一年目、夏 おまけ
【一年目、夏 おまけ】
さて。このひと夏の思い出にはおまけがありまして―
数日後、江嶋さんからお客様相談室に謝罪と拝謝のメールが届きました。一連のクレームをあげた犯人が江嶋さんであること、その中には虚偽の内容が多分に含まれていること、先日までコンビニエンスストアを経営しており、売上不振のために閉店したこと。そして、首を括ってしまおうかと考え実行に移す所までいったが、縁あって命を救われたこと。丁寧かつ正直に説明されていました。
このメールが東DM、柳SVと私、そして東DMの上長である一ノ瀬ZMへ転送されました。それだけであれば何も問題ないですし、私も黙っていました。平地に波乱を起こすつもりはありませんでした。けれども転送されてきたメールに目を通すと怒りを通り越して殺意まで達しないものの殴り飛ばしたい衝動に駆られました。現職にしがみつきたいのか、上を目指した結果か、手柄を最大限にお披露目したいのか。こんなことが書かれていました。お客様相談室に寄せられたメールの初期対応によって人命救助につながりました、と。一体何を言っているのだと思いながらも、この時点でもまだ、黙止しているつもりでした。けれどもこの転送されてきたメールは、ちょっとだけ手が加えられていたのです。どうしてすぐにバレるような、つまらないことをするのでしょうか。先の3つに理由が含まれるのかどうか。江嶋さんの送信したメールから一文、削られていたのです。しかも最も重要な、柳SVへの感謝の一文が。柳SVの勇気と優しさを無下に消し去ることは許しません。
黙っていても良かったんですよ、素知らぬ顔をしていても。私が何一つ関わっていなければ、柳SVが関わりを拒んでいたならば、おそらくは無視していたことでしょう。お客様相談室を褒め称えるようなメールがZMから全SVに転送されたとしても、我慢できたはずです。
中程度の企業というのは便利で、多くの社員が会社の管理する個人アドレスを保持しています(それともこの会社は特別かな)。だから部署と名字が分かれば直接メールを送りつけることができます。たとえ日本中にありふれた名字でもね。別に脅迫じみた内容の物を送付したわけではありません。ただ、真実を伝えなさい、と。
まず、江嶋さんからのメールを転送するのであれば編集、削除したものではなく、全文を送付すべきである旨。江嶋さんに働く機会を提供したのは柳SVである旨。加えて命を救ったのは私、谷口であって、お客様相談室は見殺しにしたのだという旨。
私の依頼に際して対応が間違っていたとは思いません。けれども転送されてきたメールには、故意に真実をねじ曲げ用とする意図が、もしくは、自らの欲望のために事実を覆い隠しているように思えます。直接電話でお願いし、時間がありませんとん申し上げたはずですよね、山本さん、鈴木さん。訂正を要求致します。原文を転送して下さい。江嶋さんからのお礼はあなた方に向けられたものではないでしょう。
谷口は店勤務時代もそうっだったがSVになっても・・・という声が聞こえてきそうです。東DMあたりから連絡が入るかと思っていましたが、誰からも何の連絡もなし。ただ、山本さんと鈴木さんの名前は、お客様相談室から異動となっていました。原文が転送されることはありませんでしたけどね。
【一年目、夏 おまけ 終】