因なのではないかと言われている。
この話を聞いた僕は、まさに、今の自分のようだと感じた。
しかし、今の自分が本当は神様なんです。なんて、言えたものではないのでそこは黙っていた。
「いい話を聞けました。ありがとうございます」
「そうか。そりゃあ、良かった! 」
「それより、あんちゃんの役職は何だ? 」
「市民です」
「転職しなかったのか? 」
「したかったんですが、できなかったんです」
「それは、残念だな。でも、あんちゃんも神になる素質があるのかもしれないな〜」
知らぬが仏。
本当に自分が神だなんてやっぱり言えなかった。
「ありがとうございます。とりあえず、武器は何がいいですかね? 」
「ん〜。触って選んでみな。触ると、武器が反応してくれるから」
「では、触ってみます」
「ゆっくり、反応をみなよ」
しばらく触って反応を感じていた。
ビリビリというか何か電気的な振動は感じるものの剣や刀、その他この店にある全ての武器に拒否された。
いや、これは武器に嫌われ、拒絶されたと言うべきだ。
「これは驚いた! こんなことがあるんだな」
武器屋のおっさんもこんなことは初めてのことらしく、驚きを隠せず、呆気にとらわれていた。
しかし、武器に拒否されたでは済まない。
この先、僕は敵との対峙ができないし、ゲームのようにお金も稼ぎにくくなる。
それでは困る。
「どうやって、魔物と戦えばいいんですかね? 」
「まぁ、武器がすべてではないからな。色々な戦闘手段を探してみつけな! 諦めなければきっと希望が見えて来るからな! 」
「わかりました! 」
「仁、大丈夫だよ! 私も手伝うから!」
「ありがとう、エルシー!」
エルシーは僕を励まそうと優しい言葉と優しい目で訴える。
こうして、武器屋をあとにした。
いい話や自分についても何となく理解でき
たことがあったからそれはそれで良かった。
そして、次は装備屋だな。
流石に武器が無しは悲しいが装備が無ければ敵との戦闘で即死になってしまう。
ようやく、異世界に来た主人公感がでてきた。
色々と一から覚えていき、知識がついてくるのは結構、楽しい。
さ、次は、何を知ることができるのか?
僕は武器に嫌われていても、ワクワクしていた。