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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生したらエコスフィアの中のエビだったけどそれでもハーレム化したい件

 それなりにシャレた部屋だった。

 家具はモノトーンで統一されていた。

 ただし掃除はされていなかった。


 床に男が倒れていた。

 白いシャツに黒いズボン。

 仮にたんすを開いても、いろどりなどは皆無であった。


 生前、男は強いストレスに苛まれていた。

 円形の脱毛は頭部だけでなく全身に及んだ。

(死因もたぶんストレス性のものなんだろうな。脳か心臓か覚えてないけど)

 かつて自分の体だった物を見下ろしながら、男は胸中でつぶやいた。

 男の亡骸を、真っ黒な飼い猫がむさぼっていた。

(しゃーないよなー。自分で猫缶を開けるとかできないもんなー)


 男の魂は窓辺にたたずんでいた。

 窓辺の机の上に置かれたエコスフィアの中に。

 密閉された球状のガラスケースに、四匹のエビと、水草と、目には見えないバクテリア。

 水草が出す酸素と、エビが出す二酸化炭素。

 食べられる葉と、肥料となる糞。

 それだけでこの世界は循環していく。

 餌やりも水換えも必要ない、手間のかからない生きたインテリア。

 男はその中のエビに転生していた。


 エビは一度にたくさんの卵を産むはずだが、親エビも兄弟エビも見当たらないのは、他のエビに食われたということなのだろうか?

 エビが増えすぎればケースの中の酸素が足りなくなって全滅するから、これも定めといえば定めなのだろう。

 男の目の前ではカップルのエビがいちゃいちゃしている。

 あぶれたメスエビが男に擦り寄ってくるが、男はスッと背を向けた。

 メスエビの本命がカップルの片割れで、そっちのオスエビの気を引きたくてやっているだけなのが見え見えだったからだ。

 転生したらモテモテになれるなんてウソだ。


(クロ……)

 男の死肉をむさぼる猫は、男の唯一の友達だった。

 男には、連絡が取れないからといって心配するような知人や親戚は居ない。

 家賃を自動で引き落とす口座には充分な預金があるので、大家が押しかけてくることもない。

 エアコンは高性能だから、近所の人が腐臭に気づくのもどれだけ先か見当がつかない。

 それまでクロは生き延びられるのだろうか?

 不健康な暮らしをしてきた男の肉なんかを食べて、病気になったりしないだろうか?


 クロがこちらに近づいてくる。

 おもちゃを見つけたような目をしている。

「クロ! 俺だ!」

 男は飼い猫に必死で呼びかけた。

 口を動かす。念波を送る。

 駄目だ。全く通じない。


 クロはエコスフィアの脇を素通りし、カーテンにじゃれつき始めた。

 いつも閉めっぱなしだったカーテンが開き、日光が差し込んでエコスフィアを直撃する。

 水温が上昇して、エビたちがパニックになって暴れ出した。


 男はエビたちを少しは涼しい水草の陰に誘導し、男自身はガラスの壁の真ん前に出て、クロを挑発するように激しく泳ぎ回った。

「ニャア?」

 やっと興味を引かれたクロが、前足でバンッとエコスフィアをはたいた。

 球状のエコスフィアは、しかし台座があるのでそう遠くまでは転がらず、男が期待した通りの位置で止まった。

 机の角。

 窓の外の太陽と、床に放りっぱなしにされた新聞紙との間に。


 新聞紙から煙が上がり、火災報知機が鳴り出す。

 炎が広がる前に駆けつけた消防隊は、男の遺体に戸惑いつつも、手際良く消火を行った。

 その際にエコスフィアは消防士のひじにぶつかって机から落ち、蹴飛ばされて机の下の奥の方へ入ってしまった。


 玄関から声が聞こえる。

 どうやらクロは無事に保護され、近所の猫好きおばさんに飼ってもらえるようだ。


 警察が来て、男の遺体を運び出す。

 事件性はない。

 机の下のエビたちには誰も気づかない。

 ほどなくして、室内は静寂に包まれた。


 エコスフィアの中では先住のオスエビが、水草が首に絡まって死んでいた。

 オスエビと仲良くしていたはずのメスエビは、さすがエビ、死者を悼む様子もなくすぐに男に擦り寄ってきて、もう一匹のメスエビとケンカを始めた。


 男はハサミつきの両腕で二匹を同時に抱き寄せた。

 ハーレムにしては数が少ない気もするが、そう呼べなくもないだろう。


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