2話 出会いと仲間
さて、とりあえず初めに何をすべきか。
というより、まずは異世界にありがちな集会所に行って情報収集からだな。
情報を多く知るにこしたことはない。そして、何より現状の把握が最優先だ。
僕はとりあえずこの街の建物の配置は分からないが自動翻訳でかろうじて文字がわかる
こともあり、トコトコと集会所を探し始めた。
集会所に到着した。
ここが、集会所か。
集会所は加工された石と丈夫な木で造られており、建造されてから時間が少し経っているのか木の色が変化していた。
カランカランとドアを開けると音が鳴る。
中に入ると集会所はやはり、人がたくさんいた。
しかも、大体の人間はしっかりとした装備や武器を着用している。
さすがは冒険者だな。
さてまず、誰に声をかけようか。
無言のまま集会所の入り口付近でチラチラと冒険者を見ていた。
あたりをさがしていると、ちょうど、食事スペースに1人のおじいさんが座っているのを発見した。
僕はそのおじいさんのもとに歩き声をかける。
「あの〜、少し聞きたいことがあるんですが、お時間よろしいですか? 」
すると、おじいさんは快くうなずいてくれ
た。
「早速なんですが、ここは何という所なんですか? 」
RPGゲームなんかでありがちなセリフだ。
僕の質問に優しい声でおじいさんは答えてくれた。
「ここはじゃな、サーフェリアルという街なんじゃ。この世界のどの街や国よりも群を抜いて安全なんじゃ」
「なるほど」
ここは、サーフェリアルという街。
つまり、他にも街や国があり現世のような感じと思っていい。
「あぁ〜、そうじゃ。他に聞きたいことはないのか? 何でも答えてやるわい」
中々に親切なおじいさんだ。
「では、ぶっとんだのをひとつ。魔王はいますか? 」
これも、ゲームでありがちなセリフだ。
「いるにわいるがのぉ〜。今は魔王よりも厄介なのがいてのぉ〜」
魔王より厄介?
なんだそれは?
頭の中にクエスチョンマークしかよぎらなかった。
「何なんですか? それは」
「神様という存在じゃ」
「えっ......」
僕はこのおじいさんの一言に意味がわからなかった。
神様って、僕が天使アリアから言われた役職だ。
もしかして、僕が厄介な存在?いや、違う、僕が来る前からいるはずだ。
まさか、神様が二人存在する? な、のか?
「驚くのも無理はない。神は遥か昔、この世界をおびやかしていた魔王や天災から救う役目を果たす存在。つまりは、救世主じゃったんじゃ」
僕の予想通り、やっぱりだった。
神様は前から存在していた。
「ではなぜ、その神が厄介なんですか? 」
「それはの、その神が己の強さを知ってし
まったからじゃ。つまり、魔王や天災をもくつがえす強さを知り、この世界の秩序が根底から簡単にくつがえされてしまったんじゃ」
己の強さ?
よくわからないがまぁ、いい。
「では、神が襲ってくるんですか? 」
「いゃ、神自身ではない。神は魔王の味方。つまりは、魔王を配下にし、人間界を襲わせ、それを、上から眺めているんじゃ」
よくあるパターンだ。
上の奴は何もせず、何か問題が起きるまで高みの見物。そして、問題が起きればトカゲのしっぽ切り。中々、悪質な事をする神様だ。
「そういう事なのか。では、そもそも、どうやって神は誕生するのですか? 」
僕みたいに転生なのか? ふと、疑問になった。
「神は本来、善良な人間からしか誕生しないんじゃ。そして、善良だけでなく、適度な無関心さが必要なんじゃ」
結構微妙な条件だな。
思わず、言っしまった。
「あまりに微妙な条件ですね。じゃあ僕でもなれるのかな? 」
「神は誰でもなれるわけではないが、市民という役職からなれると聞いたことがあの〜。そして、今の神も市民だったはずじゃ。なれないわけではないと思うぞい」
僕は興味深い話を聞いたのかもしれない。
僕はもしかして、役職が神様になる時が来るのかもしれないと思った。
「そうですか。あ、最後にひとついいですか? 」
「かまわんよ」
「では、市民でも冒険者になって魔王討伐はできますか? 」
「あぁ、できるぞ。市民は自由だからぉ〜」
冒険者は自由といわんばかりのありふれた言葉は。
それにしても、おじいさんは親切で信頼できるような情報を持っていることが感じられた。
「それが聞けて良かったです。おじいさん、ありがとうございます。最後に名前を聞いてもいいですか? 」
「かまわんよ。わしは、元王宮騎士団長ナバル・ガリアスじゃ」
このおじいさんが元王宮騎士団長......。
そんな風には見えなかった。
僕はすごい人に声をかけてしまった。
このおじいさんの容姿からは全く元王宮騎士団長というものを感じられなかった。
これが、この人の実力なのではとこの時の僕は思った。
今更だが、このおじいさんには隙が感じられない。
どうやら、言っていることは本当のことらしい。
「えぇ〜......マジですか⁉︎ 」
「あぁ、そうじゃよ。剣の腕では、わしの前に出るやつは誰もいなかったわい。だが、歳とともにそれも机上の空論になったがの〜。オホホ〜っ」
