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死神の経営コンサルタント  作者: 遥風 悠
15/17

一年目、夏 ⑨

翌週の土曜日。かなり時間が空いてしまった理由も含めて、端的に説明しますね。本当はゆっくりじっくりしっかり話をした方が良いのでしょうけれど、集中力を要するんですよね、運転しながら透視するのって。事故でも起こしたらそれこそ仕事を増やすことになってしまいますもの、警察さんの。

 クレームを挙げたのは競合店の奥さん。その競合店は1ヶ月前に閉店しています。直営店として営業を継続することなく先日、取り壊しが始まりました。あくまで結果論ですが、うちのチェーンが競争に勝ち、潰す形となりました。売上げを奪ってしまったんですね。1店VS1店であれば営業不可能という所まで追い込まれなかったかもしれません。うちのリクルートの戦術と言いますか、会社の戦略なんですけれど、ピタリと当たったんですね。集中出店。他チェーンを囲むようにして新店を建設。偶然、その担当SVが柳さんと私だったのです。

 一期の契約年数は10年から15年。うちの会社は15年契約ですが、他社は10年が多かったと思います。期限がきたら契約更新か満期終了。簡単に言えば経営者としてお店を続けますか、それともおしまいにしますかということ。両者の合意が得られれば更新、異見が唱えられれば契約解除となります。まれに両者合意の上で閉店ということもありますが、これはよっぽど経営状況が悪い時。大抵の場合、10年もつことはありません。

 10年なんてあっという間ですよ。本部は何かあれば、例えば本部に逆らったり規則に抵触したりすれば記録を残します。主にDM以上の役職の仕事ですが。SVの言う事を聞かない、聞いても実行しない、打合せに応じない、内部情報を漏らす(特に仲の良い他店のオーナーに)など。その場その瞬間の感情もあるでしょうし、積み重ねてきたものもあるかもしれません。納得できないかもしれません。それでも、契約満期となればおしまいなのです。主導権及び決定権は完全に会社の物となります。

 たとえオーナーが病気を患って働けなくなってしまったとしても― 10年経ちました。お疲れ様でした。あとはこちらにお任せ下さい。無慈悲に聞こえるかもしれませんが、契約違反でも法律違反でもありません。


 10年前の今日、この地域で初のコンビニエンスストアがオープンしたのでした。




 「見つけた!いたっ。いましたよ!!良かった、まだ生きてる。間に合いました。」

車内から透視で発見した場所は柳SVの担当店。本職の職業柄、死を目前に控えた人間族を探すのは得意なんですよ。自宅に寄ったのですがいなかったので少々焦ってしまいました。

 トイレで首を吊ろうとしていました。行き場のない感情が引き金となった行動ですが、自殺については計画的です。今日である必然性がありましたから。自宅のPCアドレスが分かったので、その中身を調べさせて頂きました。ま~た叱られそうですけれどね。そこで遺書が見つかりました。決行の日は今日でなければならない理由も判明しました。


 トイレの扉、ノックはしません。緊急事態につきレジカウンターにいる従業員さんへの挨拶も飛ばしてしまいました。柳SVの担当店ですので私の顔は知らないとは思いますが、車を見られたらバレてしまいますね。

「あれ、SVの車が停まっているな、柳さんのナンバーじゃないぞ、別のSVだな。」ってな具合に。ま、構いませんが。それ所ではありません。戸を開けます。左手に握ってきた10円玉でガチャリ・・・と。さぞかしびっくりしたでしょうね。

 透視で中の様子を伺っていたのでヘゲモニーは私に。まさかまさに覚悟を決めた瞬間、施錠したはずの扉が開くとは思わなかったでしょう。想像していたのとは異なる形で頭の中が真っ白になってしまいましたかね。しばし思考を止めていなさい。

「何も喋らないでっ。ロープから手を離してゆっくりとそこから降りなさい。」

目を剥き、口をパクパクしながら訳も分からず、頭の整理もつかないまま指示に従ってくれました。取り乱して大声でも出されたら事だなと思っていましたが、都合の良い展開で助かりました。いざとなれば意識を奪うこともできますが、後々が面倒ですからね。ひとまずは間に合いました。

「江嶋さんで宜しいですか?」

「はい。」

「つい最近まで、この近くのコンビニエンスストアを経営されていましたね。」

「・・・はい。」

「ご同行願えますか、駐車場に車がありますから。」

「はい。」

なんか警察の人みたいですね。もしかしたら江嶋さんは私のことをそう思っているかもしれませんね。

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