剣士なのか。
どんな腕前なんだろうか。
僕は少し気になった。
「そういえば、お主の名前を聞いてなかったの〜。教えてくれぬか? 」
「あ、すいません。申し遅れました。僕は鏡 仁といいます」
「そうか、いい名をしとる」
名前で褒められたのは初めてだった。
僕は絶対にナバル・ガリアス元王宮騎士団長の名を忘れることはないだろう。
「そうですか、ありがとうございます。あと、今日は知らない事をたくさん聞かせていただき感謝しています」
「まぁ、冒険者になるならそこの受付で手続きをするといい。あと、その際に必要なお金じゃ」
「いいんですかお金を頂いても?」
ナバルさんが優しすぎる。
だが、逆に少し怖い。
現世でもお金の貸し借りはかなりの信頼を必要とする。それなのにこうもあっさりとは。
「かまわん、かまわん。楽しい時間を過ごさしてもらったお礼じゃわい」
お言葉に甘える僕。
「では、ありがたく頂きます」
こうして、情報とお金を手に入れ、受付に向かった。
「すいません、冒険者になりたいんですが」
「はい、では、あなたのカードを見せていただいてもいいですか? 」
「これですか? 」
「はい。では、あなたのカードを解析してなりたい役職を選んでもらいます」
「市民から変われるんですか? 」
「はい、可能ですよ。しばらく時間をいただきます」
ゲームではここでかなりいい役職をもらえてここにいる人達が盛り上がるんだよな。
やっぱ、神様ですかな。
わくわくが隠せない。
10分後......。
「お待たせしました。えー、鏡 仁さんが転職可能なのは......。大変、申し上げにくいのですが。市民です」
最悪だ。
役職に変化なし。
僕は口から漏れてしまう。
「えっ......。ただの市民ですか? 」
「いえ、ただの市民ではないです」
はい?
全く、この世界に来てからというものあり得ないような信じられないようなそんなことの連発だ。
「どういう事ですか? 」
「私どもも詳しくはわからないんです。ですが、能力値は全てMaxになってます。なので、レベルアップや経験を積むともしかしたら転職が可能になるかもしれないです」
転職か。
それができるならやろう。
僕はゲーマーでもあるので市民であることに納得し、早く転職できるようになろうと思った。
「可能性が少しでもあるなら、市民で冒険者登録をします」
「では、登録手数料をいただきたいのですが、異常事態の件があるので無料で登録させていただきます」
どの世界でも無料はいい響きだな。
「ありがとうございます」
登録を終えたが、ナバルさんにお金を返
さないといけないな。
「ナバルさん、無料で登録させてもらったの
で、頂いたお金を返します」
「だめだ、わしは仁くん、君にあげたお金だ。つまり、所有権は君にある。それと、その金で宿や食事、武器、装備に使いなさい」
優しいなナバルさんは。
僕は死ぬ前こんな優しくされた事は無かった。
「本当に何から何まで......。ありがとうございます」
心から僕は感謝する。
「では、君の冒険に幸あることを」
色々な情報を聞き、お金も頂いたことだし、次は、武器と装備、宿、食事だな。
そういえば、所持金はいくらだろうか。
調べると、金貨3枚だった。
この世界での金貨の価値がどんなものか調べなければいけないな。
しばらく、街を散策していると、もめているグループを見かけた。
よく見ていると、グループのメンバーの女性が追い出され、ひとりになって泣いているじゃないか。
なんだか、現世の僕のようだった。
あまりに、光景が似ていたのでおもわず声をかけた。
「大丈夫か? 」
「大丈夫じゃない。追い出された哀れな姿を見て笑えばいいじゃない! 」
笑えないな。
自分と同じ境遇の奴を。
また、口に出してしまった。
「冗談でも、笑えないな。僕も、前に悪口や陰口をいわれ、蔑まれた目で見られて孤独だったんだ。笑えるはずがないだろ! 」
「あなたも、大変なんだね」
「まあな」
「ねぇ、私をあなたの仲間に入れてくれない? 」
色々聞けるようなやつが身近にいるのも便利だよな。人をあまり信用をしない僕が珍しく受け入れた。
この時の僕は少し、変だった。
「わかった。じゃあ、その代わりなんだが、わからないことが多すぎるから、色々と教えてくれないか? 」
「いいわよ。私にまかせて」
「じゃあ、決まりだな。今日から、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくね。あ、そういえば、自己紹介まだだよね? 私はエルシー」
エルシーが仲間になってくれた。
エルシーは金髪で緑っぽい服を着たいわゆるエルフみたいな容姿と言えば分かりやすいだろう。
そんな可愛い感じの女性だった。
「僕は、鏡 仁だ。よろしく」
「じゃあ、仁ね」
「じゃあ、君はエルシーだな」
こうして、ふたりは仲間となり、見つめあってにこりと笑う。
そして、これから一緒に冒険をすることになった。